※本記事は、2022年9月25日刊行の定期誌『MarkeZine』81号に掲載したものです。
映画の爆発的ヒットと連動してトレンドも急上昇した『鬼滅の刃』
図表1は、Googleトレンドにおける各アニメ作品のトレンド値推移とトレンド値が上昇しているときに何があったのかを示したグラフである。
各アニメの共通点として、アニメ放送後にトレンド値が大幅に上昇していることがわかる。しかし、『鬼滅の刃』はアニメ放送の後半から徐々に人気が高まっていっているのに対して、『呪術廻戦』は中期から、『SPY×FAMILY』は最初から人気が高く、各作品が注目された時期が異なっていると推察できる。『鬼滅の刃』はアニメ放送後も値を伸長させていき、最初の山は漫画の完結時となっていた。また、映画の公開時にも大幅に値が上がっており、その後のテレビ放送でもある程度検索されていることが見て取れる。
一方で、『呪術廻戦』に関しては映画が公開されてもそれほど値は変化せず、アニメ放送時と同程度に留まるなど、『鬼滅の刃』とは異なる傾向が見られた。アニメ放送、漫画の完結、映画公開と短い間でのインパクトのある話題によって、『鬼滅の刃』は着実に人気を得ていったと考えられる。
では、各作品のファン層は具体的にどのような人たちなのか。ブランドデータバンクより、『鬼滅の刃』ファン(2019年12月調査 856人)、『呪術廻戦』ファン(2021年1月調査 857人)、『SPY×FAMILY』ファン(2022年1月調査 125人)と定義し、分析した。
データで切る、アニメ放送前後のファン層の比較
各アニメファン層のプロファイリングとして属性・価値観・好きなブランドの3つの視点から比較を行った。まず図表2によると、属性の興味深いポイントとして、各アニメのストーリーやジャンルが異なるにもかかわらず、平均年齢が30代前半であること、女性の割合が高いこと、学生の割合が高いことなどの共通項が見られた。
また、共通する他の特徴として、課金したことのあるサービスにおいて、動画サービス(月額制)、音楽配信サービス(月額制)、電子書籍・電子コミック(都度購入)、アプリ内での課金(ゲーム)などが全体に比べて割合が高く、エンタメコンテンツに課金を行う層であることがわかる。
SNSへの投稿数・反応数はともに週に1〜2回以下で「友人・知人・家族などとコミュニケーションをとる」といった利用目的の他に、「自分の趣味・関心事に関する情報を収集する」や「気になる情報を検索する」といった項目が高いことも特徴的であり、アニメの情報などをSNSによって収集しているのではないかと考えられる。
図表3によると、接触・信頼度の高いメディアとして「友人・知人」や「家族」の他に「テレビCM」や「テレビの番組内情報」といったテレビに関連する項目が高くなっている。
価値観は「自分が気に入れば、ブランドや評判は気にならないほうだと思う」といった項目や「次から次へと欲しいものが出てきて困る」、「一度使って気に入った商品は同じシリーズやその会社の別商品を購入する」という項目が高い点がすべての作品で特徴的であった。
図表4の通り、『鬼滅の刃』ファンの好きなアニメ・漫画では、『呪術廻戦』、『SPY×FAMILY』がともに上位には挙がっていない。『呪術廻戦』ファンも同様に『鬼滅の刃』、『SPY×FAMILY』は上位に挙がっておらず、『SPY×FAMILY』ファンのみ、『呪術廻戦』が上位に挙がる点が特徴的である。
ゲームアプリでは、『鬼滅の刃』ファンは「パズル&ドラゴンズ」が高いことや、『呪術廻戦』ファンは「荒野行動」が高い傾向であることがわかる。各調査期間の約1年後にはなるが、『鬼滅の刃』は「パズル&ドラゴンズ」と、『呪術廻戦』は「荒野行動」とそれぞれコラボをしており、各タイトルのファン層を上手く掴んだマーケティング施策だと言える。
好きな音楽アーティストは、『鬼滅の刃』ファンは、オープニング曲である「紅蓮華」の歌手であるLiSAが1位となっている。『SPY×FAMILY』ファンは、アニメ放送前であるが、オープニング曲である「ミックスナッツ」を書き下ろすことになるOfficial髭男dismが上位に入っており、こちらもファン層に合ったアーティストを起用できていることがうかがえる。
このように、アニメ放送前後のファン層の属性、価値観は3つの作品で共通項が多いことがわかった。また、好きなゲームアプリや音楽アーティストでは、各アニメタイトルに関連するコンテンツが好まれる傾向にあった。次の章では、『鬼滅の刃』と『呪術廻戦』の映画公開後のファン層の比較を行うことで各映画がどのような層に評価されたのか明らかにする。