PDCAを回す目的は「顧客理解」
満生氏はウェブ制作会社でフロントエンドエンジニアを経験したのち、2013年にマガシークへ参画。現在はUI/UXやSEO、ツールの活用など、サービスのグロースハックを推進している。
満生氏が所属するコンシューマーサイト事業本部では「MAGASEEK」と「d fashion」という2つのファッションECサイトを運営している。2サイトの改善プロジェクトに伴走するのがRepro。今回満生氏の聞き手を務めるのはReproのグロースマーケター・佐々木氏だ。
佐々木氏はまず、Reproで支援する際のサイト改善プロセスを次の図にしたがって解説する。
ステップ1では定性的に使いにくいところや、違和感がある場所を探索。佐々木氏は課題発見のポイントとして「量をこなすことと、KPIを整理し見るべきデータを明確にすること」を挙げる。
「最初に見るべきデータを明確にしないと、その後の仮説検証が思うように進みません。振り返りを正しく行うためには、ステップ1で課題や着眼するデータをしっかり設定することが重要です」(佐々木氏)
4ステップを繰り返しながらPDCAを回すにあたり「顧客理解」という目的を常に意識していたと語る佐々木氏。その理由を次のように続ける。
「自社のサービスを使っている顧客がどんな人なのかは誰にもわかりません。だからこそPDCAは『質』より『量』が重要だと考えています。対人コミュニケーションと同様、相手の人物像を一方的に分析するよりも、まずは話しかけて2、3回言葉を交わした方が相手のことを理解できるはずです。PDCAを回すにつれて顧客像がクリアになるのが理想的です」(佐々木氏)
検証でわかった、ポイントを使うより「貯めたい」ユーザー心理
先の4ステップに沿って、具体的にどのようなサイト改善を行ったのか。佐々木氏はd fashionにおける商品情報ページの改善例を紹介。同サイトがドコモ系のサービスであることを踏まえ「カート内でユーザーの保有ポイントを表示すれば、dポイントを貯めているユーザーの購買を後押しできるのでは」という仮説を立てた。
そこでABテストを実施したところ仮説は外れ、保有ポイントを表示したパターンはセッション単位でのCVRが低下。しかしながらセッション終了後も含むユーザー単位のCVRは向上したという。
「保有ポイントを表示することで『ポイントを使いたい』というユーザー心理が働くと予想していたため、意外な結果でした。そこで、ユーザー側にはポイントを『使い切りたい』というより『効率的に貯めたい』という意識が強いのでは?と考えたのです」(満生氏)
「ユーザー単位のCVRが上昇した点から、保有ポイントの表示が即時購入ではなく、dポイントが貯まりやすいポイントキャンペーン中の購買を後押ししたのだと捉えました」(佐々木氏)
検証結果を踏まえ、両社は「失効間近のdポイントを訴求することで短期的なセッションのCVRが上がるのでは」という新しい仮説を立てた。仮説に基づき期間限定dポイントの表示有無で比較を行ったところ、表示ありのカートページではCVRが約6%改善。一連の検証から「ポイントを最大限有効に利用したいと考え、基本的にはポイントを貯めつつ失効間際のものがあればどんどん使いたい人たち」という顧客像がクリアになった。
検証によって「dポイントを『保有していられるポイント』と『失効間近のポイント』に切り分けて考えられるようになった」と語る満生氏。今後は得られた示唆を他の施策に横展開し、シナリオメールやサイト上でも失効間近のポイントを積極的に訴求する予定だという。
仮説の言語化が肝!マガシークが進めるUI改善プロジェクト
マガシークでもReproが重視する4ステップに沿ったサイト改善プロセスと同様に、自社のUI改善プロジェクトを進めている。同プロジェクトにはディレクター、デザイナー、エンジニアがそれぞれ2名ずつ参加し、計6名体制でテストを実施。効果のあった施策から順次適用しているのだという。
「UI改善」という大テーマだけでは範囲が広すぎるので、満生氏はステップ1で「インパクトが大きい改善ポイントを絞り込むようにしている」と話す。たとえばページ内の購入動線や商品詳細など、比較的購入に近いポイントのほか、使用頻度が高い機能や経由CVRの高い機能などを優先的に改善していく流れだ。
「インパクトが大きいところから改善すると効果が出やすい上、ページや機能を絞って集中的に検証を重ねることでノウハウも溜まります」(満生氏)
インパクトの大きい箇所を変更する際、失敗した場合のリスクヘッジをどのように図っているのか。視聴者からの質問に対し、満生氏は「施策を大々的に検証するのではなく、全体の10%にだけ表示するよう配信ボリュームを絞ったり、影響が少ない日程を選んだりしています」と回答。またインパクトの大きさと着手のしやすさ、両者のバランスを見ながら改善ポイントを決めることもポイントだと語る。
ステップ2では改善案を検討。「あくまで案と割り切り、とにかくたくさんの意見を出すことに注力するのがポイント」と満生氏。その後、検証フェーズへ入る前に必ず「なぜこの施策を行うのか」という目的と仮説を言語化し、効果を測る指標も設計していると述べる。
「テストパターンの良し悪しを測ることはもちろん、ユーザーの理解を深めることが検証目的の1つでもあるので、仮説の言語化は非常に重要なステップだと捉えています」(満生氏)
クーポン帯の表記内容を改善しCVRの向上を実現
テストの完了後は結果の考察とユーザーインサイトの読み解きを実施。得られたノウハウはプロジェクトの運営メンバー全員に共有し、施策の横展開を検討するという。これらのステップに沿ってプロジェクトメンバーが実際に行ったのが、d fashionにおけるdポイントの訴求方法とクーポン表記の改善だ。
「d fashionにはポイントコンシャスなお客様が多い」と語る満生氏。商品詳細ページでも「dポイントが貯まる・使えるメリットを目立たせることで購入意欲が高まるのでは」という仮説を立て、施策を検証した。
検証の結果、あらかじめ計測指標に設定していた「経由受注」「カートイン」「お気に入り登録」の全項目において改善が見られたという。満生氏は検証を次のように振り返る。
「獲得ポイントの表示やポイント倍率アップを示す表示が購入の後押しになるとわかりました。また商品詳細ページにdポイントのロゴを入れることで、獲得可能なポイントがサイト独自のポイントではなく、広く使えるdポイントであることが伝わりやすくなるというのも、検証を通じて得られたナレッジの1つです」(満生氏)
次に取り組んだクーポン表記の改善では「クーポン帯の訴求文言によってCTRに差が出るのでは」という仮説のもと「実質送料無料」と、送料と同額にあたる「440円オフ」という表記違いのクーポン帯を2種用意。ABテストを行った結果「実質送料無料」表記のCVRが高く表れた。
「この検証結果から得られる示唆は、ユーザーが『440円の値引き』よりも『送料無料』にメリットに感じやすいということです。裏を返せば送料に高いハードルを感じているともいえるので、他の施策やキャンペーンを設計する際にも今回の示唆を活かしたいと考えています」(満生氏)
組織単位でUI改善に取り組むための3つのポイント
マガシークのUI改善プロジェクトについて、佐々木氏は「個ではなく組織としてPDCAを回す体制が敷かれている」と評価。組織単位で改善に取り組むコツとして、満生氏は3つのポイントを挙げる。
第1のポイントは、全員の目標に「改善に3割を充てる」旨を盛り込むことだ。UI改善プロジェクトでは、売上の向上や工数の圧縮へとつながる改善に対し、業務時間の3割を充ててアプローチすることを各メンバーのミッションに設定しているという。
第2のポイントは、サイト改善を職種横断型のプロジェクトとして推進することだ。改善項目はUIだけでなく、システムやSEOなど多岐にわたる。また施策単位においても、分析、デザイン、運用などの様々なフェーズが存在するため、1つの職種や部署で完結できることは少ない。だからこそ全ての職種をまたいで運用することが重要なのだと満生氏は強調する。
「職種横断型にするメリットとして、視点を増やせることも挙げられます。たとえばSEOの観点から追加したコンテンツがUIの観点では購入動線を阻害するなど、ある視点で見ると良い取り組みでも、他の視点では問題となる場合もあるのです。施策の良し悪しを多角的に判断する意味でも、様々な職種のメンバーを集めることは効果的だと考えています」(満生氏)
最後のポイントは、改善プロジェクトを「全員自走型」にすることだ。「トップダウンではなく『自ら考え、試す』を基本方針とすることで、改善の手数を増やせる」と満生氏は語る。
「検証には多くのリソースが必要となります。自分の職種に近いプロジェクトや、インパクトが小さいプロジェクトから参画してもらうことで、自ら考え改善できるメンバーを増やすのが狙いです」(満生氏)
ツール提供×プロの伴走で売上最大化を目指す
常に変化が求められるサイト運営において、検証と改善の繰り返しは不可欠だ。満生氏は次のようなメッセージを通じ、サイト改善およびサービスグロースを目指す担当者へエールを送る。
「一生懸命考えて試したのに効果が出ないこともありますが、ユーザーを理解する良い機会と捉えれば検証は無駄ではありません。そこから得られるユーザーインサイトはサイト運営を長く続けていく上で大きな財産となりますし、施策の精度向上にも役立つはずです」(満生氏)
一方の佐々木氏は、クライアントのサイト改善に伴走するパートナーの立場から、ツールとプロの力を借りることの意義を強調。Reproが提供する「コンバージョン最大化サービス」では「ツールにプロがつく」というキャッチコピーの通り、同社独自のマーケティングツールとプロフェッショナルチームによる人的支援を掛け合わせ、クライアントサイトの収益最大化を目指している。
「今日ご紹介したマガシークさんとのお取り組みのように、施策の策定から効果検証のプロセスまで我々が伴走型でサポートすることが可能です。外部ツールの運用代行サービスとは違い、弊社ではツールの提供も運用も一括で請け負うので、費用や工数の削減にもつながります。『ツールを使いこなせない』『社内リソースが足りない』と悩む企業様は、ぜひ一度ご相談ください」(佐々木氏)