ペルソナとは
ペルソナとは、マーケティング領域において「理想の顧客像」という意味で使われる架空の人物像です。企業が提供する商品・サービスにとって最も重要な顧客モデルとして、綿密なデータに基づき、実在するかのように具体的に作成していきます。
性別や年齢はもちろんのこと、学歴やライフスタイル、趣味嗜好、価値観など様々な属性をチェックして設定されます。
ペルソナとターゲットの違い
ペルソナと同じく、顧客像を表す用語に「ターゲット」があります。2つの違いは「どれくらい具体的か」という点です。ペルソナはターゲットより具体的に属性が設定され、さらにターゲットが「層(集団)」であるのに対し、ペルソナは「個人」を表す点も異なります。
ペルソナ ターゲット
意味 高い具体性を持たせて
作り込んだ架空の顧客像 性別・年代などの属性で
区切った実存する集団
属性 性別、年代、職種、収入、
居住地、ライフスタイル、
趣味、家族構成、行動パターンなど 主に性別、年代
続いて、なぜマーケティングにおいてペルソナが必要なのか考えていきましょう。
ペルソナがマーケティングに必要な理由
ペルソナがマーケティングで重視される理由について、詳しくご紹介します。
顧客への理解を深められる
ペルソナの設定を通して様々な要素を細かく考えていくうちに、顧客理解を深めることになり、提供すべき商品・サービスのコンセプトや集客方法などを考えやすくなります。
BtoCでペルソナを設定する場合は性別・年代から家族構成、仕事や収入、ライフスタイル、趣味、近年ではどのSNSを利用するかまで、非常に細かく属性を考えていきます。
BtoBの場合、最終的な顧客は企業となるため、企業ペルソナと人物(クライアントの担当者)ペルソナの2つが必要です。企業ペルソナは業種や商材、従業員数、業界の動向、抱える課題などを属性にしましょう。人物ペルソナはペルソナ企業に属する人物を想定するため、役職や経歴、決裁権の有無、担当業務などを属性とします。
顧客の視点を得られる
性別・年齢・職業などの表面的な属性に加え、趣味嗜好や行動パターンまで細かく想定したペルソナを作成することで、より顧客に近い視点からマーケティング戦略を考えられるようになります。ペルソナのニーズや悩みにアプローチした商品・サービス開発から、効果的な広告手法や響きやすい表現まで把握することも可能です。
社内スタッフ全体でイメージを共有できる
マーケティング施策の設定には、一般的に複数のスタッフが関わりますが、その際に「男性、サラリーマン、30代」のようなターゲット設定でマーケティングを進めると、スタッフ間で認識のズレが起こる恐れがあります。
認識が一致しないままマーケティング施策を決定・実行すると、効果が望めない、修正に時間や手間がかかるなどの問題が発生しかねません。しかしペルソナなら具体的に設定されているため認識のズレが起きにくく、全員で共通の認識を持ちスムーズに業務を進めることができます。
マーケティングでペルソナが果たす役割に続いて、ペルソナマーケティングの注意点についてご紹介します。
ペルソナマーケティングの注意点
マーケティングで行うペルソナ設定には多くのメリットがありますが、注意すべき点もいくつか存在します。
時間・コストがかかる
ペルソナ作成には、データ分析に加えてアンケートやインタビューなど、人手と時間がかかる作業が必要です。しかしこの工程を適当に済ませると、精度の高いペルソナ作成は望めません。そのためペルソナマーケティングを行う場合は、作成にかかる人材と時間をできるだけ正確に見極める必要があります。
訴求対象がターゲットに限られる
ペルソナマーケティングはターゲットという「層」から、より実在に近い人物像を作成し、効果的な訴求を図る方法です。そのためターゲットを絞り込めるメリットがある一方で、ターゲット以外には訴求しにくくなるというデメリットもあります。
したがって自社の商品・サービスを広く浅く認知してもらいたいケースには、ペルソナマーケティングは向いていません。自社が必要とするマーケティング手法について、あらかじめ確認しておきましょう。
ペルソナ作成後は見直しが必要
作成したペルソナは市場やユーザーの価値観や行動パターン、自社の戦略の変更などに応じて柔軟に作り直す必要があります。過去に設定したペルソナと実際のユーザーにズレが生じないよう、定期的なブラッシュアップを意識しましょう。もちろん、作成したペルソナを用いてマーケティングを進めてみたところ、想定と違った結果が出た時は早急な見直しが必須です。
ペルソナの作り方
続いては具体的なペルソナの作成方法についてご紹介します。次の5ステップに沿って進めていきましょう。
STEP1:情報を収集する
既存データの利用
自社の商品・サービスについて顧客の意見やクレームなどがデータ化されていれば、非常に役立ちます。たとえば過去の購入情報や性別、年齢、居住地、購入済の商品・サービス、購入額など様々な要素をチェックしていきます。BtoCの場合、自社のSNSアカウントがあれば顧客の声を拾い上げられます。
アンケート実施
顧客にアンケートを行い情報収集します。アンケート項目 はプロフィールや仕事、購買するまでの情報収集や比較・検討の方法などを設定しましょう。新規事業で顧客がいない場合 はターゲットユーザーへのアンケートがおすすめです。
顧客へのインタビュー
インタビューはできる限り、売上の80%を占めている上位2割 の顧客を対象に行いましょう。インタビュー方法 には1:1で行うデプスインタビュー、4~8名程度で行うグループインタビューなどがあります。商品・サービスの選択・購買理由などを深く掘り下げて聞きたい時はデプスインタビュー 、新商品やパッケージなどの開発を行う時はグループインタビュー が向いています。
STEP2:特徴的な要素の抽出
STEP1で収集したデータからペルソナを構成する要素を抽出します。類似している、あるいはまとめられる要素はグループ化して名前をつけましょう。たとえば「趣味は映画」「休日は家族でアウトドアを楽しむ」などの要素であれば、まとめて「ライフスタイル」というグループにします。抽出した要素・グループの詳細はExcelなどのシートにまとめておくと便利です。
STEP3:ペルソナのスケルトン作成
STEP2で抽出した要素またはグループを参考に、ペルソナの骨子となる「スケルトン」を作成します。スケルトン作成には下記の属性を利用します。
1. デモグラフィック (人口統計学的な属性)
性別、年齢、居住地、職業、年収などの属性
2.サイコグラフィック (心理的な属性)
性格や趣味嗜好、ライフスタイル、価値観、仕事やプライベートで抱える課題などの属性
ここからは、スキンケア製品メーカーA社がペルソナマーケティングに取り組んだという架空の例をもとに作り方を紹介します。A社が作成したスケルトン例は以下です。
【スキンケア製品メーカーA社(BtoC)が作成したスケルトン例 】
名前:中野美咲
性別:女性
年齢:28歳(平成8年生まれ)
職業:食品メーカーの営業職
年収:370万円
学歴:東京の私立大学(共学)
家族構成:両親、3歳下の妹
居住地:東京23区内の実家に家族と暮らす
勤務地:東京都千代田区岩本町
利用しているSNS:Instagram、LINE、Twitter
趣味:映画鑑賞、お菓子作り
休日の過ごし方:スイーツの食べ歩き
人間関係:学生時代からの友人が10人以上
STEP4 ペルソナの作成
スケルトンをもとに、ペルソナのストーリーを作成していきます。骨組みに肉付けしていくように、より具体的な人物像を作っていきましょう。その人のライフストーリーを語るつもりで、エピソードを設定してください。
【スキンケア製品メーカーA社(BtoC)が作成したストーリー例 】
東京出身、日本大学経済学部を卒業。現在は都内の老舗食品メーカーに営業職として勤務。実家暮らしで家族関係は良好、勤務先の人間関係はつかず離れず、特に問題なし。
甘いお菓子(和洋とも)に目がなく、休日の過ごし方は1人、または友人と一緒にスイーツの食べ歩き。自宅(実家)のキッチンでお菓子作りを楽しむこともしばしば。
甘いもの好きのせいか吹き出物が出やすいが、楽しく過ごす時間を大切にしたいため、食べ歩きやお菓子作りをやめる気はない。
仕事が多忙でスキンケアにかける時間を削りがち。30代が目前でそろそろアンチエイジングも気になっているが、実際より若く見えることから「まだ大丈夫」と油断している部分も。
スキンケア用品はドラッグストアやネットで安価・手軽に買えるものがメイン。購入の参考にしているのはInstagram投稿や、大手ショッピングサイト・口コミサイトなどの評価。
STEP5 ペルソナの検証
「ペルソナマーケティングの注意点」でもご紹介しましたが、ペルソナは「作って終わり」ではありません。顧客ニーズの移り変わりが速い現在、定期的な見直しは必須です。
作成したペルソナは必ず検証を行い、営業担当者に意見を聞いたり、ペルソナが現実とずれていないかアンケートなどの調査でチェックしたりしてください。
ペルソナ作成の流れに続いては、作成時に注意したいポイントについて解説します。
ペルソナを作る時はここに注意!
効果的なペルソナ作成のために、下記の点に注意してください。
データの正確性
ペルソナはデータの集大成ともいえるため、活用するデータの正確性によって人物イメージが大きく変わります。正確なデータを収集するには、既存の自社データの精査や多人数へのアンケート・インタビューなどが効果的です。
またインターネット上でデータを収集する場合はソースに注意し、個人のブログなど主観的な内容を鵜呑みにせず、総務省など客観的かつ信頼性の高いデータを使いましょう。
ペルソナの現実性
理想の人物像を目指すあまり、現実離れしたペルソナを作成しないよう注意が必要です。実在するデータに基づいた人物像の設定を意識し、作成する人の主観や願望、思い込みなどでペルソナを決定しないよう心がけてください。
設定の精度
ペルソナ作成においては年齢や性別の他、収入、居住地、家賃などライフスタイルの割り出しに使えるデータ、趣味嗜好や行動パターンなど価値観が測れるデータを活用し、精度の高い人物像を作る必要があります。特に価値観は世代によって大きく異なるため、ペルソナに当てはまる世代の考え方を理解しておきましょう。
主観的になっていないか
ペルソナ作成は作っている人の主観が入る恐れがあります。特に趣味嗜好や価値観など、数値化・類型化が難しい定性データを用いて作成する部分は、担当者の意見や感想が反映されがちです。できるだけ主観を排除するため、ユーザーに意見を聞く、複数の自社スタッフにチェックしてもらうなどの対策をおすすめします。
近年はChatGPTなどのAIがビジネス分野に幅広く活用され、ペルソナ作成への対応も可能になってきました。続いてはペルソナ作成にAIを活用する方法について解説します。
ペルソナ作成にAI(ChatGPT)を活かす!
成果につながるペルソナを作成するためには、顧客に関する多種多様なデータを集め、分析しなければなりません。人手や時間がかかるこの作業をより効率的に進めるには、AIの導入が効果的です。
ここでは近年話題になっているOpenAI社が開発した人工知能チャットボット「ChatGPT」を例に考えます。膨大なテキストデータを自動で学習し、自然言語を生成・応答することができるChatGPTを使い、ペルソナ作成の効率化や質の向上を実現する方法についてご紹介します。
AI(ChatGPT)がペルソナ作成にもたらすメリット
データ分析のスピードアップ
顧客から集めたアンケートやインタビュー内容など、大量のテキストをChatGPTに読み込ませれば、手間・時間がかかりがちなデータ分析でも、一貫した傾向やパターンが素早く見つかるでしょう。
ペルソナの精度向上
ChatGPTは自然言語処理(NLP)にあたり、ラージ・ランゲージ・システム(LLM) と呼ばれるアルゴリズムを活用しています。LLMは数十億の単語に対応可能で、膨大なテキストデータから言語構造やパターンを学習し、精度の高いペルソナを作成します。
客観的なペルソナ作成につながる
ChatGPTは人間と異なり客観的な視点でペルソナを作成するため、担当者の偏った主観が反映される恐れは少ないといえます。
作成したペルソナの反応を予測できる
ChatGPTでは、作成したペルソナを使って顧客との会話コミュニケーションを行うこともできます。たとえば自社の商品・サービスを紹介するシナリオを考え、ペルソナの反応を見れば、ターゲット層にどう受け入れられるかの予測につながります。
便利に使えるChatGPTですが、機密情報漏洩のリスク には注意が必要です。ChatGPTは入力されたデータを学習・活用する場合があるため、機密性の高い情報を入力すると不特定多数のユーザーに内容を知られる恐れがあります。
AI(ChatGPT)でのペルソナ作成方法
プロンプトを作成する
プロンプト とはChatGPTに応答テキストを生成させるための命令文のことです。ChatGPTを利用してペルソナの精度を上げるには、質の高いプロンプト作成が欠かせません。適切なプロンプト作成のコツは下記の通りです。
【プロンプト例文:バックオフィス業務効率化のクラウドサービス開発・販売メーカー(BtoB)の場合】
- 検索した企業の「顕在ニーズ」と「潜在ニーズ」を、それぞれ3点ずつ予想してください。
- 続けて、検索した企業の担当者のペルソナを作成してください。ペルソナ作成の際は、下記の5点の要素 を含めてください。
-
私たちは、企業に向けて経理や人事、労務などのバックオフィス業務を効率化するクラウドサービスの開発・販売を行うメーカーです。私たちは現在、営業先の新規開拓を希望しています。「バックオフィス業務 効率化」で検索する企業を予測してください。その際は下記の4点の要素を含めてください。
- 企業名
- 企業規模
- 業種
- 課題
-
続けて、検索した企業の担当者のペルソナを作成してください。ペルソナ作成の際は、下記の5点の要素 を含めてください。
- 名前
- 性別
- 年齢
- 所属部門
- 役職
- そのペルソナが「バックオフィス業務 効率化」という検索ワードで情報を探すまでの経緯を、ストーリー性を持たせて表現してください。
プロンプト作成の注意点
・条件を指定する
上記の例では、「その際は下記の4点(または5点)の要素を含めてください」という部分が条件になります。条件の指定によって、より質問の意図に沿ったわかりやすいアウトプットにつながります。
・指示は明確にする
ChatGPTをはじめとするAIは「曖昧な指示」が非常に苦手で、質問の意図を誤って認識する恐れがあります。上記の例なら「バックオフィス系サービスを購入する企業は?」のようなざっくりした質問は避けましょう。
・具体的な情報を記入する
上記の例では「そのペルソナが『バックオフィス業務 効率化』という検索ワードで情報を探すまでの経緯を、ストーリー性を持たせて表現してください」という部分にあたります。たとえば「そのペルソナのニーズについて説明してください」というプロンプトに比べ、より具体的な回答を得ることができます。
ペルソナ作成に関するポイントを解説してきましたが、実際にペルソナ活用を行った企業は、どのような成果を収めているのでしょうか。次はペルソナマーケティングの成功事例をご紹介します。
ペルソナマーケティングの成功事例
ペルソナを使ったマーケティングについて、その効果が気になる方も多いのではないでしょうか。ここでは3社の成功事例についてご紹介します。
Soup Stock Tokyo
「スープを通して世の中の体温を上げる」を理念に掲げるSoup Stock Tokyo。2023年4月には離乳食の提供を開始し、大きな反響を呼びました。同社のペルソナ「秋野つゆ」は都内在住のキャリアウーマン。独身または共働きで経済的に余裕があり、社交的でありつつ自分の時間も大切にする生活を送っています。
同社はマーケティングコンセプトを「秋野つゆを満足させること」に設定し、彼女が共感する店舗作りと商品開発を行った結果、創業10年で売上高42億円、店舗数69(系列店含む/2023年3月現在 )へ急成長しました。企画プランニングでは「つゆさんらしい」「つゆさんっぽくない」という声がスタッフから上がるほど、浸透した存在になっているそうです。
日立アプライアンス
BtoBのペルソナマーケティングで成功を収めているのが、業務用空調機を手がける日立アプライアンスです。同社はエンドユーザーに販売を行う設備店の抱える課題に注目し、1,800社以上の設備店にアンケート・インタビューを実施。エンドユーザーではなく、あえて設備店の経営者「旭立信彦」というペルソナを設定し、空調機を売りやすくするという目標を立てました。
「旭立さんに必要な情報は何か」にフォーカスして様々な販促ツールを見直し、設備店との「輪郭のはっきりしたコミュニケーション」を通して、店舗向けシングルパッケージ型エアコンのシェアを9.8%から11.1%へと伸ばすことに成功しています。
BASE
誰でも簡単にネットショップを開設できるサービス・BASE。2022年末には同サービスを利用したネットショップ開設数が190万店を突破し、設立から10年で大きく規模を拡大しました。同社の創業者はなんと、ペルソナとして「自身のお母さん」を想定。どちらかといえばITリテラシーが低い「自身のお母さん」のような人でも、楽に使えるECプラットフォームを開発しようと考えました。
元々はたった1人の実在する人物のために作られたこのサービスが、リリース後に大きな人気を呼びます。このことからも絞り込まれた人物像・ペルソナの重要さが理解できます。サービスの拡大後も「お母さん」が使いやすい機能開発を徹底しているという同社。基本からぶれない施策がいかに効果的かの見本といえるでしょう。
ペルソナの効果的な作り方を知ってマーケティングに役立てよう
人々のライフスタイルが多様化した現在、顧客ニーズの理解・把握に役立つペルソナはますます重要になってきています。ペルソナの作り方を理解し、よりよいマーケティング施策を行っていきましょう。