キャンペーン実施を目的にしない
SNSを活用したキャンペーンを検討する企業は多い。通常のSNS運用・分析からキャンペーンの運用・分析まで一元管理できるツール「ソーシャルインサイト」を提供するユーザーローカルの嶋田はキャンペーン設計時に考えるポイントとして、次の3点を挙げる。
- 誰を意識してキャンペーンを実施するか
- 何をプレゼントするか
- どのキャンペーンを選ぶか
「誰」は大きく、新規フォロワー獲得か、既存フォロワーのエンゲージメント向上にわけられる。その目的に応じてプレゼントやキャンペーン形式が決まってくる。
「大切なのはキャンペーンを実施することを目的にするのではなく、目的を意識してプレゼント、キャンペーンの形式を選択していくことです」(嶋田氏)
キャンペーンにとどまらず、SNSの運用においては何を目的に・誰に対して・どのような投稿を行うか、が重要だろう。ここからはソーシャルインサイトの分析機能を活用して成果を出している大丸松坂屋百貨店の取り組みを紹介する。
会話の「輪に入れてもらう」SNS戦略
全国15店舗を展開する大丸松坂屋百貨店。大丸は1717年、松坂屋は1611年創業の老舗百貨店で、ソーシャルメディア運用はどのように行われているのか?
「『大丸・松坂屋』というソーシャルメディアアカウントはどれですか? とご質問をいただくことがあります。しかし、実はございません」そう話すのは、同社全社のデジタル広告、SNSなどデジタルメディアの活性化および運用管理を担当する西本祥子氏だ。
「なぜなら、ソーシャルメディアはコミュニケーションの場だと考えているからです」(西本氏)
同じ場所で人々が集まって語り合っている場所からこそ、一方的に企業が情報発信をするのではなく、盛り上がっている輪に入れてもらう必要がある。たとえば「カフェ」の話題で盛り上がっている輪があったとしよう。そこに話題とは関係なく「大丸・松坂屋」として入り込んでも、興味を持ってもらえない。しかし「梅田のカフェ」で盛り上がっている場所であれば、「大丸梅田店」として「梅田店のおすすめのカフェはこちらです」と入っていける。
そのため同社では、輪に入れてもらいやすく、かつ来店に結びつくように各店舗による情報発信に注力。店ごとにSNSアカウントを作成し、運用している。
「投稿の成果が見えにくい」課題
「結果として合計100以上のアカウントを運用している状態になり、たくさんの課題が生まれてきました」(西本氏)
そこで西本氏は、これらの課題を「守り」と「攻め」に分類し、2021年3月に全社的にソーシャルメディアの利用方針を策定した。
守りは主にコンプライアンスリスクへの課題と対応だ。リスクへの理解を促進し、組織的な体制を策定した。攻めは成果の数値化とPDCA体制だ。ソーシャルメディアのKPIを理解し、PDCAを回す体制の制定を目指した。
ここでもう一つ、ソーシャルメディアならではの課題が出てきた。それが、KPIの観測がしにくいことだ。全店の中で最もInstagramを活用する札幌店では、レポートの作成に半日以上かかっていたという。
「レポートに時間がかかると、投稿の成果が見えにくくなり、社内外で何をやっているのかわからないとレピュテーションも向上しません。そのため、コンテンツの質も上がらないという悪循環に陥っていました」(西本氏)
攻めの武器としてソーシャルインサイト導入
大丸松坂屋百貨店では、ソーシャルメディアにおいて特に競合ベンチマークを重視していたが、2019年にInstagramでは他アカウントのいいね数が表示されなくなった。結果として競争環境が不明瞭となり、成功例の真似ができない、ノウハウがたまらないといった課題も同時に出てきた。そこで、攻めの武器としてSNS運用支援ツール導入を検討した。
同社がツール導入にあたり、重要視したポイントは次の3つだ。
- レポートの作成時間削減につながるか
- 競合と簡易にかつ過去にさかのぼって比較できるか
- 複数店舗で導入をしてもサポートは手厚いままなのか
「複数のSNS運用支援ツールを比較検討しましたが、自社にとって重要なのは第一にレポートでしたので、レポート機能がしっかりできるところ。そして、競合の比較やサポートが手厚い点を重視し、ユーザーローカルの『ソーシャルインサイト』を導入しました」(西本氏)
フォロワー数149.5%!進化を続ける大丸札幌店
大丸松坂屋百貨店はPoC(Proof of Concept:概念実証)として、2021年上期にソーシャルインサイトを札幌店へ導入した。導入に当たっては3つのステップを踏んだ。
まずは目的の見つめ直しと、目標設定だ。札幌店は2万5,000フォロワー獲得を目指すことにした。目標・目的を明確にすることで、運用担当者が何をしているのか、きちんとコミットできているかが周囲に伝わるようになる。
次にPDCA体制の構築。月次で課題の発見と改善を図る定例会を設けた。定例会には運用担当者だけでなく、直属上司もメンバーに入ってもらい、成果と改善を共有した。
最後に、攻めの武器・ソーシャルインサイトの活用だ。目的が明確になり成果を共有する場があるからこそ、担当者も腹落ちして日々の改善に取り組める。
「同じレベルのレポートを作ろうとすると、半日どころか10時間以上かかるレポートが、ソーシャルインサイトではボタンを押せば数分で出来上がります。しかも以前より高度です」(西本氏)
札幌店は自社分析だけでなく競合分析を実施。さらに、フォロワーが見ているアカウントやハッシュタグ等を分析することで、何が求められているか、どのようなハッシュタグが良いかがわかるようになった。
「ストーリーズ投稿のKPIも出力できるので、24時間で消えるからもったいないとおよび腰だったストーリーズの重要性も可視化でき、投稿の活性化とリーチ増加を実現しました」
結果として、大丸札幌店のフォロワー数は導入前に比べると149.5%アップしたという。成果が可視化されたことで、Instagram掲載の希望が出るなど良いサイクルが生まれた。この中で他の店舗でもソーシャルインサイトを導入すべきという気運が高まり、2021年下期には9店舗に導入された。
回り出した大丸京都店のPDCA
2021年下期に導入した大丸京都店では、30代~40代の女性に向けてInstagramで情報を発信している。ソーシャルインサイトを活用する前はエンゲージメント率2.9%、フォロワー7,468人だった。導入後分析・改善を行った結果、2022年7月末時点でエンゲージメント率は4.6%、フォロワーは1万873人と数値を伸ばすことができている。
同店でWebやSNS運用、販促を担当する荻野隼太氏は、かつての課題を次のように語る。
「私たちの課題は大きく2つありました。まず投稿をしてもフォロワー数が増えないこと。そのため、どのような投稿をすればいいかわからなくなっていたことです」(荻野氏)
そこで、まずはユーザーが何を求めているのかを把握するために、ソーシャルインサイトのレポート抽出機能で分析することにした。これまでの投稿のいいね数やエンゲージメント率から、人気のあった投稿を割り出したところ、文章や写真の違いはあれど、スイーツ情報を扱う内容であることがわかった。また、「雑貨」「大丸京都店でしかないイベント」への反応もいいことが判明。投稿内容はこれら3種に注力することにした。
あわせて、投稿キャプションの統一や、投稿する時間帯の変更・固定、投稿画像の改善を実施。さらに、月次で前月投稿データを抽出、数値を分析して仮説をチームで共有し、次の投稿作成に生かす振り返りの実行が定着した。
「これまでは、とにかく新規の投稿を増やすことに注力していましたが、テーマを絞りPDCAを繰り返すことでエンゲージメント率が向上し、フォロワー増につながりました」(荻野氏)
大丸京都店は、約半年の取り組みで、いいね250%アップ、フォロワー数125%アップを実現した。このスコアは通常投稿だけでなく、フォロワー増をブーストするためのキャンペーンによって達成している。
たとえば、2月22日の「ねこの日」にあわせて、大丸京都店公式アカウントをフォロー後に、ハッシュタグ「#べすとにゃいんだいまるきょうと」をつけて自慢の猫を投稿してもらい、その中から「べすとにゃいん」9匹を選ぶキャンペーンを実施。第2弾では、この「べすとにゃいん」の中から「推しにゃん」にいいね投票して順位を決める「推しにゃん総選挙」を行った。すると、期間中のフォロワーの伸び率は対前年で145%増となった。
「投稿や投票のキャンペーンではデータ抽出が面倒になりがちですが、ソーシャルインサイトのデータ抽出機能を活用することで、いいねの投票投稿や告知投稿などの分析も簡単に行えました」(荻野氏)
また、荻野氏は一連のキャンペーンを通し、いいねで投票するだけという「参加のしやすい設計」と、猫のように「みんなが好きなものを扱うこと」が成功のポイントだと考え、他のカテゴリーでも試すことにした。
その1つがホワイトデーのキャンペーンだ。ホワイトデーおすすめのスイーツを9つ投稿し、いいねで投票をしてもらった。そして、フォローをしてくれたユーザーの中から抽選でスイーツをプレゼントする仕組みにした。
結果、フォロワーは224名増加し、エンゲージメント率も6.13%と過去一番の成果となった。さらに、店舗販売と連動していたため「インスタを見て来店した」という声もあり、来店促進の効果が確認できた。
目的とKPIをいかに可視化するか
大丸京都店の成果を受け、西本氏は「Instagramが集客や売上につながらない、フォロワーやいいねが増えないといった問題を抱えているケースでは、目的とKPIが見える化されていないかもしれません」と語り、同社が導入した可視化のモニターシートを紹介する。
まずターゲットと目的を明確にし、KGIや競合運用を可視化、さらに月次で目標とKPIを追っていく。
「言うは易しで、実際に記入するとなると難しいです。しかし、月次のフォロワー数やエンゲージメント率の割り出しはソーシャルインサイトを使えば簡単です」(西本氏)
コミュニケーションの場であるソーシャルメディアでは、数式のような明確な答えがあるわけではない。各社がそれぞれの目的を決め、それに沿ったKPIをセットし、日々運用を続けることで知見を蓄積する必要がある。知見の蓄積には、運用の結果を可視化し、何が良くて何が悪いのかを分析し、改善をしていく必要がある。
ソーシャルメディア運用で成果を出す上で、データを分析すること、それを容易にするツールの活用がいかに重要であるかを示唆するセッションとなった。
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