データの専門家集団が語る、ツール導入に必要な3要素
「今回はデータ分析やマーケティングオートメーション(以下、MA)、レコメンドエンジンといったツールを、どう組み合わせていけばいいのか? をお話ししようと思います」そう語るのはブレインパッドでプロダクトビジネスの責任者を務めている東氏だ。
ブレインパッドは2004年創業のデータ活用・分析に特化した企業。データサイエンティスト協会を立ち上げるなど、日本のデータ分析の基盤を築いてきた。また、日々増え続ける膨大なデータを取り扱う専門集団として、統合されたソリューションの提供を行っている。
今回はそんな同社の知見に基づいて、ツール導入にあたって必要な次の3つの要素を紹介する。
・ツール導入時の「戦術」「戦略」の認識を明確にする
・「いつ」「誰に」「何を」という場合も様々なパターンがある
・施策に関しての「顧客目線」「企業(施策)目線」の再認識
ツール導入後、ゴールが不明瞭になっている
「ツールの浸透自体はかなり進んでいると思います」と東氏は言う。
MAを既に導入しており、リプレースを考える時期に来ている企業もある。その中には、導入後に運用に焦点が当たり、ゴールが不明瞭になっているケースもある。たとえば、データの置き場所はあるのに自由に分析ができていない、One-to-Oneの施策を実施したいのにABテストやセグメント分けしかできていない、顧客の行動をトリガーにしたいのにワンショットのキャンペーンベースになっているなどだ。
「『理想の実現』よりも『自分が使えるか』の目線が多い印象です。どこに到達しようとしているのかゴールが抜けてしまっていることも多くあります」(東氏)
その理由の1つが、守りのIT目線になっていること。海外では売上や収益拡大のためのITと考えられることが多いが、日本では効率化やコスト削減の観点に立つことが多い。2つ目が、顧客観点データの不足。どうしても施策中心の目線になってしまい、企業の売りたいもの・やりたいことベースになりがちだ。
3つ目が、少し間違えたデータドリブン。データから良い結果が出てきて、そのまま意思決定ができると考えていないだろうか? 実際は仮説が先にあって、データを用いて正しいか検証していくという考え方が必要だ。
「守りの目線も非常に大事ですが、重要なのは競合優位性です」と東氏。消費者のスマホやパソコンには1日何十通というメールやメッセージが飛んでくる。その中でどうすれば他社に勝てるかを考えた時、自社都合でお知らせしたい内容を伝えるだけではやはり足りない。そこで、データを活用した戦術・戦略を持つ必要が出てくる。
戦術・戦略とは何か
「戦術のない戦略はファンタジーで、戦略のない戦術はカオスです」(東氏)
「戦略とは自社はどうあるべきかというマップ」であり、「戦術とは競争相手に対してどう勝つかの勝ち方」だと言い換えられる。戦略に基づいた戦術を、ITを駆使して実行し、顧客の行動を促すことで行動変容が起こり、優良顧客化した結果として収益が拡大する流れが理想だ。
どちらかが欠けたまま単純に施策を展開しても、未来の売上を前倒ししただけで焼畑農業のようになり発展性がない。
では、戦略・戦術の観点からツール導入をする際に、気を付けるべき点はどこだろうか? 東氏はパートナーやツールそのものではなく、役割を整理する重要性を訴える。
パートナーやツールには、それぞれの得意分野がある。あるべき姿を立案する戦略はコンサルタントが、ツールをうまく使う戦術面はベンダーや代理店、アナリストが強みを持つ。
データ分析ツールにはBIとBAがあるが、戦略の実行状況をモニタリングし現状把握するためにはBIによるレポートやダッシュボードが必要だ。MAや機械学習を活用して戦術実行の強化をするためには、BAによる予測や分類、解析を用いて「将来どうなるか」という観点を持たせる必要がある。
データ分析レポーティングツールをひとまとめに考えて、1つのツールで済ませようとしがちだが、使い方を間違えると大失敗につながることがわかる。
戦術強化の秘訣は「いつ・誰に・何を」するか
続いて、東氏は戦術を強化する方法に言及する。ここで登場するのが、「いつ・誰に・何を」するかの考え方だ。
「いつ」については、Googleが提唱するマイクロモーメントという考え方が最適だ。モーメントとは、人が何かをしたいと思ってデバイスで調べたり購入したりという行動を起こす瞬間のことであり、つまり、人が何かを買おうと思う瞬間だ。
「しかし、企業側のスケジュールやできる範囲で実行してしまうと、モーメントと関係なくメッセージを送り続けてしまうことになります。お客様のタイミングをうまく捉える必要があります」(東氏)
この、顧客のモーメントを捉えるために有効な方法が3つある。1つ目が鉄板シナリオの使用。MAツールでも鉄板シナリオが実装されているケースが多く、最も実施しやすい。クリック時・閲覧時・購入時・カートに投入してまだ買っていない時の施策はグローバルで効果が出ている。特にカートに投入した時は買う準備をしているタイミングなので、ここでオファーのメールを届けると良い結果につながる。
2つ目が機械学習の使用だ。大量のデータから機械学習を使って、たとえば来月買う確率が高い人は誰かを予測する。これも、一般的な機械学習でオーソドックスな方法として利用可能だ。
3つ目が、市場と顧客に聞くことだ。たとえば、購入後や入会後、誕生日などに満足度調査を行う。満足度が低いあるいは高い場合にメールを送るといい。また、SNSをモニタリングして、特定の商品が急に話題化した時も狙い目だ。顧客の内、同一の層へレコメンドを出すと反応が変わる。つまり、自社が持っていないデータからタイミングを計るのだ。
「誰に」には仮説が重要
「『誰に』は、セグメンテーションと顧客のスコアから考えます。そこには、ディシジョンできる仮説が必要です」(東氏)
戦術強化のための「誰に」対して行うかを考える際には、仮説が必要だと東氏は強調する。そしてここでも、鉄板シナリオが強力だ。
価格ダウンした商品を見たり買ったりした人、新商品の同じジャンルを見た人など、鉄板シナリオを導入すると「誰」と「いつ」がセットになっているため、非常に効率よくスタートできる。
機械学習についても、データを用いるため信頼性が高い。全100万人の内スニーカーを買う確率が高い上位5万人にメールを送るといったことができる。
また、数年間のデータを使う必要がある場合データ基盤が重要となるが、LTVで決める方法もある。LTVを算出するロジックを構築し、顧客の育成具合をモニタリングしていき、しきい値に達した人へ施策プログラムを実行するのだ。
「買いたいもの」と「売りたいもの」のバランスをとる
最後の「何を」に関して、東氏は社会心理学者のシーナ・アイエンガー氏が発表したジャムの実験を例として紹介する。
試食ブースに24種類と6種類のジャムを並べて、試食率を調べると24種類では60%、6種類だと40%だった。さらに、試食した人の購入率を調べると、24種類では3%、6種類では30%だった。
つまり、種類が多いと興味を惹けるが、実際に購入が発生したのは数が少ないほうなのだ。そして、Webサイトやメールでの商品の表示数でも同様のことが起こり得る。この理論だと、5種類~9種類程度ならば顧客は悩まずに選択でき、その結果について満足できると考えられる。このレンジ内で消費者が欲しいものと、企業が買ってほしいものをいかにバランスさせるかが重要なのだ。
「レコメンドエンジンで何を見せるかだけではなく、行動経済学などに注意して、うまくレコメンドエンジンやパーソナライズを効かせることが大事です」(東氏)
この「何を」を解決するためにも、やはり鉄板シナリオの設定が役立つ。
また、ワインなど嗜好性の強い商材の場合は、売上や閲覧データといった購買パターンだけでなく、ソムリエのおすすめなどAIに人のセンスを取り入れることが重要だ。
加えて、業界・商品によっては機械学習によるレコメンデーション以外が効くケースもある。たとえば旅行の場合は、顧客の好みを取り入れたカスタマイゼーションのほうがいいかもしれない。つまり、データによる自動化や人の感覚・センス導入など、多様なパターンがあるのだ。
全体を見据えたスモールスタートが肝要
「しかしながら、私が言ったことを全部やろうとするとコストが高くなります」と東氏。小さくスピーディーに始めて、成功したら続けるということが大事だと語る。
では、何から手を付ければいいだろうか? 東氏は鉄板シナリオの活用を推奨する。何故なら、仕組みを買えばある程度パッケージ化されているため、短期間でスタートして効果を得られるからだ。
一方で「ツール群はつながっていく必要があると思います」と東氏は強調する。戦術を実施するためのITは、最終的にすべてが1つにつながっていないと意味がない。もちろん、導入の方法は様々だ。先に試作をして売上を出したい企業もあれば、まずはデータ基盤を構築してじっくり戦略から考えたい場合もある。
「ブレインパッドはデータ起点のマーケティング・テクノロジーを網羅して提供しています。そのため、企業様に合った先を見据えたご提案ができると思います」(東氏)
戦略と戦術を意識したツール導入を検討の際は、相談してみると心強いだろう。