老舗百貨店の三越伊勢丹がオンライン接客に踏み切った理由
三越伊勢丹は5年ほど前からデジタル事業に力を入れている。同社の強みを切り出しデパ地下商品を宅配するサービス「ISETAN DOOR」や、化粧品を切り出したECサイトの「meeco」の事業をまずスタート。さらに百貨店事業自体にデジタルを取り入れる動きも進んできた。
今回はその中でも大きなプロジェクト「三越伊勢丹リモートショッピングアプリ」(通称、MIRS)の裏側を解説。同社でデジタルの現場推進を担当する升森一宏氏が、サービス誕生の経緯から説明した。
「2020年、全国に緊急事態宣言が出され当社も店舗が休業。その中で何かできないか社員で話し合ったところ『オンライン接客をやるべきでは』という意見で一致しました」(升森氏)
そこでまずはLINEとZoom、電話を組み合わせた形で、6月の緊急事態宣言あけに早速サービスを開始。すると、接客とオンラインの親和性の高さに気づいたという。既存のツールを組み合わせたやり方では顧客にも従業員にも利便性の観点から課題が残るため、一気通貫した自社ツールの開発に踏み切った。そこから約半年という短期間で、2020年11月にMIRSのリリースに至る。
MIRSの特徴は「店頭のほぼ全商品(一部除外品あり)をオンラインで買い物できる」こと。ネットショッピングとは異なり、チャットもしくはオンラインで接客を受けて購入できる顧客体験が魅力だ。
「アプリ内では、チャット機能で会話ができ、気になった商品はビデオ通話機能で接客することで、お客様にご納得いただくことができる」と升森氏は説明する。
また、個品登録機能は接客しているスタッフが全ての商品を顧客のカートに入れることができる機能。「ECサイトに全商品は掲載できませんが、MIRS接客ならお客様からリクエストいただいた商品をご案内することで店頭展開のほぼ全ての商品をお買い物いただける」という。
こうした顧客とのやり取りは、CRM機能で把握。このサービスの利用には三越伊勢丹のWeb会員「DID会員」に登録する必要があり、同社の従業員はどんな顧客かを理解した上で接客することも可能に。またチャットの会話や購買の実績、アンケートの内容を、顧客一人ひとりのカルテとして溜め、店頭での接客履歴との連携もいずれ行う想定で、日々開発を進めている。
つまりMIRSは、顧客とのコミュニケーション機能と顧客カルテ機能が一つになった接客の支援ツールなのだ。
「個のお客様」への価値を高める
取り組みの狙いを升森氏は「オンライン上でいつでもどこでも接客を可能にすることはもちろん、個のお客様を識別した『リテンションビジネス』の構築」と説明する。
従来のビジネスではマス向けに情報発信し、後は顧客の来店がスタートラインだった。来店後も接客の履歴は従業員の記憶などアナログに頼ることが多かった。升森氏は「一期一会の商売に近かったのではないか」と話す。
MIRSを活用することで、いつでもどこでも接客ができ、その際に顧客を識別することでパーソナルなアプローチが可能だ。そうすると情報発信も、一対一や一対少数にセグメントすることで適切化できる。
「MIRSを通じた新しい顧客体験を通じてリテンションビジネスを構築していきます。売り上げを上げるだけではなく、カルテを通じてお客様のLTVを上げていきたい。そこが最終的なゴールです」(升森氏)