広告表現にはびこるジェンダーバイアス
——最近、日本の広告業界でもジェンダーやダイバーシティ&インクルージョンが話題になってきました。とはいえ、ようやく議論が始まったという段階で、ここからどのような取り組みをしていくかが焦点となっています。一方全米広告主協会では、2016年から「SeeHer」というプロジェクトを通じて多様な女性を正しく描き、その可能性を広げる取り組みを続けているそうですが、スタートした経緯を教えてください。
Jeannine Shao Collins(以下、コリンズ)氏:SeeHerは広告代理店やマーケター、メディアなどから集まった1つの共同体として運営している組織で、現在は約100人が参加している団体です。P&Gやユニリーバ、ウォルマート、ターゲットなどのグローバル企業のマーケターが在籍しており、普段は競合企業ですがSeeHerのなかでは互いに協力し、マーケティングや広告におけるジェンダーバイアス解消に向けて取り組んでいます。
SeeHerは男女平等をプロモートする活動をしていますが、特に広告やメディアにおける女性や女の子たちの表現を研究しています。人種や文化、国籍の違いに関係なく、すべての女性が持つ可能性をメディアを通して伝え、そうした女性たちが様々な方々のロールモデルになるカルチャーを推進したいと考えています。まさに私たちのモットーである「If you can see her, you can be her」を実現し、業界全体のカルチャーを変革していくことが活動のモチベーションとなっています。
——具体的にどのような活動を展開しているのですか?
コリンズ氏:まず、この活動の進捗を客観的に測る必要があるということで、GEMスコア(Gender Equality Measure)という指標を作りました。これにより、世界中の広告のなかで男女平等がどのように表現されているかを測ります。現在、20万件以上の広告をGEMスコアで評価しており、メディアにおけるジェンダーバイアスを測定するためのグローバル・スタンダードな手法となっています。
男女平等の度合いを数値で評価するGEMスコア
——GEMスコアでどのように男女平等を測るのでしょうか。
コリンズ氏:GEMスコアは、広告やコンテンツ内で描かれている人々の描写に対する消費者の反応を数値化するために作られました。具体的には、消費者の方に広告を見ていただき、「女性の見せ方をどう考えているのか」「丁寧な表現になっているか」「特集のされ方が不適切ではないか」「彼らはロールモデルとなり得るか」という4つの質問を提示して、各問いについてスコアを付けてもらいます。この数値を足し合わせてインデックス化しているのですが、スコアが100点以上であれば「男女平等に適っている」と評価できます。
コリンズ氏:GEMスコアはデモグラフィックや人種、セクシュアリティ、年齢など様々な指標で細かく分類することができます。なぜかといえば、世界には多様な女性がいるので、自身がどのカテゴリーにあてはまったとしても「自分たちはこういうふうになれる」というロールモデルをメディアのなかで実現していくことが目標だからです。
——グローバルで展開されているということですが、男女平等の度合いはその国の文化によって変わると思います。女性の人権が相対的に低い地域のコンテンツだとGEMスコアも低く出ると思いますが、そのあたりはいかがでしょうか?
コリンズ氏:GEMスコアは国ごとで運用されるのではなく、広告やブランド単体で見ていくものなので、ご指摘のようなことが起こると思います。ここで非常に重要な点を強調したいのですが、私たちの目的は男女平等を推進することといっても、GEMスコアが低いからといってそういう企業をおとしめたり、非難したりということは絶対に行いません。これは全スタッフ共通の意識です。
そんなGEMスコアを使って、今回私たちのほうで初めて日本企業の3つのCMを検証しました。