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ワールド マーケティング サミット オンライン2021

世界の経営者・マーケターは今何を考えているのか?金言が次々飛び出たeWMSを振り返る

 フィリップ・コトラー氏を発起人とする、世界最大規模のオンラインマーケティングセミナーeWMS(ワールド マーケティング サミット オンライン)。今年、日本をはじめ世界各国の登壇者の多様性がさらに高まり、「マーケティングでより良い世界を」の理念を体現していた。本稿では同イベントアンバサダーの上瀧和子氏が、総まとめとして注目セッションのポイントを紹介していく。

社会、環境、経済の“トリプルボトムライン”を重視せよ

 日本のアンバサダーの中ではあまり注目されていないが、フィリップ・コトラー氏の絶大な信頼を得てワールドマーケティングサミットグループのCEOを務めるもう一人の顔は、カナダのサディア・キブリア氏。2019年のWMS東京では、若い世代の社会的影響力を発信するパワフルなプレゼンテーションで社会起業家精神「ソーシャルプレナーシップ」を提唱し、会場を圧倒していた(関連記事)。

 コロナ禍がもたらした変化に応じたソーシャルプレナーシップとして、サノフィがGSKと共同開発するワクチン候補を例に、競争から協力に移行している企業の取り組みを取り上げた。同様の例としてファイザーとビオンテック、そしてジョンソン・エンド・ジョンソンなどとの協力も挙げられる(関連記事)。

ワールドマーケティングサミットグループ CEO サディア・キブリア(Sadia Kibria)氏
ワールドマーケティングサミットグループ CEO サディア・キブリア(Sadia Kibria)氏

 キブリア氏は、社会的側面、環境的側面、経済的側面の3つの軸であるトリプル・ボトムラインを支えなければ企業は長期的な敗北に陥ると指摘(関連記事)。人間性の観点に立った経営が生き残りの秘訣と強調している。

 その事例として、ウォルマートやPayPalによる職の創出や給与の確保、FedExによる医療機器やマスクの供給、インドネシアの海岸から回収したペットボトルの廃棄物を再生ポリエステルに変換して環境負荷の低いファッションを実現するDanone AquaとH&Mの取り組みを紹介。そしてIBMやAmazon、マイクロソフトは顔検出技術を巡って、差別防止を目的とした警察機関への提供中止など、人道的なスタンスを表明していることにも触れた。

 キブリア氏は母の言葉として「自分が尊重されたければ、まずすべてのものを尊重しなければならない。人であっても自然であっても」と述べ「人生はパーパスとともに歩めば美しいものになる。地球をすべてのものにとって幸せな場所へ」とハートフルなメッセージを送った。

「変化一辺倒」のマネジメント潮流に警鐘

 コトラー氏も慕い、共著『The Five Most Important Questions You Will Ever Ask About Your Organization』も上梓したマネジメントの父、ピーター・ドラッカーにちなむGlobal Peter Drucker Forumの創業者、オーストリアのリチャード・ストラウブ(Richard Straub)氏は「継続が第一、変化は第二」と題して登壇。

 ドラッカーによると、CSRもESGも存在しなかった時代から、企業だけでなく医療機関、官公庁やスポーツ連盟、非営利団体などあらゆる組織のマネジメントは社会的文脈に則ったものだった。ストラウブ氏は今あえて変革一辺倒のマネジメント潮流に対し、知識を体系化して新たな知見を得るCognitive Approachに沿った「継続」の重要性を訴える。

 Global Peter Drucker Forum 創業者 リチャード・ストラウブ(Richard Straub)氏は『The Five Most Important Questions You Will Ever Ask About Your Organization』を示しながら講演した
Global Peter Drucker Forum 創業者 リチャード・ストラウブ(Richard Straub)氏は『The Five Most Important Questions You Will Ever Ask About Your Organization』を示しながら講演した

 同氏は「組織をマシンと同じだと取り違え、機械的に運営して人間性を見失うと機能しない」と述べ、表面的な数値やコストに振り回されない人間重視のIBMの調査姿勢を評価。IoTですべてがつながりテクノロジーが天文学的に成長する一方で、コロナとともに予測不可能性が高まるいわばポストVUCAの時代には、トップダウンの「知ってプランする(knowing and planning)アプローチ」から「経験してテストし学ぶ(experimenting, testing, and learning)アプローチ」への移行を提示した。

 コロナ禍で露呈したのは、ものごとには正解がない、という事実だ。そこでテクノロジーへの過信やテクノクラート(技術官僚)的なマネジメントの妄信に疑問を呈し、「人間は間違える、不可避な限界があるものであると再認識すべき」と述べる。「持続性が変化の根底にあるべき。人間性を最優先するデジタルヒューマニズムによって我々は個人としても全体としてもより良く回る社会ができる」と結論付けた。演繹的ながらまさに今日のSDGsが示す地球の持続性とつながる視点である。

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この記事の著者

上瀧 和子(コウタキ カズコ)

共同ピーアール株式会社 総合研究所(PR総研)副所長、テクノロジーリード。現SCSKのマーケティング、現ソフトバンクの広報に従事後、PR業界に転じ、テクノロジーとインクルージョンの知見を柱にグローバル企業のコミュニケーション支援、SDGs・ESG投資推進のシンクタンク運営にあたる。IABC(国際ビジネスコミュニケー...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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MarkeZine(マーケジン)
2021/12/16 08:30 https://markezine.jp/article/detail/37892

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