DXは「頑張らない」ことが大事
――ルゾンカさんは、米国や外資系企業で長いキャリアをお持ちです。そこでお聞きしたいのですが、そもそも米国では「DX」という言葉すら見聞きしないとよく聞きます。日本企業がこれだけで声高にDXの推進を掲げているにも関わらず、なかなかうまく進まないのはなぜだと思われますか?
私は、これには日本ならではの文化的背景が関係していると思っています。DXを進めるときは、「頑張ったらいけないこと」が多々出てきます。「いかに効率化するか、楽をするか」を考えていくのがDXとも言えるかもしれません。ところが、日本人は、いい意味でも悪い意味でもすごく真面目で、多少非効率な仕事も言われたら頑張ってやってしまうんですよね。外資系の企業では考えられないような仕事を手作業でやっていたりします。こうした日本的な背景があるために、DXが「これまで自分たちが頑張ってきたこと」や「大切にしてきたこと」と逆行する形になってしまっているように思います。
この課題を解決するためには、やはりマネジメント層の意識改革が重要です。「今はうまくいっているから」とか「今なんとかなっているから」と見過ごさず、まずはマネジメント層がアジャイルな考え方を持って、新しいことにチャレンジできる雰囲気を醸成していかなければいけません。私もこの部分は意識的に取り組んでいて、「今みなさんが頑張っていること、今のやり方でも進められることは理解しているけど、その分の時間を他のことに費やしてもらいたい」と丁寧に説明することを大事にしています。
――全社を巻き込んでDXを進めていくとき、他に意識していることはありますか?
装置産業である石油事業をベースとするコスモエネルギーグループにとって、「安心安全な操業」は最も重要なものです。ですので、新しい物事に対面するとき、社員が気持ちを引き締めたり、守りの姿勢を示したりするのは当然のことだと思っています。そこで、私はなるべくリスクを小さく切るように、いつも意識しています。何でもかんでも小さく切ればいいというわけでもなく、リスクを小さくするために、マイルストーンを細かく設定するイメージですね。プロジェクトの期間、エリア、投資額など色々な視点からリスクを複合的に考えていきます。
そして、DXは推進する側ではなく、あくまで現場にいる社員が主役です。現場の社員が「なぜこの取り組みが必要なのか?」を理解した上で進めることも大切です。コーポレートDX戦略部ですべてをコントロールしようとは思っておらず、現場のみなさんのサポート役あるいはイネーブラーでありたいと思っています。