「オタク層」「ミーハー層」「マス層」の特徴
トレンダーズの中谷友里氏は、総フォロワー数570万人のSNS美容メディア「MimiTV」の事業責任者を務めている。
中谷氏はまず、美容商材におけるSNSの使い分けとターゲット別の戦略について解説。最新の美容マーケティングにおいて、ユーザー理解の鍵となるのは「年代」ではなく「美容感度」だ。美容感度にはグラデーションがあり、その高低によってユーザーを「美容オタク層」「ミーハー層」「マス層」に分けられるという。
「同じ年代の中でも、美容オタク層、ミーハー層、マス層が存在します。それぞれの層でSNSリサーチの方法は異なるため、美容商材のSNSマーケティングではこの3層を意識してターゲットを設計したほうが良いでしょう」(中谷氏)
では、それぞれの層のユーザーはどのようなSNSリサーチを行うのか。中谷氏によると、美容オタク層はTwitter→Instagramの順番でリサーチする人が多いそうだ。一方、ミーハー層は「話題になっているもの」が気になり、日常生活の中でも使用頻度の多いInstagramをまずはチェックする。マス層では「美容以外の目的でSNSを見て、たまたま拡散されている美容コンテンツが目に入る」というケースが多いという。
マス層のコスメ購入時の心理は「失敗したくない」「既にみんなが試して流行しているものを使いたい」であるため、「マス層はミーハー層の情報を参考にする傾向がある」と中谷氏。そしてミーハー層が参考にしているのは、自分たちより感度の高いオタクの情報だ。つまり、まずは美容オタクに共感してもらえるように施策を練ることが美容マーケティングのポイントだと語る。
モノ軸×ヒト軸のUGCでバズを生む
中谷氏が商品の「認知」と「購買」のきっかけになったSNSを調べた結果、認知のきっかけになったSNSではInstagramがトップだった一方、購買の参考になったSNSトップはTwitterだったという(MimiTV調査、2022年12月実施)。つまり、美容感度の垣根を超えた考え方だとInstagramで知り、Twitterで情報を詳しく調べて購入するという流れが見えてくる。
また、店頭で商品が買われているときにSNSでは何が起こっているのかを中谷氏が解説。店頭での商品の売れ方は「発売後に売れるが、その後売れ行きが失速するパターン」や「ひっそりと発売して、勝手にバズって売れていくパターン」など様々だ。理想的なパターンはもちろん「初速が好調で、その後も長く売れていく」パターンだろう。店頭における初速の売れ行きが好調で、その後も売れ続ける状態の要因として、中谷氏は「Twitter上で美容オタクが注目し、その後にInstagramへと連鎖する動き」を挙げる。
「流行している化粧品の担当者に話を聞くと『Instagramで勝手にバズっていった』と言われることがありますが、実はほとんどの場合、Instagramでバズる前にTwitterで話題化されています」(中谷氏)
中谷氏は「InstagramとTwitterの投資を重点的に行うことが大切」と強調した上で、SNSでバズったコスメのマーケティング施策に見られる三つの共通項を紹介した。
一つ目は網羅性があること。TwitterやInstagramなど、様々なSNSに連鎖をしていることが重要だという。二つ目は継続性。「話題の〇〇!」など、様々な投稿者が継続的に自社商品をお勧めしてくれている状態のことを指す。
そして三つ目が「モノ軸×ヒト軸のUGC」だ。「この商品の特にここが良い」というモノ軸の詳細情報と「私がおすすめします」という投稿者のメッセージ要素が掛け合わさったヒト軸UGCは、バズを生む上での鍵になるのだという。
YOLUの成功事例に見る「好感認知」の重要性
店頭で売れる仕組みをより詳細に説明するため、中谷氏はナイトケアビューティーブランド「YOLU(ヨル)」のヘアマスクの事例を紹介する。
YOLUブランドでは、以前からシャンプーの売れ行きが良かったことから、ヘアマスク発売の際にはSNS上で「あのYOLUからヘアマスクが出た」と話題になっていたという。「つまりYOLUのヘアマスクは、ただ製品名を知っている『認知』の状態ではなく『この製品が自分の髪にどう良いか』『使うとどんな良い状態になれるか』までユーザーに知ってもらえている『好感認知』が既に醸成できていた」と中谷氏は語る。
好感認知を育てていくことで初めて、店頭での購買につながるという。なぜなら、ただのブランド認知だけでは自分の身体に合っているかがわからず、結果として消費者は商品を購入しないからだ。
「一般的に『認知が拡大すれば売れる』と思われてきましたが、それだけでは店頭での購買にはつながりにくくなってきました。より深い認知、つまり好感認知を得る必要があり、そのためにも事前にSNSで商品を訴求する必要があります」(中谷氏)
実際、7割の人が「SNSで見て買うものを決めてからお店に行く」と回答した調査結果もあるという(MimiTV調査、2022年8月実施)。では、SNSにおける理想的な発話とはどのようなものか。それが、前述のモノ軸・ヒト軸双方の投稿が存在する状態だ。
「モノ軸のUGCの例として、美容高関心層が美容専用のアカウントなどで商品の特徴について詳しく取り上げた投稿があります。ヒト軸のUGCの例は、インフルエンサーによる発話です。『私のおすすめや愛用の製品です』と紹介されれば、そのインフルエンサーのことが好きな人たちにリーチされます」(中谷氏)
口コミのリーチ数は計1,500万imp以上必要
中谷氏によると、バズったといわれる製品をひも解くと「InstagramとTwitterでそれぞれ約100件以上の口コミ」が発生しているケースが多い。加えて「ユーザーへの口コミのリーチ数は、発売のタイミングで500万以上、発売後は1,000万以上必要」とも指摘する。
施策をモノ軸とヒト軸に分けて実施し、モノ軸では美容オタク層を対象にギフティングを、ヒト軸ではインフルエンサーにPR投稿を促すのが効果的だという。また、発売後にはモノ軸・ヒト軸双方のUGCを広告に活用することを中谷氏は勧める。
「ギフティングやPR投稿は、元々美容に興味があったり依頼したインフルエンサーが好きな人には届きますが、製品名やブランドを知らない人、新製品を日頃から積極的に買わない人たちにはほとんど届きません。そこで広告を活用し、美容に対する興味が高くない層にも見てもらうことが重要です」(中谷氏)
広告コンテンツも共感を得やすいInstagram
セッションの後半、Metaのビューティ業界などの営業・メディアプランニング担当である奥田さら氏が登壇し、Instagramユーザーの最新動向と、美容商材プロモーションへのInstagram活用法について、中谷氏と知見を共有し合う。
奥田氏は「Instagramは2023年も引き続き大きく成長している」と述べ、その主要な理由としてリール機能の存在を挙げる。リールとは縦型短尺動画の配信面だ。リールが加わったことで、Instagramはよりエンターテインメント性が強化されたという。
さらに、アルゴリズムなどユーザーに向けたコンテンツ配信の仕組みの最適化も進んでいる。その結果「広告コンテンツもユーザーからさらに共感を得やすいプラットフォームに進化している」と奥田氏は語る。
そして奥田氏は、中谷氏が語ったSNSマーケティングにおけるUGCの重要性について同意を示した上で、「ユーザーが共感しやすいInstagramでは、UGCの価値もさらに高まっている」と指摘する。
「Instagramは『クリエイターが自分を発信するプラットフォーム』であると同時に『ユーザーがそのクリエイターをフォローするプラットフォーム』でもあるのです。これら二つの特徴がますます際立つ昨今、クリエイターが作るUGCの消費に対する影響力もますます高まっていると感じます」(奥田氏)
マス層も見るInstagramで接触機会を増やす
奥田氏はInstagramというプラットフォームの強みとして、美容オタク層やミーハー層に加え、彼ら・彼女らの発信を参考にしているマス層も非常に多い点を挙げる。マス層の人たちは、Instagramのリールやフィード、ストーリーズなどあらゆる面で商品情報を何度も目にすることで「この製品は流行っているのだな」「この製品を見たことがある」と感じるようになるという。
このような連鎖を作ることで好感認知は高まり、マス層による購買につながる。この好感認知醸成に欠かせない要素が、UGCを広告として活用する視点だと両氏は強調する。
「リーチを拡大させる意味でもUGCは非常に有効ですし、そもそもUGCは広告主様のアセットです。広告に活用しないことは単純にもったいないと思います」(奥田氏)
「マーケターの方が思っているほど、生活者の方は『化粧品の情報収集をしよう!』というマインドでSNSを見ていません。だからこそ、広告配信によって情報との接触機会を増やしていく必要があると考えます」(中谷氏)
最後に中谷氏は「このセッションを機に2023年のプロモーションプランをアップデートしてもらいたい」と話し、本セッションを締め括った。
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