ツール連携で自動アップデートを実現
ecbeing は1999年から20年以上、ECプラットフォーム「ecbeing」の販売を行っている。国内ECサイト構築サービスのシェアにおいては13年連続で首位を獲得。これまで数百社のマーケティング業務を支援してきた。ここ20年のecbeingのシステムを巡る変化について、同社の森英一氏は次のように振り返る。
「ecbeingに新たな機能を実装する場合、これまではecbeingのシステムごと大掛かりにカスタマイズしていました。現在はシステムの更新を極力最小限に留め、CDP+CRM、Instagramやアプリ、CMSなどをecbeingと連携。各連携ツールは自動でアップデートされるため、常に最新のバージョンを保てるプラットフォームとなっています」(森氏)
ecbeingやグループ企業が提供する各種ツールには、Instagramとの連携ツール「visumo(ビジュモ)」レビュー最適化ツール「ReviCo(レビコ)」そしてCDP/CRMツール「Sechstant(ゼクスタント)」などがある。
森氏はecbeingを単にEC構築ツールとして活用するのではなく、ecbeingを軸としたマーケティングプラットフォーム化を目指すべきだと語る。たとえば、SechstantのCDP機能によって抽出した顧客データを広告やメルマガのシナリオ制作に活かしたり、visumoでInstagramとecbeingを連携し、ユーザー投稿をそのままECサイトのコンテンツ強化につなげたりできるという。
「ecbeingというハブを基点に各種ツールをフルに活用すれば、CVRの向上のみならずユーザーのファン化、ひいてはLTVの最大化を実現でき、売上拡大にもつながります」(森氏)
施策の効果測定やシナリオ制作を支援
森氏は各ツールの機能を詳しく紹介。Sechstantシリーズのひとつ「Sechstant CDP」では、顧客分析や購入商品分析などを可能にする。これにより、利用企業は広告や各施策のLTVに対する効果を精緻に測ることができるという。
「『LTVが比較的高いユーザーは、一体どのメディアの広告からの来訪者なのか』を追跡し、本当に投資対効果の高い媒体を把握できるため、効率的に広告を配信することが可能となります」(森氏)
Sechstant CDPを活用することで、広告効果の最大化のみならず、業務効率の改善にもつながるという。本来なら分析までに必要なデータのダウンロード・加工・集計作業が、Sechstant CDPでは自動化されるためだ。また、40以上の指標・軸によるデータの分析画面を表示。多面的な施策の評価を可能にし「PDCAの高速化にも寄与する」と森氏は語る。
またSechstantシリーズには「Sechstant CRM」も存在する。前述のSechstant CDPでは「実店舗でしか購入実績のない顧客」や「退会を考えている顧客」など、顧客の詳細な属性を判別する。一方のSechstant CRMでは、顧客の属性に合わせた施策のシナリオ配信を実現。これにより、利用企業は「実店舗でしか購買経験のない人にはEC限定クーポンを配布し、ECへの遷移を促す」「解約しそうな顧客には、リテンション施策を展開する」などの戦略を立てることができるわけだ。
ECサイトのトップページを介さないユーザーが増えている!?
次に森氏が紹介するのはInstagramとの連携ツールvisumoだ。visumoの機能を説明する前に、森氏は昨今のECを巡る消費者の購買行動について次のように持論を述べる。
「ユーザーはInstagramのタイムライン上で気になる商品を見つけたら、商品名をGoogleなどの検索エンジンで検索し、直接当該商品の商品詳細ページにランディングします。つまり、ECサイトのトップページを介さないユーザーが非常に増えているのです」(森氏)
この仮説に基づき「商品詳細ページのコンテンツを充実させることが重要」と森氏は強調する。しかし、企業のEC担当者がコンテンツを一から作るのでは、時間も労力もかかる。そこで森氏はvisumoを活用したecbeingとInstagramの連携を提案。これにより、Instagram上のユーザー投稿を商品詳細ページのコンテンツ拡充に活かせると話す。
森氏はユーザー投稿を商品詳細ページのコンテンツ強化に活用した例として、表参道などに店舗を構える雑貨店「AWESOME STORE」のECサイトを紹介。AWESOME STOREでは「ファンと一緒にサイトを作る」を目標に掲げ、ECサイトのリッチ化を図っているという。AWESOME STOREの売れ筋商品「爪とぎショッピングカート」の商品詳細ページには、実際に商品を購入したユーザーのInstagramの投稿が並んでいる。
visumo とecbeingを連携すれば、投稿の選定から投稿者への使用許諾を得るところまで、ecbeingの管理画面上で行えるという。静止画のみならず動画の投稿もECサイトに載せることが可能。「visumoの分析機能を使えば、売上につながるユーザー投稿を可視化し、把握することもできる」と森氏は補足する。
新規のCVR、リピート率とも約3倍に
次に森氏が紹介するのは、レビュー最適化ツールのReviCoだ。ecbeing自体にもレビューをECサイト上に掲載する機能を搭載してはいるものの、ReviCoでは複数の商品・サービスを横断したレビューを収集するという。これにより、レビューを投稿してくれた人にだけamazonギフト券をプレゼントする施策などが実施可能に。「レビューを効率的に集めつつ、レビュー内容の質向上も図れる」と森氏は語る。
森氏はReviCoの導入事例を二つ紹介。一つ目は、生地や毛糸、手芸材料、下着やランジェリーなどのECサイトを運営するオカダヤの事例だ。同社ではReviCoを活用したことで、レビューの投稿数が増加。導入前と比較して、新規CVRが約360%アップし、リピート率も約300%向上したという。
二つ目は、ハーブティー専門店の「enherb」が行った、レビューを広告のリッチ化に応用した事例だ。たとえば、Googleで「イチゴ ハーブティー」と検索すると、複数のハーブティーが検索結果として出てくるが、enherbの商品には他社の商品にはない星マークとレビュー数が記載されている。これがReviCoの機能によるものだという。
ReviCoを使えば、商品詳細ページにレビューを載せるのみならず、収集したレビューを「ギフトシーン」など共通するシーンやテーマごとにまとめて、独自にページを作成することもできるそうだ。森氏によると、最近はレビューの活用方法が多様化し「広告への応用」や「ECサイトのリッチ化」など、単純なレビュー掲載に留まらないアウトプットが増えてきているという。
ABCマートが進める「メディアコマースサイト」化
森氏は本講演の主題である「マーケティングプラットフォームの最適化」を企業が目指す上で「ユーザーとのコンテンツの“共創”さらには集客したユーザーの“ファン化”を促すことが重要」と語る。また、商品理解から購買までを商品詳細ページで完結させる体験設計が企業側に求められることも改めて指摘。「この二つのポイントを押さえるには、自社のECサイトをメディアコマースサイトにしていく必要がある」と提案する。
メディアコマースサイトとは、コンテンツが読める「メディア」と「ECサイト」が一つになったサイトのことを指すそうだ。ユーザーはECサイトだけでなく、コーポレートサイトやブランドサイトなどにもランディングする点を踏まえ「これら複数のサイトに、ユーザーがシングルサインオン(※)で回遊できるようになれば、企業はユーザーとのコンテンツの“共創”と“ファン化”を達成しやすくなる」と森氏。つまり、ECサイトをメディアコマースサイト化するには、各ブランドサイトとECサイトをシステムとコンテンツの両面から連携させる必要があるというわけだ。
※ユーザーが各種サイトのうちのどこかで一度ログインすれば、ログイン状態のまま他のサイトにも遷移できること
メディアコマースサイトの例として、森氏はABCマートの事例を紹介する。同社のECサイトでは、たとえば「ローカットスニーカー」と検索したユーザーに対し、検索結果として該当商品を表示するのみならず、ローカットスニーカーについて解説した記事コンテンツも表示。まさにメディアコマースサイトを体現したつくりとなっている。
運用負荷軽減を実現したシチズン時計の事例
森氏はメディアコマースサイト化の事例として、シチズン時計のサイトも紹介する。シチズン時計では、各ブランドを一覧で紹介したオフィシャルサイトとECサイトを統合。オフィシャルサイトのトップページに新商品や売れ筋商品を複数のバナーで表示する仕様へと変更した。
バナーはCMSプラットフォーム「サイトミライズ」を使って掲出し、ノーコードで画像の差し替えや更新を行っているという。画像の差し替えを行う場合、本来なら制作会社に委託して一からサイトをコーディングし直す必要がある。しかしサイトミライズを導入したことでECサイトをヘッドレスコマース(※)化し、運用負荷を軽減したのだ。
※ECサイトのフロントエンドとバックエンドを切り離し、独立させた形のシステムアーキテクチャ
また、シチズン時計のブランドの一つ「wicca」においても、ECサイトの商品紹介ページなど、静的ページはすべてサイトミライズを使って構築。より柔軟なデザイン更新やコンテンツ制作が可能な環境を整えたそうだ。「担当者の負担軽減とPDCAの高速化、いずれも実現するマーケティングプラットフォームこそが次世代のECサイト」と森氏は語る。
ecbeingではシステムの提供のみならず、専門人材によるマーケティング支援も積極的に行っているという。
「システムを通じて業務効率を高めた上で、マーケティング戦略の策定など、人を介在させた方が良い分野では専門人材をアサインします。ecbeingは、システムと人を掛け合わせてクライアントの売上の最大化を目指します」(森氏)