いま熱いトピックスを、様々な視点から掘る
SXSWには世界中からさまざまな業種、職種の人が集まり、その専門領域は多岐にわたる。普段はまったく違う業界で活躍する人たちがオースティンに一同に会して、まだ見ぬ世界を求めて冒険を繰り広げるのだ。参加者が多様であるからこそ、カオスな雰囲気が生まれるのだが、話題となるトピックはいくつかの根っこに集まるように思う。
今年筆者が主に見たSXSW Interactiveでは、気候変動やダイバーシティの問題、AIとの共存などがカンファレンスのテーマとして取り上げられることが多かった。メタバースやXRの使い方についても頻繁に話し合われていた。そこには明確な「課題に対する答え」があるわけではないが、異なる業界の人たちが多様な視点から議論することで、結果として普遍的なキーワードがあぶり出される。たとえば、AIが浸透することでむしろ「人間性」の価値が高まることや、メタバースやXRという新しい世界を快適にするためには、その空間に「コミュニティ」や「カルチャー」を醸成する必要があること、などだ。

AI時代とは、人間が機械にはできないことを始める時代でもある、というJohn Maeda氏の話はとても印象深かった。頭の中にあるパズルの足りないピースが見つかり、はまっていく。それがSXSWのおもしろいところだ。
テクノロジーを使い倒す時代に「テクノロジー」をどう捉えるか
SXSWも、コロナ前とコロナ後でトレンドがやや様変わりしているように感じる。コロナ前はブロックチェーンなどのニューテクノロジーが脚光を浴びて、そこに夢を抱くことが多かった。
ところが、コロナ禍を経て、テクノロジーだけでは世の中は変わらない、テクノロジーを駆使しても我々は病気や戦争などに対して無力なままである、ということもわかった。それと同時に、ピークデジタルと言われるように、みんながテクノロジーの恩恵を受け、テクノロジーが飽和状態になった側面もある。今求められているのは、テクノロジーを使い倒す時代における「人間性の再構築」だ。
SXSWで印象的だった例を1つ挙げると、XR体験コンペティションのコーナーで展示されていた「Body of Mine VR」というものがあった。これは性同一性障害とトランス・アイデンティティを探求するためのコンテンツで、VRの世界で自分の身体と対話することを目指したものだ。具体的には、VR上で自分の身体をさまざまなジェンダー・人種の身体に置き換えることで、心だけは自分のままに他人の身体に入り込む体験ができるというものだ。このような複雑なアジェンダを言葉で共有するのはとても難しいが、XRというテクノロジーが登場したことで、それを視覚的・体感的に説明することができるようになった。

テクノロジー自体には今となっては新しさを感じなくても、このコンテンツを体験して「自分が見たかったのはこれだ!」と感激したのと同時に、コンテンツを開発する背後では膨大な時間を費やした議論が交わされていたのだろうと想像し、XRの深みを感じた。