楽器専門ECサイト、初のテレビ×Webの広告出稿
MarkeZine編集部(以下、MZ):今回はリットーミュージックから篠崎さんと、テレビ朝日で動画広告の制作・配信をディレクションした寺田さんにお話をうかがいます。まず、事業内容やご担当の領域を教えてください。
篠崎:当社は音楽専門の出版社でして、『ギター・マガジン』など雑誌やムック本、書籍のほかに楽器専門ECモール「デジマート」を手掛けています。私は20年ほど雑誌の編集に携わり、DTM専門誌『サウンド&レコーディング・マガジン』編集長を経て2022年4月からデジマートの責任者を務めています。デジマート自体は2022年に25周年を迎え、現在530ほどの楽器店に出店いただいています。
寺田:私はテレビ朝日に入社後、番組制作、編成セクションを経て、現在は営業にて、アドバタイザーさまや広告会社さまへの広告企画提案などを担当しています。テレビ朝日は早くから、マスとデジタルを横断したコンテンツや広告のあり方を模索しており、コンテンツに起因した施策の実施や、2019年にはデジタル動画広告配信プラットフォームを手掛けるUltraImpressionの設立も主導しました。私はそうした取り組みの中で、これまで経験してきた番組制作や編成、営業といった領域の知見を活かし、新しいソリューションを生み出せないかを考えています。
新規ユーザー獲得とともに「音楽人口」を増やす
MZ:今回の出稿の背景をお聞きします。ECサイトや出版事業で長く生活者に向き合ってこられる中、リットーミュージックさんは昨今のデジタルシフトの流れをどのようにご覧になっていますか?
篠崎:デジタルシフトへの対応は、まさに当社の数年にわたる課題です。雑誌媒体で培った読者とのつながりをベースに、現在は紙媒体のブランドを冠したWebサイトも並行して運営し、数値データを活用したビジネスを構築しているところです。一方で、紙媒体がもたらす印象や影響力といった“数値化できない要素”も同じように重視しており、紙とWebの両輪、かつスマホを前提に、ユーザーとのコミュニケーションを深めようと努力しています。
MZ:テレビCMを出稿したECモールのデジマートは、これまでどのようなプロモーションをされてきたのですか?
篠崎:デジマートは、各種雑誌やムックなど自社媒体からの誘導やSNS広告、他の音楽系の紙媒体やWebマガジンへの広告出稿なども重ねて、ありがたいことに順調に規模を拡大できています。ただ、今後も生活者のデジタルシフトはもっと加速するでしょうし、まだ新規ユーザーへの伸びしろもあると考えて、私が責任者に就任したタイミングでタッチポイントの拡大を検討しました。その中で、音楽番組「関ジャム 完全燃SHOW(以下、関ジャム)」が思い浮かんだんです。
音楽に対して“能動的”な人とつながりたい
MZ:音楽プロデューサーなども参加する、割とディープな番組の印象です。
寺田:アーティストだけでなく、プロデューサーやアレンジャーの方をゲストに迎え、様々な形で音楽にアプローチしている番組です。
篠崎:演奏者やクリエイターの側に立った構成や、音楽を冷静に分析する玄人感・オトナ感は、私自身いつも楽しみにしています。音楽業界にいる方々の注目も高い印象ですが、でも決して小難しくない。これらの特長は、デジマートでこれからタッチしたいユーザー像と合致すると考えました。
当社は以前もテレビCMを出稿していた時期はあったのですが、この15年ほどは出していませんでした。ですが何周かして、先ほど申し上げた“数値化できる効果”と“数値化できない効果”の両方、つまりデジタルとマスとの連携は必須だろうと、デジマートの責任者になったときからテレビCMは視野に入れていました。現時点で最新の「テレビ×Web」の展開を学びたい思いや、限られた予算で最大の効果を得るための手段を考えており、ネットで調べてすぐに見つけた問い合わせ先から直接連絡したんです。
MZ:ターゲティングなら、むしろオンラインの方が絞り込んで行えるようにも思えますが、その点でどのようなことをマスメディアに期待されたのですか?
篠崎:番組を“能動的に”視聴していることですね。今回は「関ジャム」という番組のいわば一本釣りで、教育要素もある番組を自分から観ている人とつながりたい思いが強かったです。
7本の動画広告を提案、からの8本目が採用に
MZ:具体的なオーダーについて、うかがえますか?
篠崎:前述の出稿の背景とともに、今回は「30代~50代の楽器好きな方」を中心的なターゲットとしてお伝えしました。他には、いくつかキーワードを提示して、あとは自由に考えていただきました。
MZ:それに対して、テレビ朝日さんはどのような企画を提案されたのでしょうか。
寺田:我々は「コンテンツ制作」「メディア」と、制作者とプラットフォームという両面を持つところが特徴だと思っています。それらの特性もあわせて、動画広告の制作と、出稿・配信の組み合わせを提案させていただきました。
出稿・配信は、「関ジャム」のテレビ放送と、TVerでの見逃し視聴に配信しました。動画広告は、ラフなものではありますが最初、7パターンを提案させていただきました。動画自体はリットーミュージックさまに納品し、純広告としてYouTube広告やSNS広告などでも利用していただいています。
MZ:7パターンの中から選んだのですか?
篠崎:いえ、実は7つともそれぞれ良さがあって社内では選びきれず、ちょうどターゲットの年齢層と同じお父さまがいる当社の新卒社員に、好きなCMをリサーチしてもらったんですね。すると思ったよりも“エモい”“ほっと一息つける”ような雰囲気に魅力を感じるという意見が出まして、恐縮しつつあらためてお伝えしたところ「大人の時間を趣味のギターで過ごす」というテーマをしっかり投げ返していただきました。その8本目が最終的に放送したものとなりました。
篠崎:また演者さんをこちらで決めさせてもらえたこともうれしかったです。当社のネットワークを生かして、著名なアーティストのサポートや、関ジャニ∞さんにも楽曲提供しているギタリストの髙慶"CO-K"卓史さんに依頼することができ、弊社の強みも活かしたコラボができました。
狙った層へのリーチに加え、反響も
MZ:前段で、篠崎さんから数値化を重視されているお話もありましたが、今回の結果について定量と定性の両面で、手ごたえを教えてください。
篠崎:定量的には、満足が行く結果が得られたと思います。今回はテレビ放送+TVerでのプランでしたが、TVerは再生回数のデータが確認できるだけでなく、配信希望の番組を絞ってCMが打てますし、CM自体をしっかりユーザーに見ていただける仕組みになっています。「関ジャム」を見たい!という方々が視聴しているわけですから、想定ターゲットの純度が高く、やってみて良かったと思います。
定性的には、デジマートに出店する楽器店の方々に、当社の注力度をお伝えできたことが何よりも大きかったです。社内でも、部署横断的にテレビ×Webの知見を深められ、盛り上がりも生まれました。また、放送後に取引先から「デジマートさん、頑張っていますね!」といった温かいお声をいただいたり、CO-KさんのTwitterにお祝いコメントが入ったりと、ポジティブな輪の広がりも実感しました。
MZ:今回テレビ朝日さん、制作に協力したAbemaProductionさんと組まれてどのような印象がありましたか?
篠崎:最初から、とても信頼感がありました。最初は予算が大きくないことを懸念していましたが、当社の立場に立って考えてくださることがよくわかり、テレビとWebに精通したプロに安心して任せられると感じました。
プロジェクトのキックオフ後は週1のミーティングで制作の方々とも直接やりとりできましたし、撮影時はカメラや音声さんの対応ひとつにも質へのこだわりがあって、とても勉強になりました。動画は世にあふれていますが、プロの細やかな仕事はやはり特別だと感じます。
専念視聴率が高いTVerを加味した構成
MZ:質の部分は、テレビ局の制作の強みですね。
寺田:はい。構成や映像のクオリティに加えて、皆さんが安心して観ていただける点も重視しています。マスメディアとしての知見を活かせている点と感じています。
特に、テレビと同じ動画広告をTVerで流すにあたっての工夫も盛り込んでいます。今回は関ジャムでの放送でしたので、視聴者の方に興味を持ってもらえるようなメロディーを生かした構成にしております。認知獲得というテーマがあった中、よりサービスの印象、内容を伝えるためにナレーションを追加するという考えもあったかもしれませんが、広告が流れるコンテンツの特性と共に、専念視聴率が高いTVerでの配信ではテロップでの表現でもメッセージを理解いただけるのではないかと思い、演出を整理させていただきました。
MZ:最後に、今後の展望をお聞かせください。
篠崎:今回の出稿からは学ぶところが非常に多かったです。今回のマス広告に続いて、来期はイベントのようなリアル企画もデジタル施策と両輪で検討しています。そんな中、テレビ朝日さんには音楽イベントのメニューもあるということで、そちらもよい縁としてお話を伺えればと思っています。様々なメニューが「テレビ局」にはあるということを知ることができたのも収穫でした。
これからも引き続き、ユーザーとのコミュニケーションを模索して、楽器人口を増やしていきたいと思います。
寺田:今回、リットーミュージックさまにお問合せいただいたことで、様々なことを私たちとしても学ばせていただきました。生活を豊かにできるであろうサービスをまだまだ私たちは知らないのだな、と。そういったサービス、商品をお持ちのアドバタイザーさまのコミュニケーションを、広告というコンテンツ制作と共に、安心してご覧いただけるメディアを通じて展開させていただくことで、アドバタイザーさま、そして視聴者のみなさまにポジティブな経験をしていただけたら嬉しいです。何かございましたら、気軽にご相談いただけたらありがたいなと思っております。