※本記事は、2022年11月25日刊行の『MarkeZine』(雑誌)83号に掲載したものです。
3人から100人規模へ。楽天 顧客戦略部の成り立ち
──はじめに「顧客戦略部」とはどのような組織なのか、教えていただけますか?
顧客戦略部は、3人の有志メンバーで立ち上げたプロジェクトから始まった組織です。当初は、社内で公式に認められた組織(部)ではありませんでした。
私はマッキンゼー・アンド・カンパニー、博報堂コンサルティング、組織開発のベンチャー企業を経て2010年に楽天に入社しています。楽天の企画部門では入社して最初の約1ヵ月、徹底的に経営課題をヒアリングしたり分析したりする期間があり、楽天の課題やビジネスチャンスがどこにあるかを自分なりに考えて、最終的には提案するところまで各自行います。その提案をそのまま自分のミッションとすることもあるのですが、私の場合はまさにそのケースでして。「楽天市場というプラットフォームは出店者と消費者の両方で成り立っているけれど、法人(出店者)向けの営業が先行して強く、消費者向けのマーケティングに伸びしろがあるのではないか?」という課題提起を当時、全社内へして回りました。その課題に対するアプローチの提案も含め、入社して半年くらいはそれらを全社発信する活動をしていたんですね。
これは楽天の魅力のひとつですが、「チャレンジできるところがあったら、まずは一歩踏み出す。仕組みや能力は後から整えていけばいい」というように、チャレンジを歓迎するカルチャーがあります。楽天自身がどんどん成長を続けているので、課題解決が必要な粗が常に存在する、逆に言えば貢献できる領域がまだまだたくさん残っている状態とも言えるでしょう。
私の提案に対しても「やりたいなら、やってみればいい」ということで、非公式のイニシアチブとして2012年に活動を始めたのが顧客戦略部の始まりです。公式に部として認定されたのは2015年で、現在は100人ほどのメンバーが所属する組織になっています。
──BtoCのマーケティングを担う部門とはまた別の機能・役割を持っているのでしょうか?
組織は生き物なので、ダイナミックに形を変化させていくことが求められます。これは私の仕事のやり方ですが、課題が大きいけれど誰も手を付けていない所を自分がやり、ある程度先が見えてきたら次の課題を見つけていくというように、会社の課題に応じて自分や組織の役割を進化させていくことを意識してきました。
BtoCのマーケティングを行う部署は、顧客戦略部を立ち上げた当時も存在していて、その部署は楽天市場のキャンペーンやSALE施策などをメインに行っていました。これらの施策によって流通高は確かに跳ね上がるのですが、値引きによる施策は副作用もあって、当然利益率は下がりますし、また中長期的な顧客関係構築に必ずしもつながりません。短期的な流通施策の対になるものとして、中長期的な顧客関係構築を戦略的に行っていく必要があると考え、顧客戦略部はこれを自身のミッションとし活動を始めました。具体的には、「楽天ポイント」や楽天の公式キャラクター「お買いものパンダ」のアセットをベースにした顧客関係構築が、顧客戦略部で展開してきたものの一部です。こうしてお客様に向けてたくさんの価値を提供してきましたが、ここ3年程、改めて出店者様や企業様側も見るようになっています。
楽天グループ内に限らず、ECプラットフォームから大きく拡大した楽天経済圏の中で、楽天ポイントは強力なマーケティング手段として有効です。そこで開発したのが、楽天ポイントを企業様にも活用してもらい、一定のマージンをいただくというビジネスモデルです。出店者(企業)側と消費者側、両サイドから楽天経済圏を見て、さらに拡大させていくことが、現在の顧客戦略部のミッションになっています。