カスタマージャーニーを再構築するべき、消費行動の二大変化
この数年で、消費者の意識やそれにともなう消費行動が大きく変化してきた。コロナ禍による環境変化で働き方が多様化し、それにより暮らしへの価値観も変わってきている。また、安心・安全に対する意識やサステナブルな消費意識も高まっている。そして消費行動には、デジタル接点が増えた。
「これらの変化に合わせて自社のカスタマージャーニーを再設計し、消費者変化に対するCXを見直すことが求められている」とチーターデジタルの加藤氏は語る。
「当社が全世界5,000名の消費者に調査をしたところ、以前とは異なる意識や行動が明らかになりました。60%近くの消費者が、好みのブランドにより多くのお金を払うと回答しています」(加藤氏)
この背景には、「ブランドが自分を個人として理解してくれている」「自分の価値観に合っている」「ロイヤルティプログラムを高く評価」といった点をブランド選びの評価基準にする消費者が大幅に増加していることがあるという。
一方で消費者の行動や意識にそぐわない体験が、ブランド離反の原因となることがわかってきた。
「同じ会社から購入しているが、そのブランドにロイヤルティを抱いているわけではないという消費者の割合は67%でした。つまり何かのきっかけで容易に別ブランドへとスイッチされてしまうということが想定されます。また、ブランドを離れる要因として、78%の消費者がより安くより便利であれば他社を探すと回答しています。他のブランドのキャンペーンや買い物体験が良かったためブランドをスイッチした、という消費者も一定数存在しているということです」(加藤氏)
加藤氏は、こういった事実からもカスタマージャーニーの見直しが問われているのは間違いないと指摘する。
2年で会員数が1,200万人を超えた、VANSのロイヤルティプログラム
加藤氏はセッションの中で、環境の変化にうまく対応している企業の事例をいくつか紹介した。
まず、シューズアパレルブランドのVANSは、チーターデジタルとともにVANS Familyというカスタマージャーニー全体に作用する新たなロイヤルティプログラムを立ち上げた。このプログラムにより、実に50%がECからの売上となり、約2年で会員も1,200万人を超えた。
なぜ、VANS Familyはこれだけの会員増加を2年という短期間で実現できたのか。この理由を加藤氏は「ゼロパーティデータを活用した顧客理解」「予測モデリングを使ったパーソナライズ」「多様なベネフィットの提供」の3つに分けて解説した。
1つ目の「ゼロパーティデータを活用した顧客理解」では、購入や来店といった行動データからは見えてこない、消費者が自ら明かしてくれる好みの傾向、利用意図、購入意向とデータを収集・活用。このようなデータをゼロパーティデータと呼称する。VANS Familyでは、最初にスケートボードやサーフィンなどVANSユーザーと関連性の高い趣味から興味のあるものをユーザーに質問する。その他にも、選んだ趣味の熟練度や商品知識、靴のサイズなどを深掘りしていき、顧客解像度を高めている。
「変化する顧客とロイヤルな関係を築くためには、顧客にも自分たちのことを教えてもらわなければなりません。VANS Familyではオンボーディングコンテンツやアンケート、イベント、Webコンテンツ、メールなどを通じて顧客がどの領域に興味を持っているのか予測してプロファイルを構築しています」(加藤氏)
プロファイル構築後に行われるのが2つ目の「予測モデリングを使ったパーソナライズ」だ。VANS Familyでは、「アクティビティモデル」「製品傾向モデル」「購買行動モデル」「購買価値モデル」の4つの予測モデリングをもとにセグメントを作成し、一人ひとりの顧客の反応を見ながら施策を展開している。
そして、3つ目の「多様なベネフィットの提供」に関して重要なのは顧客を楽しませながらブランドの世界観を伝えることだ。
「アーティストとのコラボスニーカーのプレゼントキャンペーン、スケートボードのトリックを投稿するとポイントがもらえるコンテスト、持っているVANSスニーカーの数を教えるだけでリワードを受けられる仕組み、このように楽しみながら稼いだポイントを様々な景品や特典と交換できるようになっています」(加藤氏)
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THE NORTH FACEのロイヤルティプログラムが愛される理由とは?
続いて加藤氏が紹介したのは、アウトドアブランドのTHE NORTH FACEと、全米でフランチャイズ展開をしているシューズ販売企業Fleet Feetの事例。
THE NORTH FACEでは、XPLRPASS(エクスプローラーパス)というロイヤルティプログラムを運営している。同社のブランドパーパス「冒険で世界を切り拓く」の延長線上にある顧客の行動を推奨し、特定の行動を取るとリワードポイントがもらえる仕組みだ。特定の行動には、国立公園へのチェックインなどが挙げられる。加藤氏は「ブランドが自社の存在意義を訴求することでロイヤルティ経済圏を拡張している事例」と評価した。
一方ブランド力の低さに課題を感じていたFleet Feetは、「シューズを履いてランニングをした」「フィットネスをした」といった行動に対してポイントやマイルが貯まる仕組みを構築。獲得したポイントやマイルはアプリで一元管理できるようにし、クーポンや限定イベントへの参加権など多様なベネフィットを提供した。このようにロイヤルティプログラムを通じてカスタマージャーニーを変革したことで、わずか9ヵ月で300万人の会員を獲得した。
カスタマージャーニーの再構築に欠かせない2つの要素
続いて加藤氏は、カスタマージャーニーを進化させる方法について紹介した。従来のカスタマージャーニーは、ペルソナを複数設定し、顧客行動の大枠のステージ、詳細な行動、ブランド接点、感情変化などを把握するために活用されていた。企業は設計したカスタマージャーニーをもとにシナリオを作り、マーケティングオートメーションでパーソナライズした施策を展開してきた。
しかし、加藤氏は従来のカスタマージャーニーに2つの要素を付加して再構築することが重要だと語る。
「1つは、ブランドにとって顧客の望ましい行動を評価するレコグニションやリワードの機会を提供すること。もう1つは、まだ活用できていないブランド独自のベネフィットをアンロックすることです」(加藤氏)
レコグニションやリワードの機会とは、たとえば複数ブランドを利用してくれたらそれを評価する。顧客でいてくれた期間の長さも同様だ。店舗へのチェックインやソーシャル投稿も評価対象に入れれば、カスタマージャーニーの接点は自然に広がっていく。
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ベネフィットはハードとソフトをバランス良く設計
続いて加藤氏は、ブランド独自のベネフィットをアンロックする方法について解説した。同氏によれば、ベネフィットはハードとソフトに分けられる。
ハードベネフィットは、割引やクーポン、サンプル商品の提供などを指す。一方、ソフトベネフィットには、ブランド独自の製品体験イベントやコンテンツへの限定アクセス、特定の条件を達成したときに与えられる称号などが挙げられる。
加藤氏は「ソフトベネフィットはとても大きな可能性を秘めている」と語る。たとえば、商品企画に参加できる権利もソフトベネフィットの1つだが、これはブランド好意度を高めるポテンシャルを秘めている。
先ほど紹介したVANS、THE NORTH FACE、Fleet Feetのすべてがハード・ソフトのベネフィットを組み合わせながら、カスタマージャーニー上の様々な接点でつながりを作っている。すでにロイヤルティプログラムを提供している企業も、「ハードベネフィットに偏っていないか?」という視点を持つ重要性が加藤氏の話から理解できるのではないか。
付加できる新たなブランド資源の検討が必要
加藤氏はセッションの最後、現在の自社のブランド資源を見つめ直す重要性について語った。ブランド資源を見つめ直すことで、自社ブランドだからこそ提供できるレコグニションやリワードの機会、ハード&ソフトベネフィットが見えてくる。
ブランド資源を見つめ直すポイントは「自社のブランドの特徴とカスタマージャーニー上の特性を合わせて考えること」だという。
「たとえば製品やブランドの差別化強度を縦軸に、横軸には製品購買サイクルの長さを置いた図を作成します。図の中で自社ブランドがどこに位置づけられるかで、ハードベネフィット、ソフトベネフィットのどちらを強化すべきか、それともハイブリッドで取り組むべきかが変わってきます」(加藤氏)
加藤氏は認知から購買、購買後の口コミまで、カスタマージャーニーのどのステージに力を入れるのかが整理できるフレームワークを紹介し、セッションを締めくくった。
このように、従来のカスタマージャーニーを再構築し、顧客のロイヤル化を支援するチーターデジタル。同社はツールの提供に加えて、マーケター向け学習プログラム「Marketing DX Academy」を運営している。
本レポートを通じてゼロパーティデータや顧客ロイヤルティの重要性を感じた読者は、ぜひ同社のコンテンツをご活用いただきたい。
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登壇企業(登壇順)
オンワードデジタルラボ、ラコステ ジャパン、
アクティブ合同会社 CEO 藤原 尚也氏
株式会社顧客時間 共同CEO/取締役 奥谷 孝司氏
Starbucks Technology(US)、株式会社Henge CEO 廣田 周作氏