SaaS市場の急拡大で、選定の悩み・負担が顕在化
「ITreview」は、アイティクラウドが提供するIT製品/SaaSのレビュープラットフォームだ。4,700以上の製品と6万件のレビュー(口コミ)を掲載しており、レビュープラットフォームとしては国内最大規模を誇る。
アイティクラウド取締役兼CSOの竹内氏は、まず「SaaS購買プロセスの変化」について概要を分析して語った。
アイティクラウド株式会社 取締役 兼 CSO 竹内 一浩氏
リクルートにて、キーマンズネット(B2B ITの選定サイト)の営業、商品開発などを担当。その後、アイティメディアに転籍し、Tech Target USのローカライズ、リードジェン事業の商品開発・販売責任者を務める。マーケティング組織立ち上げ、アライアンス推進など、様々な業務を経験したのち、アイティクラウド社のJVを起案。2018年、アイティクラウド株式会社の共同創業者として取締役副社長兼CMOに就任。2019年よりCOO、2021年10月より取締役兼CSOに。
SaaS爆発時代ともいえる現在。同社がアップデートを続けるBtoB領域のIT製品/SaaSカオスマップには、4,800を超えるツールが登録されている(2022年3月時点)。また富士キメラ総研『ソフトウェア新市場2021年版』の推定では、2020年度から2025年度までのCAGR(年平均成長率)は13.3%と、さらなる成長が見込まれている。
市場が急成長しツール数が増えていくなか、企業担当者が選定において悩みを抱えるケースが出てきているという。
「我々の調査によると、85%が悩みを抱えているという結果が出ています。その悩みとは、選択肢が多すぎる、選択基準に自信がない、上長への説明が難しい、決定に時間がかかるなどが多い現状です。多すぎて選べないという悩みが浮上しているのです」(竹内氏)
購買の決め手として、レビューの影響力が高まる
実はこうした問題はIT先進国として知られる米国で一足先に顕在化しており、課題解決の一つのヒントを、レビューに見出しているという。LinkedInとBtoBレビュープラットフォーム G2の共同調査では、95%がレビューを見てBtoBのツール選定をしているという。
「まったくレビューがないものと、5つのレビューがあるものを比較すると、約270%購買意向が高まるという結果も出ています。BtoBの領域でも、レビューを参照することが一般化してきている実態があるのです」(竹内氏)
日本においても、利用者の声は重要な要素となっている。同社の調査結果では、SaaS購買の決め手の1位は「利用者評価が高い」であり、特に非IT分野の大・中堅企業でこの傾向は顕著だった。
竹内氏はこの結果を次のように分析する。
「考えてみると、これは当たり前の流れとも言えます。BtoC領域では、たとえば本ならばAmazon、旅行ならじゃらんや楽天、飲食店なら食べログのような口コミが見られるツールがよく使われています。この流れがBtoBのSaaSにも来ているということです」(竹内氏)
顧客の声を起点としたマーケティングをいかに進めるか?
購買シーンにおいて顧客の声が重視されている現状を踏まえ、注目されているのが顧客の声を起点としたマーケティングだ。SaaSにとって重要なカスタマーサクセスを実行し、そこで得た顧客の声を、見込み顧客に届ける。この仕組みを作ることが、マーケティングの肝となる。加えて竹内氏は、経営やプロダクト開発にも顧客の声を有効活用していく必要があると述べる。
「お客さまからいただく声の中には、良い評価もあれば、良くない評価や競合と比較してどうかといった耳の痛い声もあがってくると思います。こういった声はセールス、マーケティング、カスタマーサクセス部門だけに閉じるのではなく、経営層も積極的に把握し、適正にバリュープロポジションを定義していく必要があります」(竹内氏)
実際にITreviewの利用企業は、幅広い用途で顧客の声を活かしている。一つはブランディングや広告最適化への活用だ。たとえばITreviewが主催するアワードの結果をリリースに掲載し、見込み顧客へ提示することが可能だ。また、ある企業が口コミ評価を掲載したリターゲティング広告を配信したところ、資料請求数が通常の3倍に増加した。
また、レビューの分析を通じて競合と比較した自社の優位性をあぶりだし、コンテンツマーケティング、セールスのマテリアルとして活用している企業もある。中立的な第三者プラットフォームに投稿されたレビューであるため、見込み顧客が上長へ説明する際に役立ててもらうこともできる。
さらに進んだ取り組みとして、レビューをデータとして捉え、マーケティング・インサイドセールスの生産性を高める事例も増えている。具体的にはレビューを閲覧している人を検討が進んでいる人とみなし、彼らを企業規模で捉えてアプローチするという試みで、インテントデータの活用と呼ばれる。
日本進出直後からレビューを集め、事業成長につなげたON24
続いて、ITreviewのユーザーであるON24(オン・トゥエンティフォー) シニアマーケティングマネージャーのコクラン久美子氏にインタビューする形で、活用事例が紹介された。
ON24は、マーケティングDXを支援するクラウドベースのデジタルエクスペリエンスプラットフォームだ。ウェビナーやオンラインイベントを通じてエンゲージメント高め、そこで得られたデータを基にパーソナライズしたり、より適切なエクスペリエンスの提供につなげていくことができる。サンフランシスコに本社を持ち、20年以上にわたり北米、ヨーロッパ、アジア太平洋地域などでサービスを展開してきた。
同社は2020年11月に日本法人を開設し、2021年9月からITreviewを導入。米国本社でもレビューサイトを活用しており、バイヤー行動全体がデジタルで完結している今だからこそ、日本でもレビューを活用すべきと考え、導入に至ったそうだ。当初は日本における認知度不足を解消することや、他の先進諸国に比べ、BtoBマーケティング自体があまり成熟していない中、自社プロダクトの価値を伝えていくことなどを、重点課題としていた。
同社は導入開始からわずか半月で、30件以上のレビューを獲得。ITreviewがレビューを基に顧客満足度の高い製品を選定する「ITreview Grid Award 2021 Fall」では、「ウェビナー」と「動画配信プラットフォーム」カテゴリで「Leader」を受賞、「イベント管理」では「High Performer」を受賞した。また現在は、5点満点中「4.5」を獲得し、ITreviewカテゴリーレポート2021 FallおよびWinterの「ウェビナー」「動画配信プラットフォーム」にてNo.1の顧客満足度となっている。
ON24はどのようにして、導入開始直後からレビューを集めていったのか。コクラン氏はいくつかの理由を明かした。一つは、日本法人のあるグローバル企業、もしくはグローバル展開している日本企業がすでにON24を活用しており、価値を実感していた担当者が投稿してくれたこと。加えて、顧客へのレビューの依頼を営業メンバーが担当するなど、社内から強力なバックアップがあったという。
インタビューなどと比べ、顧客の協力を得やすいメリットも
製品に対するレビューは、他の施策と比べて顧客の協力を得やすいという強みもある。たとえば、BtoBマーケティングで代表的な「導入事例」の制作は、関係部署への連絡、承認のプロセスが長く、時間がかかりがちだ。一方レビューの投稿であれば、ハードルはぐっと下がる。実際にON24もこの点に着目してアプローチした結果、短期間で多くのレビューを集めることができたそうだ。
ON24は現在、レビューの力を様々な面で実感しているという。特に「ITreview Grid Award 2021 Fallでの受賞をきっかけに、問い合わせが増えた」と、コクラン氏。第三者機関からの評価だからこそ顧客の目に留まるということが、このケースにおいてもうかがえる。
現在は、これまで集めたレビューで指摘された改善点をまとめて、プロダクトチームと共有し、製品開発の材料にすることも構想しているそうだ。コクラン氏は「レビューを増やす活動に引き続き取り組みながら、今後はインテントデータの活用も進めていきたいです」と展望を述べた。
顧客の声を起点にした成果創出をサポート
竹内氏は次の3点に触れて講演を総括した。まず、SaaS購買者は、増えゆく選択肢で何を基準に選定するか迷っていること。選定の手段として、透明性と信頼性の高い「顧客の声」を重要視していること。そして、アメリカでも日本でも、SaaSベンダーは「顧客の声=レビュー」を起点としたマーケティングを開始し、様々な点で成果を創出していることだ。そしてITreviewは、その実現を力強くサポートする。
竹内氏は「当社ではレビューの活用方法や様々な事例を、知見として蓄積しています。今回のお話が少しでも皆様のビジネスのヒントになれば幸いです」と講演を締めくくった。