コロナ禍でユーザー数が激増したPococha
天野(Liftoff):ここからは、川口さんにお話を伺っていきます。コロナ禍はネガティブ/ポジティブを問わず、ビジネスに様々な影響を与えました。コロナ禍前後で御社のビジネスにどのような変化が生じたのでしょうか。
川口(DeNA):受けた影響はサービスによって異なります。プロ野球など、オフラインと密接に関わる事業はやはり厳しい面もありました。ゲーム事業はそこまで大きな変化はなく、変化が最も大きかったのはライブコミュニケーションアプリのPocochaです。緊急事態宣言のタイミングで、ユーザーが劇的に増えました。
川口(DeNA):Pocochaは、ライバーが簡単にライブを配信でき、それを見たリスナーはコメントやアイテムを使用し、ライバーの配信を盛り上げることができるサービスです。一般的なライブ配信サービスとの違いは、ライバーとリスナーのコミュニケーションだけでなく、リスナー同士のコミュニケーションも重視する設計思想にあります。
たとえば「一人のリスナーがたくさん応援する状態」よりも「多くのリスナーが皆で応援する状態」を良しとする設計になっていたり、リスナー同士がコミュニケーションできるチャットツールのようなものが用意されていたりと、ライバーを軸にリスナーの居場所となるコミュニティを作る仕組みとなっています。この仕組みが交流機会の少ないコロナ禍にフィットしたのではないでしょうか。最近発表したカルチャーデックを見ていただくと、Pocochaの設計思想や大事にしていることがより詳細に伝わると思います。
サービスの特徴に合わせたマーケティングを
天野(Liftoff):緊急事態宣言の時期には、海外のライブ配信会社のOOHをたくさん見かけた記憶があります。競合他社の動きは意識されていましたか。
川口(DeNA):もちろん意識していました。しかしながら先ほど申し上げた通り、Pocochaの設計思想は他のライブ配信サービスと少し異なります。多くのライブ配信サービスでは、芸能人のような目立つ人がいて、その人の元に多くのリスナーが集まる構造を呈しています。一方Pocochaの場合はスターを作るというより、一般の人を応援するファンを集め、小さなコミュニティをたくさん作る構造を目指しているんです。
提供している本質的な価値が違うこともあり、競合の動きは参考にしつつも「自分たちのサービスにマッチするか」を判断軸にしていました。ゲーム事業に関わっている時ほど強く意識している感じではなかったですね。
天野(Liftoff):感染者数拡大の波が落ち着き、コロナ禍の終焉も意識される世の中になりつつあります。現在のPocochaはどのようなフェーズにあるとお考えですか。
川口(DeNA):コロナ禍が始まった頃に見られた、急激なユーザー増のような状況は落ち着いてきました。ただ、DAUやMAUについては引き続き伸びを維持できています。この伸びはコロナ需要がもたらした恩恵ではなく、集客を強化している成果と、プロダクトの価値がユーザーに受け入れられている結果だと認識しています。
天野(Liftoff):川口さんはゲームマーケティング時代の経験や知識を、ライブ配信サービスや非ゲーム事業でどのように活かされていますか。両者の違いや共通点があれば教えてください。
川口(DeNA):デジタル広告・プロモーションの経験やノウハウは活きていると感じています。マーケティングの基本的な考え方や、効果を上げるための細かい留意点は共通する部分も多いです。一方で、事業によってはプレイが基本無料のゲームアプリとは違った視点で考えなければいけないことも多いと感じています。
我々の組織では、ゲームやライブ以外にも様々な事業のマーケティングに関わっています。サービスが違えば効果的なプロモーションも当然異なる。たとえば、エリアが限定されていて広告接触と利用者のニーズが発生するタイミングがずれるカーシェアサービスやタクシー配車サービスの場合、ポスティングが効果的だったりと、サービスの特性に合わせて考え方を柔軟に変えていかなければならないと感じています。様々なタイプのサービスと関わることができる点は、マーケターにとって非常にチャレンジングで面白いです。