売れるものをつくるための「WHO」と「WHAT」
佐藤(MOTTO):「アプリゲームマーケティングの新定石〜トップマーケターが共有する、今理解すべき本当のマーケティングトレンド〜」というテーマで議論を進めて参ります。モデレーターを務める佐藤です。普段はアプリゲームのマーケティング支援を行っています。
宮本(バンダイナムコ):私は元々バンダイネットワークスで、フィーチャー・フォン用コンテンツの企画運営をしばらく担当していました。その後バンダイに出向し、男児向けのおもちゃの開発を経てバンダイナムコエンターテインメントにジョインしました。以来ずっとアプリゲームに携わっています。現在は「開発マーケティング」という職掌で「より売れるものづくり」の体系化や仕組み化を推進する立場です。
近藤(Colorful Palette):僕は「プロジェクトセカイ」というアプリゲームのプロデューサー兼ディレクターを務めています。セッションのタイトルに「トップマーケター」と冠されていますが、僕はマーケターではありません。あくまでプロデューサーとしてマーケティング活動に携わっています。
佐藤(MOTTO):最初の議題は「ヒットを生み出すための新定石」です。ご自身の考える新定石を二つずつ考えて来ていただきました。まずは宮本さんから教えてください。
宮本(バンダイナムコ):私が考える新定石の一つ目は「売れるものをつくる」です。当社ではマンガやアニメなどのIP(キャラクターなどの知的財産)とコラボしたタイトルを多く展開しています。売れるものをつくるにあたっては「そもそもお客様はなぜそのIPが好きなのか」「そのIPのどんなところに魅力を感じているのか」という原点に立ち戻り、企画の初期段階で「WHO」と「WHAT」をクリアに描くことが重要なんです。
WHOとWHATを詰める際は、プロデューサーが頭の中に思い描いているイメージを共有してもらい、一緒に言語化します。言語化したものを今度はビジュアル化して、関係者全員が見てわかる形に落とし込むんです。その上でターゲットを定めるステップに進むのですが、市場調査はそれなりに時間を要します。特に海外の国や地域を調査の範囲に含めるとなるとなおさらです。仮説をスピーディーに検証するため、当社では必要に応じて社内のIPファンを探してインタビューする方法も採っています。
KPI予測で事業のリスクを正しく把握する
近藤(Colorful Palette):ファンの声を集めるプロセスは非常に大事ですよね。一方で、意見をプロデューサーが素直に聞き入れるのかどうかが気になります。
宮本(バンダイナムコ):「こんなゲームが欲しい」という主観は別として、ファンの行動や思考回路は貴重な参考情報として客観的に受け止めていますね。
近藤(Colorful Palette):ゲームのプロデューサーやディレクターは顧客に対して真摯な方が多い印象です。市場調査の結果だけを伝えてもなかなか受け入れてもらえないため、「あなたが大事にしている顧客がこう言っていますよ」というアプローチは確かに大切だと感じます。
佐藤(MOTTO):「売れるもの」についてもう少し深掘りさせてください。プロダクトが売れるかどうかは前もって判断できるものなのでしょうか。できるとしたら、お二人はどのように判断されていますか。
近藤(Colorful Palette):正直確信はできないです。企画を生み出す際は、当然戦略を立てますし調査もします。市場規模から事業目標の到達が見込めて、僕たち自身も「面白いものができる」と思えた時に企画が始まります。ただ、ゲームをつくる過程は「もうダメだ」と「すごいものができそうだ」の繰り返しです。
「これはいけるかもしれない」と実感できるタイミングは後期。ゲームとしてある程度形になり、自分がプレイして楽しめるようになった時と、ユーザーさんの反応が自分の想定を上回った時です。それでも、100%の自信を持って「売れる」と判断することはないですね。
宮本(バンダイナムコ):当社では、グループ会社のバンダイナムコネクサスとともに「KPI予測」という取り組みを進めています。過去の実績と今の市場のトレンドを掛け合わせて分析を行い、ダウンロード数やお客様のLTVをある程度予測値として出すものです。予測の目的は売れるかどうかを判断することではなく、事業のリスクを正しく把握することにあります。
佐藤(MOTTO):作り手の主観を信じる近藤さんのアプローチと、データドリブンに予測する宮本さんのアプローチが対照的で興味深いです。
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