データの蓄積・活用をしているか、していないかが大きな差に
――最初に、お二人の目から見た、近年のデータ活用の状況やトレンドを教えてください。
白石:近年はサードパーティCookieに対する規制や個人情報保護法改正などの影響から、データ活用のあり方を見直す企業が増えていると感じています。また、個人もプライバシー保護への感度が高まり、データとの向き合い方を模索するようになりました。
その中でSMCCは、現在私が統括するデータ戦略部を3年前に立ち上げました。立ち上げ当時は、市場のデータ活用に対する感度は高まっていたものの、活用はまだまだという状態でした。
しかし、この3年で自社のデータ活用の推進、また自社の持つキャッシュレスデータを活用したデータ分析支援サービス「Custella(カステラ)」の提供開始など、あらゆる取り組みが前に進みました。
社内はもちろん、カードの加盟店様からも「データ活用に本腰を入れたい」とご相談をいただく場面が増えていきます。
――白井さんはいかがでしょうか?
白井:白石さんのおっしゃる通り、サードパーティCookieに対する規制が強まり、これまで通りのデジタルマーケティングというのは難しくなっています。
そのため、これまで以上に重要となるのが、ファーストパーティデータやゼロパーティデータ(顧客が意図的・積極的に企業に提供するデータ)の蓄積・活用です。
もし、2つのデータを集める会員組織やデータ基盤がないのであれば、急ぎ仕組み作りが求められると思いますし、会員組織やデータ基盤がある企業はよりそれを活かしたデータ蓄積・活用に取り組むべきだと考えます。
大事なのは値の変化ではなく、ビジネスに与える影響
――データアドベンチャーには、クライアント様からデータ活用に関するあらゆる相談が来ると思います。その中でも、特に多い相談はどういった内容なのでしょうか。
白井:最もいただくのは「データはあるけれど使えていない」というご相談ですね。多くの企業では、ここ数年でデータを蓄積する基盤の構築が進みました。また、そこで集まったデータをダッシュボードに表示するといった取り組みまでは進んでいる、というところが多い印象です。
しかし、ダッシュボードで「何かの数字が変化している状態をグラフで表示するだけ」になっているだけでは、ビジネスは良い方向に進みません。その結果、「今いるメンバーでダッシュボードのグラフを眺めていても、ビジネスの成長につながらない」という状況に陥ってしまうのです。そのような状態から私たちにご相談をいただく、というケースは多くあります。
――データアドベンチャーではそのような課題に対し、どのような提案・支援をしているのでしょうか。
白井:まずは、ビジネス上のゴールをうかがった上で、データ活用の現状や蓄積しているデータを調査します。その結果、現状保有しているデータでできること、できないことを整理し、課題解決策や必要な人員の提案をしています。ただし、多くの場合は蓄積すべきデータが取れていないので、必要なデータの取り直しから始めています。
先ほどのダッシュボードの例における問題は、「数字の変化がビジネスの何に影響を与えるか」「データを分析・活用して何をしたいか」が把握できていない点です。データを効果的に活用するためには、まずデータの変化がビジネスに起こす影響を理解し、ビジネスのゴールに沿った正しいKPIを設定することが求められます。
三井住友カードの事例に学ぶ、データ活用への道のり
――続いて、白石さんから現在三井住友カードが推進しているデータ活用について、もう少し詳しく教えていただけますか。
白石:SMCCでは、2019年にCustellaをリリースしました。これはSMCCが保有するキャッシュレスデータを、個人・加盟店が特定できないよう統計化し、事業者のマーケティング課題に合わせて、分析から施策の実施まで行うデータ分析支援サービスです。
私たちは現在、このCustellaとというサービスを通じて小売業の皆様とご一緒に、様々なテーマに取り組んでいます。また、私たちが保有するキャッシュレスデータは、元は決済業務のために定義されているため、マーケティング目的に合わせたクレンジング処理にも精力的に取り組んでいます。たとえば「ふるさと納税」をキャッシュレスで決済したデータは、「その他税」という項目で表示されてしまうことがあります。そのままではユーザーの決済行動や意図が読めないため、人の目で仕分ける必要があるのです。
AIなどの技術を駆使しながら、データの蓄積・整理には取り組んではいますが、まだまだ改善が必要です。これからも様々なチャレンジを行い、できることのレパートリーを増やすべきだと考えています。
白井:SMCC様は、決済データを保有している強みを最大限活かしていますね。決済データは、商品やサービスの利用前後の行動を把握することができ、具体的なユーザー属性も理解できます。確度の高い顧客へアプローチする手掛かりとなるわけですから、これからのデジタルマーケティングにおいて、とても有効なデータだと思いますね。
三井住友カードのデータ活用における組織体制、パートナーの役割
――SMCCでは、現在どのような組織体制でデータ活用に関する業務を行っているのでしょうか。
白石:データ戦略部は現在、約80名のメンバーで構成されています。さらに、業務委託のパートナーの皆様を含めると100名を超える体制を敷いています。
――パートナーの方も一部入れながら組織を編成しているとのことですが、パートナーにはどういった役割が求められると思いますか。
白石:組織のパフォーマンスを高度化し、平準化する上で、パートナーの存在は欠かせないと思っています。SMCCのデータ戦略部は、前身のデータ戦略室時代に5~6名の組織で、そこからキャリア採用を急拡大し現在の人数規模まで拡大してきました。
しかし、データ活用領域の採用は競争が激しく、望み通りの採用ペースを保つのは難しいです。また、組織の流動性とも向き合って、入社後に更なる成長を求めて転職する方を気持ちよく送り出していけるような組織としての度量が必要になっているとも感じています。
そのような組織が不安定になる要素を解消する上でもパートナーの存在は重要です。安定して業務を遂行してくれる上に、データのマネジメント戦略といった上流からデータ活用施策の実行など下流部分までサポートしてくれます。SMCCでは、それくらい垣根なくパートナーと一体になっています。
両社が共通して考える、データ活用に必要な人材
――データアドベンチャーでは、要件に合わせてアナリストやエンジニア、データサイエンティストなどの社員を常駐させる形で支援していると思いますが、支援する際に大事にしていることはありますか。
白井:社員の採用時から意識していることですが、顧客に寄り添う意識を持って支援にあたることを大事にしています。データをいじってアウトプットを提出して終わりでは意味がなくて、その先の売上や利益につなげる支援が必要です。
弊社には「データと意志と情熱で心豊かな社会を作る」というミッションがありますが、そのためには、顧客ビジネスの成果向上にコミットすることが大切だと考えています。そのため、採用段階からそのミッションをお伝えし、共感いただける方に入社いただいています。
データを分析しただけでは、企業にとって単なるコストです。そうではなく、分析したデータをどう売上へつなげていくか。そのために、必要なデータ活用のあり方を考えることを大切にしています。
データ活用の未来を切り開く両者のこれから
――最後に今後の展望について教えてください。
白石:今年度の始まりに際し、三井住友フィナンシャルグループの社長である太田から「社会的価値を創造できない企業は、経済的価値を追求する資格すらなくなる」いう主旨のメッセージがありました。私自身、最も重要なメッセージと受け止め、データ戦略こそ社会的価値と経済的価値の両方を追い求めていくべきだと決意を新たにしました。
データビジネスの観点でいくと、私たちのポジションは加盟店などの企業と消費者をつなぐハブにあたります。クレジットカードは人によっては半生を寄り添うプロダクトであり、決済データはある種生活の記録ともいえます。我々はハブとしてその大切なデータを活用し、企業と消費者、双方を豊かにしていきたいです。
昨今はChatGPTに注目が集まっていますが、今後も様々な技術が生まれてきます。そういった技術も活用しながら、人間の心も大事にしてサービスを提供していきたいと思っています。
――白井さんはいかがでしょう?
白井:私たちは、今後もあらゆる領域でデータの活用を支援し、新しい価値を生み出していきたいと考えています。
データ活用は新しい取り組みであり、世の中で誰もまだ誰も見つけていない使い方もたくさんあるはずです。事業企業はデータを持っていますが、それをどう活用すれば売上・利益につながるのか、全ての活用法を発見しているわけではありません。私たちのような支援会社は、技術を持っていてもデータや事業上の課題は持っていません。
その中で我々は、顧客企業も気づいていないデータの活用方法を提案し、適用して、企業が持つデータを余す所なく売上・利益につなげていく先端的な事例を作りたいです。そのために直近ではスペシャリストを集めた研究開発と顧客企業への提案、実装を行う部隊を作りました。
データからこれまで以上の価値を取り出すことに成功した実績を積み上げ、再現可能な手法を確立していくことで、いずれはサービス戦略に資するデータ活用といえばメンバーズデータアドベンチャーというような、市場を作っていくような存在になっていきたいと思っています。
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