おもしろみがあって熱狂できる市場を選ぶ
高橋 飛翔(以下、高橋):マーケットもやりたいことも変えずに、そこで得られたことからピボットを繰り返してこられたわけですが、再生可能エネルギーにこだわり続けるのは、勝算があってのことだったのでしょうか?
大石 英司(おおいし・えいじ)
1969年生まれ。大阪府出身。凸版印刷在籍中に電子書籍の取次を行う「ビットウェイ(現:出版デジタル機構)」を起案し事業化する。その後独立し、2011年に再生可能エネルギー電力の小売り事業である「みんな電力」(現:UPDATER)を起業。貧困のない社会を目指し、人と人とのつながりを生む「顔の見えるライフスタイル」を広める取り組みを行っている。
大石 英司(以下、大石):勝算よりも、再生可能エネルギーが富の分散化に一番合致しているというのが大きいですね。元々私は昔から分散化について語っていました。その中で起きたのが、東日本大震災による大規模停電でした。あのとき、皆さんが「自分で電気が作れたらいいのに」と感じたと思うんです。そのため、震災で再生可能エネルギーを活用した富の分散化に確信を得たというのはあります。あとは電力自由化などの制度にうまくハマったことですかね。
だから、成長市場やもうかる市場を狙っていくやり方とは違って、おもしろみがあって熱狂することを前提に市場を選び、ピボットしながら市場に事業を合わせていく形でビジネスを進めてきました。
高橋:私は打算的でじっくり待てないタイプなので、「沖に行って波が来る場所で待て」みたいなやり方はまねできないなと思います。それだけに、本当にすごいなと。
起案された当時は脱炭素も言われていなかったし、エネルギーの分散化が来ると言っている方もほとんどおらず、マーケットに今ほどの追い風はなかったと思うんです。そんな拠り所もない中でコンセプトを作られて、後から世の中が追いついてきていますもんね。
大石:そんなたいそうなことではないですが、めちゃくちゃよく言うとそうなりますね(笑)。「魚がいる場所に釣り糸を垂らせ」という話もそうですが、そんないいものではないと思いますよ。目の前の方とわらしべ長者で交換していったら、自然と市場に合ってきたという感じです。
富の分散化というこだわりは譲らない
高橋:会社の利益から言うと、再生可能エネルギーよりも安いサービスを提供したほうが、もっと早く顧客を増やせたんじゃないかとも思うのですが、そういった葛藤はなかったのでしょうか?
大石:ありましたよ。株主からのプレッシャーもですが、投資を受けられないときもあって、サービスの移行にすごく時間がかかってしまったので。
電力自由化の後、安売りを打ち出していくベンチャーにはお金が集まる一方、私たちの事業は特殊で、うまくいかないんじゃないかとか、電気を高値で売ろうとしているんじゃないかと思われてしまうポジションだったので、資金調達に苦労しました。そのとき、安くして大量に売る成長スケールを描くなら投資するといった投資家が多く、せめぎあいでしたね。
でも、富を多くの人に分散させるというのが私の大きなテーマなので、そもそも一極に集中させて短期間で何百人ものお客さんを取っていくというやり方が合わないんです。もし融資・出資を受けるためにそういう選択をするなら、「何のために起業したんだっけ?」ってなるわけですよ。
それなら初めは時間がかかっても、それでうまくいくという実例ができて、そこから多くの会社が気付きを得て、まねしてもらって社会に浸透していくほうが、我々がスケールするより結果的に早いと思うんです。
ビットウェイで社会を1つ変えたという実績があるからかもしれないけど、自分たちで独占する方向に舵を切るなら投資するという提案には、本能的に違和感がありましたね。