最初は「これでは、売れない。」と思った
椋林:店舗責任者として私に課せられたミッションは、店舗の黒字化です。そこで、まずは当時店長を務めていた女性に、このお店をどうしていきたいか? と尋ねに行きました。すると彼女は、「とにかく幸せになりたい」と言うんです。どういうことか話を聞いてみると、添加物の入った商品を販売しているという罪悪感から非常に大きなストレスを感じていること、世界には安心安全で素晴らしい理念のもと生産を行っている“オーガニック”の製品がたくさんあることなどを教えてくれました。
MZ:今でこそ「オーガニック」というワードは誰もが知っているものですが、当時は見聞きする機会も今と比べるとかなり少なかったかと思います。
椋林:そうですね。私がその時思い出したのは、1990年代後半から2000年代にかけてあった「LOHAS(ロハス)」の概念です。これに近いジャンルなのかなと思いましたが、正直なところ、「LOHASは売れなかった」という記憶が先行しました。
また、私も実際にオーガニックの歯磨き粉を買って試してみたんですが、まず値段に驚きました。1,000円出してお釣りはスタッフの飲み物代に……なんて思っていたら、1,260円もする歯磨き粉だったんです。さらに、使ってみると、これが泡立たないタイプの商品だったんですね。歯磨き粉の広告で謳われるような、爽快感やクリアな使用感とはまったく違っていて、「やはり、これでは売れない」と思いました。
一方で、ブランドの理念や地球環境に配慮されていることなど、その商品の良さは理解していきました。そこで友人に「このオーガニックの歯磨き粉すごいんだよ。海を汚さないし、地球との約束を守っているんだ」と話してみたら、「大丈夫?(笑)」と言われたんです。要するに、茶化されたわけです。
MZ:なんとなくその場をイメージできます。
椋林:ですが、その瞬間にオーガニックの最大の魅力に気づきました。もちろん、カラダへの働きもありますが、オーガニックは心に作用するものだと思い知ったのです。人、環境、未来にとって良い商品を使うことで自尊心が生まれ、その良さを誰かに伝えたいというマインドも出てくる。これをうまくお膳立てできれば、オーガニックのマーケットを作ることができるかもしれないと思い、今の「Cosme Kitchen(コスメキッチン)」の事業企画を考えました。
店舗は「売り場」ではない。Cosme Kitchenの原点にあるコンセプトとは?
MZ:そうして、Cosme Kitchenは始まったのですね。
椋林:ええ。Cosme Kitchenには「私のお部屋」というコンセプトがあります。これは、「自分の部屋にお気に入りのコスメを買い集めるように。商品を売るためでなく、この空間のために、いいものだけを揃えていこうよ」という考えを反映したものです。なので、僕たちは、店舗のことを「売り場」と言うことは、決してしません。
売場は「売る場所」と書きます。この考え方の下では、どうしても、商品を売ることが評価される流れになってしまう。「お客様にとっては3,000円のクリームでよかったのに、1万円のクリームをおすすめしてしまった」「今月のノルマまであと〇〇円だったから、高いほうの商品をおすすめしてしまった」といったことが生まれてしまうのが“売り場”です。そうではなく、僕たちは「私のお部屋」というコンセプトのもと、“あなた”にとって必要な商品をお届けする、という姿勢で店舗空間を育んできました。

そうすると、どんどん同じ考え方の人が集まってきましたね。「この街にも来てください」とリクエストされる形で商業施設から声がかかるようになり、徐々に店舗数が増えていったのです。
MZ:大きな出来事として、マッシュホールディングス(当時はマッシュスタイルラボ)傘下への加入がありました。
椋林:はい。2010年にXavelが倒産危機に陥り、Cosme Kitchenは露頭に迷うことになります。この時まだCosme Kitchenは赤字の状態でしたが、現在のマッシュホールディングスの代表である近藤広幸がオーガニックの市場に可能性を感じ、Cosme Kitchenを丸ごと受け入れてくれました。