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鹿毛康司さんが語る「心の奥に触るマーケティング」

 エステー、森永乳業、ほけんの窓口、ベストコ(塾)、医療など、様々な業種において企業のマーケティングとクリエイティブを支援する鹿毛康司さん。長年消費者と向き合い続けてきた鹿毛さんは、マーケティングにおける“心”の重要性を実感する一方「誰も心について語ってこなかった」と指摘します。消費者の心の奥に触れ、愛のある施策を生み出すには? 鹿毛さんは「CMO Japan Summit 2022」の基調講演に登壇し、この難題に向き合うためのヒントを提示しました。

戦略重視のマーケターが見落としがちなこと

鹿毛:みなさんは「マーケティング」と聞くと、調査や分析などの手法を思い浮かべるのではないでしょうか。「STP分析(セグメンテーション・ターゲティング・ポジショニング)が大事だ」という話もよく聞きますね。

かげこうじ事務所 鹿毛康司氏
かげこうじ事務所 鹿毛康司氏

鹿毛:では、ここで恋愛を例にSTP分析をやってみましょう。あなたは4人の相手の中から交際する人を決めようとしています。魔法のランプに2つ質問できるとしたら、どうしますか。

 私なら、こう聞きます。「その人はいつも一緒にいたい派か1人活動派か」そして「甘えたい派かドライ派か」。この質問で4人をセグメンテーションすれば、自分がターゲットにするべき相手がわかります。あなたが「仕事に没頭するタイプ」なら「1人活動派」の人をターゲットにすべきでしょう。

 さらに細かく「1人で活動派かつ甘えたい派」と「1人で活動派かつドライ派」にセグメンテーションすることもできます。その上で自身をポジショニングし、相手にどうアプローチするかを考える営みが一般的なマーケティングです。

 しかし、人は本当に分析結果に従って動くのでしょうか。相手の方が自分を気に入るかどうかは別の話ですよね。そう、STP分析では「愛」が考慮されていないのです。

 戦略はあくまで机の中にあるもの。お客様に見せようとするとき、そこには必ずクリエイティブの力が働きます。クリエイティブを考える際に大切なのが「心」ですが、その重要性を理解せず、戦術の話ばかりをする人が多いと感じます。かくいう私も、若い頃は戦術の話をよくしていました。でも、気づいたんです。「心って重要だな」と。

 実は、人の意識のうちSTPで分析できる顕在意識はわずか5%と言われています。残りの95%は潜在意識、つまり心で成り立っているのです。確かにSTP分析は意義深いマーケティング手法の1つですが、それだけで終わらせてはいけません。

本人も気づかない、心の奥にあるのがインサイト

鹿毛:では「人の心を考える」って、どういうことでしょう。たとえば交際している相手に「2万円くらいのイヤリングが欲しい」と言われたとします。ここで2万5,000円ぐらいのイヤリングをあげれば相手はきっと喜びますが、それではただの“便利な人”で終わってしまう。

鹿毛:「彼女はなぜイヤリングが欲しいのか」「今どんな生活をし、どんなことを思っているのか」を考えながらプレゼントを選ぶとどうでしょう。マーケティングで言うところの顧客視点です。相手は「どうして欲しいものがわかったの!?」「私のことをこんなに考えてくれるなんて」と驚き、両者は良い関係を築けます。

 「お客様が口にしているニーズに焦点を当てれば良い」と思う方もいるでしょう。でも私は「本人は気が付いていないものの、人から言われると『うんうん』と頷いてしまうもの」がインサイトだと思うんです。

 ニューロサイエンティストの辻本悟史さんは「境界領域」という用語を使ってこのインサイトを説明しています。境界領域とは顕在感情と潜在感情の重なる部分にあり、説明はできないが脳のどこかには存在している感情を指すそうです。裏を返せば「脳の中に存在しないものは響かない」とも言えるため、マーケティングでは境界領域、つまり心の奥へいかに触れられるかが大切なのです。

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この記事の著者

和泉 ゆかり(イズミ ユカリ)

 IT企業にてWebマーケティング・人事業務に従事した後、独立。現在はビジネスパーソン向けの媒体で、ライティング・編集を手がける。得意領域は、テクノロジーや広告、働き方など。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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MarkeZine(マーケジン)
2022/08/17 07:00 https://markezine.jp/article/detail/39367

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