企業中心から顧客中心のマーケティングへ
プレイドは2015年3月にWeb接客プラットフォームとして「KARTE」をリリース。KARTEの目指す世界観を伝えるために「Web接客」という言葉をつくり、日本においてその市場の創造と拡大をリードしてきた1社だ。現在は、Web接客に限らずあらゆるチャネルでの体験向上や、クライアントの幅広い課題を解決するため、CX(顧客体験)プラットフォームとしてKARTEを展開している。
同社のプロダクトマーケティングマネージャーを務める福島氏はまず、デジタルマーケティングに起こっている根底的な変化を次のように解説する。
「これまでは集客の最大化を目的とした“企業中心”のマーケティングが盛んでした。多くのマーケターは会員の年齢や性別といった属性データを活用しながら、広告やメールに注力していたと思います。しかし今後は“顧客中心”のマーケティングが重要。サイトあるいはアプリに訪れる顧客一人ひとりの属性データだけではなく、行動データも捉えながら各人に最適化した施策をスピーディー届ける必要があるのです」(福島氏)
福島氏によると、リアルタイムの顧客分析や施策のスピーディーな実行・検証に向けて、ツールの導入やサイト・アプリのアップデートに着手する企業は多いという。しかしながら、サイトやアプリのアップデートにはそれなりのリソースを要する。「だからこそ、ローコード・ノーコードで実装でき、アクセスの解析をしながら顧客に合わせた最適なメッセージを届けられるWeb接客ツールが有効」と福島氏は語る。
好ましくない四つのWeb接客体験
長きに亘りWeb接客と向き合い続けてきたプレイド。福島氏は「好ましくないWeb接客体験」を四種に分類し、悪例から良いWeb接客の在り方を提示する。一つ目は、ユーザーがサイトを来訪した瞬間にポップアップなどで即座に提案する「瞬間接客」だ。
「実店舗で、来店直後のお客様にスタッフがいきなり商品をおすすめするでしょうか?恐らく普通はお客様が商品に興味を示すまで、接客のタイミングを窺うはずです」(福島氏)
二つ目の「KY接客」は、空気を読まずに見当違いの商品をおすすめする接客だ。トップスを買いたいユーザーにパンツを提案するなど「KY接客にはコミュニケーション上の課題がある」と福島氏。「サイトを訪れたユーザーの状態を理解しきれていない場合、適切なコミュニケーションはとれない」と続ける。
三つ目は、クーポンを誰彼構わず配る「バラマキ接客」。福島氏はこの接客にコンバージョンの課題があるとし「バラマキ接客をするブランドに顧客は愛着を抱きにくい。ファンを育てて離反を防ぐなら、バラマキはむしろ逆効果」と指摘する。
四つ目の「無駄打ち接客」は仮説検証なく施策を繰り返してしまうことを指し、これにはコストの課題があるという
「実店舗での接客や対面営業の場合、担当者はお客様の顔色を窺いながら提案し、提案への反応から次の提案を考えるなど、検証を繰り返していますよね。Web接客も同様に効果検証を行わなければ、時間と労力が無駄になってしまいます」(福島氏)
「三つのC」の見直しが良い接客の手がかり
コミュニケーション(Communication)・コンバージョン(Conversion)・コスト(Cost)の課題。福島氏はこれらを「三つのC」と表現し、これらの見直しが良い接客への手がかりになると語る。
では「理想のWeb接客」とはどういうものか。福島氏は先に挙げた悪例の改善案を通じ、理想のWeb接客のヒントを提示する。瞬間接客は「興味接客」つまり顧客の欲しい瞬間に合わせた接客へ変えるよう提案。KY接客は「FY(For You)接客」へ転換し、一人ひとりに合わせた接客の重要性を説く。
バラマキ接客は「エコひいき接客」に変え、ロイヤルティの高い顧客を優遇し、不安を感じがちなサービスの未利用者には相応の案内を差し出すよう提案する。
「商品の魅力を伝えるだけではなく、ファンあるいはファンになり得る方が嬉しいと感じること・逆に邪魔になるものを考える姿勢が大切です。サービスや人によって、つまずいたり不満を感じたりするポイントは異なります。そこが離反原因になるので、回避するよう考える必要があるのです」(福島氏)
無駄打ち接客は「無駄ナシ接客」に転換し、次への学びを得られる有意義な接客を推奨。福島氏は「失敗を早く発見すれば、勝ちパターンにたどり着くまでの期間を短縮できる」と述べ、振り返りの時間を設けて施策の効果検証やリアルタイムでの顧客分析を地道に行う重要性を強調する。
Web接客の次なるフェーズをどう乗り越えるか
三つのCを見直し、Web接客にある程度取り組んだ企業は「新規獲得の成果が頭打ちになり、向き合う課題が『利用の定着化』『エンゲージメント向上』『体験価値向上』へと変わっていく」と福島氏。フェーズの移行にともなって生じ得る課題を解説する。
一つは、データ活用の課題だ。継続利用の促進を目指して既存顧客の状態を深く把握するにあたり、顧客データが社内に散在していたらどうなるか。福島氏は「離反理由あるいは継続要因を考えようにも知る術がない」と指摘する。
福島氏はコミュニケーション設計の課題も指摘。サイトやアプリなど顧客との接点が増える中でも「画一的なコミュニケーションが残ってしまっていないか」「顧客の体験が分断していないか」を再検討する必要があるという。
「顧客データ基盤を構築し、分析の体制が整ってくると、優良顧客や離反する顧客を理解した上で、接点に応じた適切なコミュニケーションを設計できます。たとえば『ユーザーからメールでこのようなコンタクトがあったので、サイトではこういったおもてなしをしたい』といった取り組みも可能です」(福島氏)
顧客を次のステップに進めるコミュニケーションが肝要
「フェーズが移行すれば、先に述べた二つの課題以外にも様々な課題に直面し得る」と福島氏。解決のポイントは、次に直面し得る課題を認識した上でWebサイトやWeb接客の課題を解決することにあるという。
「現在直面している課題を解決し、そのデータを資産として蓄積しながら将来の課題に対峙する。その資産を同じツールあるいはデータ基盤上で横展開する体制が組めると、体制やツールを入れ替えることなくフェーズを進めていけるはずです」(福島氏)
「この施策で効果を上げたい」という企業中心のマーケティングとは異なり、顧客中心のマーケティングにおいては「顧客の状態を次のステップに進める連続的なあるいは継続的なコミュニケーションをとることが非常に大切」と語る福島氏。顧客の文脈を捉えたコンテクストマーケティングの実行にあたり、KARTEがいかに有用か解説する。
「KARTEを使うと共通の特徴を持つ顧客をグルーピングすることができるため、各グループに合った適切な体験が設計できるようになります。たとえば、エントリー層に対してはブランドやサービスの内容を知ってもらうためのアクションをとり、サービスの魅力づけを行いながら会員登録を促す。サービスを利用してもリピートや継続に至らない顧客には、離反を回避するインセンティブを届ける。このように、メッセージの柔軟な出し分けが可能となるのです」(福島氏)
自社のフェーズに応じた利用範囲の変更が可能
KARTEは業種業界を問わず様々な企業に導入され、成果に貢献しているそうだ。KARTEシリーズでは、顧客に応じた広告配信の最適化を支援するソリューションのほか、メール、LINE、アプリのプッシュ通知におけるコミュニケーションを最適化するためのソリューションも展開。Web接客だけでなく、認知・集客や興味喚起、関係性の構築までカバー領域は幅広い。「自社に足りないピースを補うように、事業フェーズに応じて利用範囲を柔軟に変更可能」と福島氏は語る。
「最初はオンサイトのアクション改善から始めて、顧客をより深く知る必要があればインサイトを把握するためにKARTEを活用していく。あるいは、様々な顧客接点で一体感のあるコミュニケーションを実現するためにKARTEを活用するなど、ソリューションとともにステップアップを目指すこともできるようになっています」(福島氏)
プレイドのサイトでは、セッションで紹介しきれなかったKARTEの活用事例も掲載している。「KARTEの機能について詳しく知りたいと思われた方は、ぜひアクセスしてほしい」と語り、福島氏は講演を締めくくった。