デバイスドリブンからヒューマンドリブンへ
――広告・マーケティングにおけるモバイルの重要性や役割を田中さんはどのように捉えていますか。
「パーフェクトタイミング、パーフェクトメッセージ」というフレーズがあるように、マーケティングにおいては最も伝えるべきメッセージを最適なタイミングで伝えることが肝要です。モバイルは人間に近いデバイスですから、フィルムやデザインなど他のカテゴリにはできないことが数多くできると考えています。
多くの人が肌身離さず持ち歩くデバイスだからこそ、なかなか他人が入り込めない瞬間に入り込むこともできます。たとえば香港のモバイルアプリ「UNDERCOVER」は、侮辱的な単語をフックに録音を開始することで、家庭内暴力の証拠を密かに記録するものです。社会課題の解決につながるという意味でも、モバイルはポテンシャルが高いカテゴリだと思います。
モバイル部門は2012年、スマートフォンの発展とともに生まれました。デバイスドリブンで始まったこのカテゴリが、今やヒューマンドリブンになりつつあることがわかります。
マーケティングの手段としてのクリエイティブ
――田中さんがモバイル部門の審査員を務めるのは3回目だとうかがいました。今回はどのような学びが得られましたか。
今回久々にセレモニーやモバイル以外の部門の授賞式も見たのですが、自分が若い頃に来たときと同じような刺激を受けました。クリエイティブという仕事の難しさを改めて実感するとともに、一つのアイデアで人の気持ちを動かすことの尊さを学びました。
他国の参加者との交流も大変刺激になりました。知らない間にかかっているバイアスを自認するきっかけになるからです。様々な価値観や方向性を知ることは、日本で仕事をする我々にとって貴重な機会だと思います。
カンヌライオンズと聞くと「クリエイティブな人たちが集まって、自分たちの業界を褒め合っている」という偏ったイメージを抱く方がいるかもしれませんが、実は多様な人たちと出会えるネットワーキングの場でもあるんです。今は「マーケティング手段としてのクリエイティブ」という構図がはっきりしているため、マーケターがカンヌライオンズに参加すれば刺激を受けられるでしょうし、今の仕事がもっと楽しくなると思います。