組織として成果を上げるための「3つの共通言語」とは?
続いて山口氏が、組織として成果を出すうえで重要な3つの共通言語について解説した。そのうち、1つ目の「誰に? 何を? どのように?」と、3つ目の「事業フェーズ別の判断基準」は、前半の西口氏の理論と思想が重なる部分が大きいと山口氏。
また2つ目に挙げた「用語・指標の定義と相場観」については、チームのメンバー間で共有してこそ意味がある項目といえる。これらを組織で共有することで、費用や労力などのリソースを無駄なく生かし、足並みをそろえて事業成長につながるマーケティングを実行していくことができる。本イベントでは、特に1つ目にフォーカスして講義が展開された。
いずれの共通言語も、それが共有化されていないとどうなるかという“落とし穴”を想像するとわかりやすい。「誰に? 何を? どのように?」は、西口氏の指摘と同じく「誰に(WHO)と」「何を(WHAT)」がまず重要だ。この共通言語1を欠いている場合の一つ目の落とし穴は、顧客理解と顧客価値が弱いこと。これらがあいまいだと、チーム内の認識がずれたまま施策ばかりが膨張してしまう。
2つ目の落とし穴は、施策投資の全体最適化ができないこと。広告やデジタルマーケティングやSEOなど、施策の各領域のことしか把握していない専門家が何人そろっていても、全体を俯瞰してどの施策にどの程度の投資をするのかの判断は不可能だ。「この2つを回避することは、組織においてとても重要です」と山口氏。
次の図は、山口氏が提唱する「マーケティングの『OS』と『APP(アプリケーション)』」の考え方を表している。「誰に・何を」の部分と、施策の浅い部分が「マーケティング思考」であり、内部の人材が備えるべきOSだ。一方で施策の深い部分は、必要に応じて外部の専門家に委託可能なAPPとなる。
「マーケティング思考」というOSを備えた人材を内製化
デジタルの発展により、APPに該当する施策の種類がどんどん増えている。流行り廃りのサイクルも極めて速いので、顧客理解と顧客価値を固めておかなければ変化に対応できない。したがって、このようにOSとAPPを切り分けて「OS部分を共通言語とする」考え方は、重要度を増しているといえるだろう。
マーケティング業務推進のプロセスをひも解いても、OSを強固にすることがいかに大切かわかる。「『誰に・何を』をチーム内でしっかりすり合わせできると、施策の判断基準が生まれます。すると施策の企画や制作も外部へのディレクションを含めて短時間で的確に進められ、修正も早い。結果、業務推進が円滑になり、組織の労働時間としても健全になります。逆に『誰に・何を』がないままに施策の検討から始めてしまうと、手戻りも多くなり、工数が増えて組織が疲弊していくので、避けたいところです」(山口氏)
共通言語2「用語・指標の定義と相場観」の落とし穴は、「新規顧客」「ロイヤル顧客」といった用語、またCPCやCPAなどの指標の定義が統一されないまま議論がなされ現状や課題の認識がずれてしまうこと。当然、打ち手もずれてしまう。
そして共通言語3「事業フェーズ別の判断基準」については、事業フェーズが違うとマーケティング活動のゴールや活躍する人材も異なるが、その共通認識がないと適材適所の人材配置や変化への対応が難しくなることが落とし穴だ。
「マーケティングで成果を出せるチームは、総じて顧客に対して深く思考し、施策の試行回数も重ねられています。個々の能力が同じでも、共通言語の有無でチームとしての成果が変わるので、しっかり社内にインストールして『マーケティング思考』を備えた人材を増やすことが重要です」と山口氏。顧客理解を出発点にしたマーケティングの考え方を身に着けることで、日々の成果を確実に引き上げていくことができるだろう。
