国内第5位、大規模市場の歴史とホワイトスペース
日本の美意識を貫く洗練で知られる星野リゾート4代目経営者、佳路氏は「顧客志向のマーケティングで、"違い”を作れ ~混乱したホテル業界への警鐘~」という邦題のもと、経営の死角に光を当てる変革の歩みを、英語で世界に向けて語り始めた。
佳路氏の曾祖父が長野県軽井沢で起業した今日の星野リゾートは、国内41ヵ所、中国やハワイなど海外4ヵ所で計51のリゾート施設を運営。5つのブランドならびにその他の個性的な宿泊施設、日帰り施設を手掛けている。
ブランドの1つ目は「星のや」。そのメディア露出の美しさに筆者も息をのんだ記憶がある。本社所在地にある星のや軽井沢は、1991年に佳路氏が引き継ぎ15年かけて再開発。日本の高級リゾートブランドとして、バリや台湾にも進出している。なかでも星のや東京は、大都市における日本旅館の成功モデルとして海外展開する上で重要な位置を占める。
2つ目は「界(かい)」。日本で400年かけて磨き上げられた食事、温泉、伝統、文化をワンパッケージで堪能できる旅館は、星野リゾートで最も人気の商品だ。300年以上の歴史ある伝統建築を全面改修し、新たに客室棟が加わった界 加賀など、日本のスパでありオーベルジュとして外国人観光客の人気も高い。
3つ目「リゾナーレ」は、12歳以下の子どもがいる世帯をターゲットにした施設。2001年に再建プロジェクトとして着手したリゾナーレ八ヶ岳は、当時の旅行業界ではニッチだった子育て層に照準を合わせる。800客室規模というリゾナーレトマムもファミリー層に人気だという。星野リゾートは子どもの声がうるさいと嫌がる風潮、節約志向の消費者を歓迎しない業界の慣習に着目し、ホワイトスペースに進出したのだ。
4つ目の「OMO」はビジネス、観光、インバウンド客と利用層の多いシティホテルに属する。星野リゾートでは一般的な全方位アプローチを捨て、都市観光層のみに注力。ビジネス層向けの商品開発が不要となる分を、シティツーリズムの新たなサービスへの投資に充てて差別化する。また、OMOブランド内で価格帯の異なるホテルに採番して数字でどの施設かわかるようにし、短期間にスケールメリットを生む戦略で成長している。
最後、5つ目となる「BEB」は、20代の若者向けの新ブランドだ。国内で5番目に大きいとされる旅行業界は通常、旅する頻度と予算が高いシニア層をターゲットにする。なぜなら20代は旅行への関心が低く、業界の常識が通用しづらいからだ。そこで星野リゾートは逆張りの発想で、後述する若手の旅行需要を掘り起こす。