世界に比べて“安い”日本。不足する「価格決定力」
バブル経済崩壊以降、日本の経済成長は停滞を続けています。諸外国と比べても、日本の物価や賃金はこの数年ほとんど上がっていません。100円ショップのダイソーは、アジアや北米、中東を中心に世界24ヵ国に進出していますが、多くの国では、100円を超える値段に設定されており、日本が最安値水準となっていることは驚きの事実です。
今や外食やレジャーなど様々なモノの価格が、世界に比べて日本は「安い」のです。
先行きが不透明で消費が増えず、価格競争によってしか競合他社と張り合う手段がない。その結果、収益が上がらない。この負のスパイラルこそが、日本企業が抱える深刻な問題です。
生産性を向上させるべく、実に70%以上の日本企業がDXに取り組んでいますが、収益向上につながらないのはなぜでしょうか。それは、生産性向上による利益を打ち消してしまうほどに「価格決定力」が不足しているためです。
これからの企業に最も必要なのは「価格決定力」
投資家ウォーレン・バフェット氏が投資を決定する際、重視する指標の一つに「企業の価格決定力」を挙げていることは有名です。
価格決定力があれば、新商品を開発するまでもなく、既存商品のプライシングから業績向上を図ることが可能です。また、業界全体の価格決定をリードし、不毛な価格競争に陥ることを阻止できるかもしれません。
なぜ、日本企業には価格決定力がないのでしょうか。日本のプライシングは、他のマーケティング要素に比べて大きく後れをとる分野です。これまで企業内で十分な投資が行われず、4Pのなかで最も未成熟な分野であると言わざるをえません。価格の決定フローも曖昧で、営業部でなんとなく決定されるということも少なくないのではないでしょうか。
マーケティング4Pのなかで未成熟な「Price」分野
これまで、日本企業がプライスに手をつけられなかったのにはいくつか理由があります。まずは、専門人材の不在です。マーケティングの4Pには、「Price」、つまり価格戦略も含まれていますが、マーケティング戦略を担うCMOは、基本的にはプロモーション主体の戦略家です。実際、CMOの多くは広告領域出身者であるという印象です。
プライシングは企業の命運を左右する重要要素であるにもかかわらず、日本企業の中にそれを専門に扱う部署がほとんど存在しないというのは実に残念なことです。プライシングは単なるテクニックではなく、戦略、組織、制度も合わせた非常に難度の高い取り組みです。専門の知識がないまま、価格決定力を上げるのは容易なことではありません。
二つめに、値上げを含む価格変更は、リスクをともなう判断でハードルが高いということです。下手をすると、「単なる企業都合の値上げだろう」と炎上しかねません。
消費者心理は「価格重視」から「価値重視」へシフト
しかし、日本全体でプライシングへの投資が遅れているということは、裏を返すと、そこで差別化を図ることができれば、企業競争力は飛躍的に向上するということです。
また、消費者の心理は着実に「価格重視」から「価値重視」にシフトしています。中身にはそれほどこだわりがなく、安ければ安いほど良いという「価格偏重型」の層は以前に比べて減少傾向です。一方、外食や旅行が制限される今、プチ贅沢として、多少高くても価値を感じるものを手に入れたい「こだわり志向型」が増加していることも注目すべき点でしょう。
価格決定力を上げ、効果的なプライシングが実行できれば、他社と差別化し、収益力を向上させることは難しくありません。