アシックスが挑んだ経営のDX
創業70年以上の歴史を持つアシックスは、2018年から全社を挙げてデジタル化に取り組んでいる。その舵取り役を担うのが、同社のCDO/CIOを務める富永満之氏だ。
富永氏は日米のIT企業でキャリアを積んだのち、2018年にCIOとしてアシックスへ入社。2019年からCDOを兼任し、現在はボストンにある同社のデジタル拠点・ASICS DigitalのCEOも務めている。
アシックスが展開するビジネスドメインは、競技者向けのシューズやアパレルを開発する「アスレチックスポーツ」、一般コンシューマー向けのカジュアルラインを扱う「スポーツライフスタイル」、スポーツ施設などを運営する「健康快適」の3つ。カバー領域は多岐に亘る。
同社は「中期経営計画2023」において「デジタルを軸にした経営への転換」を目標に設定。また2020年に発表した「VISION2030」では、売上の90%を支えるプロダクトだけでなく、ファシリティやコミュニティ、そして多くのデータを活用しながら選手のパフォーマンス向上をサポートする考えを示した。
では、ここ数年で同社のビジネスはどう推移しているのだろうか。富永氏は「2015年以降、チャネルシフトが大きく進んでいる」と語る。それまでは全体の9割近くを卸経由の売上が占め、長らく5%を下回っていたECサイトの売上比率が2020年には15.7%にまで伸長。リテールの売上を合わせると、全体の3割を占めるまでになったという。
ランニングエコシステムを構築しマーケティングをデジタル化
チャネルシフトの動きを加速させているのがデジタル戦略だ。同社のデジタル戦略は3つの柱で成り立っている。
1つ目の「デジタルビジネス」では、最も注力しているランナー向けのビジネスをデジタル化。デバイスを活用した走行距離・スピードの測定機能や、レースのレジストレーションプラットフォームなどを提供している。
2つ目の柱が「デジタルマーケティング」だ。同社の会員プログラム「OneASICS」を活用し、パーソナライゼーションを促進してマーケティングの投資対効果向上を狙うという。
3つ目の「デジタルサプライチェーン」においては、SAPのアパレルフットウェアソリューション「SAP Fashion Management System(FMS)」を活用。グローバルでビジネスを展開するアシックスでは、ホールセール・Eコマース・リテールを統合するシステムによって、オペレーションの効率化とコストの削減を目指している。
デジタルビジネスとデジタルマーケティングの第一歩として、同社ではランナーとの接点に沿ったカスタマージャーニーを作成。どのような顧客がトレーニングからレース出場、リカバリーを経て再びレースにチャレンジするのかを把握し、最適なタイミングでランナーに必要なサービスやプロダクトを紹介していくという流れだ。
これら一連のコミュニケーションを実現するために、同社は「ランニングエコシステム」を確立した。ランニングエコシステムを構成するのはOneASICSと、同社が買収した2つのランナー向けサービス。2016年に買収した「ASICS Runkeeper(以下、Runkeeper)」はサブスクリプションモデルのアプリで、月間360万人のアクティブユーザーがスマートデバイスを通じ走行距離を測定・記録している。同じく買収した「Race Roster」は180万人のユーザーを抱え、4,000ものマラソン大会に参加登録が行えるデジタルプラットフォームだ。