デジタル上での情報収集を好むBtoB購買担当者
アドビのDXマーケティング本部でマーケティングマネージャーを務める松井真理子氏は、セッションの本題に先立ちデジタルの浸透がもたらすBtoBマーケティングへの影響について解説する。
松井氏は、フォレスターが2019年に行った調査結果を紹介。BtoB購買担当者の92%はWeb検索から購買活動を始めており、デジタル上での情報収集を好む担当者の割合は68%を占めていたが「2020年に生じたデジタルシフトの波が、このトレンドをさらに加速させた」と語る。
次に松井氏は、バイヤージャーニーの変化を図とともに解説。従来は購買担当者が調査や資料請求を行った段階から営業がコンタクトを取り提案を行っていた一方、現在は購買担当者が自ら調査・評価する期間が長くなっているという。この変化を踏まえ、松井氏は「情報を求めている顧客にどれだけ信頼性の高い情報を提供できるかがマーケティングの勝負どころ」と強調する。
「購買担当者へ適切な情報を届けるために、営業とマーケティングの密な連携が求められています。しかしながら両者の間には高い壁が存在していることも事実です。たとえば『マーケティングツールの導入時に営業からの理解が得られない』『営業がデータの入力に非協力的』など、マーケティング担当者の悩みは尽きません」(松井氏)
インサイドセールスを営業とマーケターのブリッジ役に任命
BtoB領域のITコンサルティングとBPOサービスを提供するGLナビゲーションでは、まさに営業とマーケティングの連携に課題を抱えていた。そこで1年半をかけてセールスDXとインサイドセールスを導入したオペレーション改革に着手。結果として月商6倍、粗利10倍のグロースを果たしたという。同社の代表取締役を務める神田滋宣氏は、具体的な改革の手順を解説した。
第一に取り組んだのが「営業とマーケターの相互理解促進」だ。神田氏は、両者の考え方の違いを次のように説明する。
「マーケターは、売上の再現性や顧客のカテゴライズに関心を持っています。一方の営業は顧客との関係性や予算のほか、案件の緊急度など売上につながるラストワンマイルを気にする傾向があるのです」(神田氏)
両者の違いを踏まえ、神田氏はインサイドセールスをブリッジ役に任命。マーケターが立てた仮説に沿ってインサイドセールスがアプローチを行い、受注につながった顧客のインサイトを分析してマーケターと営業にフィードバックする。この徹底した“マーケ思考の営業”によって、営業とマーケターの間にある壁を取り払ったのだ。
第二に取り組んだ「レガシーな営業部長の意識改革」について、神田氏は「最大の課題でありポイント」と表現。テレアポによる新規開拓を基本とし、アポ取りから顧客フォローまでが営業の仕事だと考える人材業界出身のレガシー部長は、かつての神田氏だという。自身の意識改革を含めた1年半におよぶセールスDXの道のりを3つのマイルストーンに沿って解説した。
テクノロジーの導入とスコアリングの自動化で営業の活動量は4倍に
1つ目のマイルストーンは「テクノロジーの導入による業務効率の向上」だ。具体的にはスプレッドシート、Trello、SlackなどをZapierで連携し、SFAツールを自前で構築。さらに「Adobe Marketo Engage」を活用し、これまで手動で行っていたメール配信や顧客のスコアリングを自動化した。
「過去にSFAを導入して失敗した過去を持つ私は、システムを入れて本当に売上が上がるのか、そもそも高度なツールを使いこなせるのか、という不安を感じていました。しかしながら、リードが効率的に増えていく仕組みを整えたことで、営業が提案活動に多くの時間を割けるようになったのです。活動量は4倍に増加し、それに起因して売上も伸長しました」(神田氏)
2つ目のマイルストーンは「データドリブンな営業戦略の立案」だ。担当者の勘や経験に頼る属人的な営業スタイルから脱却し、型化・数値化・テクノロジー化を推進。具体的には、次のようなスコアリングロジックを組んだ。
また顧客の興味対象を探るためのスコアリングロジックも設定。コンサルティングの候補者案をメールで送信する際に、技術トレンドである「SAP」「PMO」「Salesforce」などのキーワードタグを埋め込み、開封やクリックなどのアクションに応じてスコアを付与するようにした。
神田氏はさらに、スコアと商談実績の組み合わせ別にアプローチの優先度を設定。商談実績のある顧客は優先的にアプローチするが、中でもスコアが高い顧客は確度が高いと見なし、リソースを割いて提案活動を行うようにした。
優先順位に沿って営業活動を進める中で、神田氏はあることに気づいたと語る。
「優先度の3と4は元々逆だったのですが、施策を打つうちに『実績なし×スコア0』を優先度3に繰り上げました。なぜかというと、実績がなくてスコアが高い方の多くは冷やかし程度の温度感であるのに対し、実績もスコアもない方、つまり弊社を全く知らない方は反応が未知数だからです。実際に優先度3の方へアプローチした結果、メールの開封が発生してスコアがつき、そこから問い合わせがくることもありました。データドリブンに施策を打ったからこそこうした知見が得られたのだと思います」(神田氏)
N対Nのダイヤモンド型体制で属人性を解消
3つ目のマイルストーンは「属人性の少ないスケーラビリティのある営業組織」だ。2つ目のマイルストーンで設定したスコアリングロジックやアプローチの優先度などを基に、誰でも同じように売上をつくれる体制づくりを目指した。そのために取り組んだことが、複数担当制による営業活動だ。
GLナビゲーションでは、1人の営業が1人の担当者とやりとりするリボン型の営業体制を敷いていた。この体制は「営業が退職・異動した途端、一気に売上が下がるリスクをはらんでいる」と神田氏。そこで自社と顧客いずれからも複数名の担当者が関与するダイヤモンド型の体制に変更したところ、多くのメリットが得られたという。
「ダイヤモンド型の組織体制では、営業担当Aに問題があったとしても営業担当Bから社内にレポートが上がるため、情報のブラックボックス化を防げます。 また急なニーズが発生して営業担当Aが電話を受けられなかった時に、直ぐBが架電してニーズを素早くキャッチアップし商談化に成功したことも。顧客の満足度も上がり、大きなメリットを感じることができました」(神田氏)
収益貢献度が高い顧客にリソースを集め受注率が8倍に
属人性の少ないスケーラビリティのある営業組織を目指すにあたり、経験が浅いメンバーの役割分担にも心を配る必要があった。そこで神田氏は未経験メンバーをインサイドセールスに任命し、顧客のセグメントに応じて担当部門を割り振ったのだ。
単価も利益率も高いTier1の顧客にはアカウントセールスが対応し、しっかりと関係を構築。Tier2の顧客にはインサイドセールスがチームであたるようにした。面談は組めるが案件へとつながらないTier3の顧客には人的リソースをかけず、Adobe Marketo Engageを通じたプッシュ施策で対応する戦略だ。この戦略によってどのような成果が得られたのか。
「チーム営業を重視し、1人の営業しか担当につかせてもらえない顧客をとにかく減らすよう意識しました。その結果、提案からの受注率がTier2以下と比較した場合に8倍高くなり、生産性を大幅に上げることができたのです」(神田氏)
マーケターは営業にとっての指揮者であり教育者たれ
神田氏は総括として、セールスDXの推進によって売上を伸ばすにあたり、マーケターが意識すべきポイントを3つ挙げる。1つ目は、営業の理解を得ることだ。「マーケターは営業の御用聞きではなく、営業のパフォーマンスを高めるための指揮者や、営業をマーケティング思考に育てる教育者として存在することが極めて重要」と神田氏。GLナビゲーションでは、マーケターによるアドバイスのおかげで営業がより高い数字を生み出せるようになったという。
2つ目のポイントは、インサイドセールスをマーケターと営業のブリッジとして育成することだ。神田氏は「マーケティング施策だけで売上を拡大するのは難しい」とした上で、第三者的な立場を設けることによってマーケターが営業の理解を得やすい状況をつくり、双方が合意した施策を打っていくことが重要だと述べる。
3つ目は、ナレッジを蓄積、浸透、進化させること。「マーケティング思考を持ったインサイドセールスが行動することでナレッジが蓄積される」と神田氏。ボトルネックから改善施策を考えて実行し、データドリブンに新たな実行計画を練っていく──この繰り返しでスケーラビリティのある営業組織をつくるという考えだ。
GLナビゲーションが活用するAdobe Marketo Engageでは、顧客が求める情報を最適なチャネルとタイミングで提供。神田氏は同ツールを中心とした組織に変革したことで、顧客体験を通してレベニュープロセスを加速させたのだ。フォレスターが行った調査によると、同ツールを導入・活用した企業のROI は267%になったという。
アドビのサイトでは、GLナビゲーションのほかにも多くの事例を紹介している。これらも参考に、営業とマーケが理解し合える仕組みづくりを検討してはいかがだろうか。
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