グループ内の利用データだけでは限界を感じていた
MarkeZine編集部(以下、MZ):京王グループのカード事業を担う京王パスポートクラブでは「京王パスポートVISAカード」のCRMを進めるにあたり、課題を抱えていたとうかがいました。具体的にどのような課題があったのでしょうか。
今泉(京王パスポートクラブ):主に二つの課題がありました。第一の課題は、会員様の利用動向が掴めていなかったことです。
今泉(京王パスポートクラブ):グループ内利用で貯まる京王ポイントのデータは、当社で自由に閲覧・分析ができるものの、グループ外利用となると確認することはできません。最近はグループ外でのVISAの利用シェアが拡大していることもあり、京王ポイントのデータだけでは捕捉できる範囲に限界があったのです。全体的な利用動向を掴むことで、利用促進のより効果的かつ効率的な打ち手を講じたいと考えていました。
もう一つの課題は、新規会員の獲得です。これまで百貨店やスーパーを中心に会員獲得を行ってきた背景もあり、既存会員の高年齢化が進んでいました。そのため「次世代会員の獲得」を目標に掲げていたものの、次世代の定義が明らかになっていなかったのです。また、新しい層へアプローチするにあたり、これまでにない発想で施策を考える必要性も感じていました。
圧倒的なクレジットデータ量と提携先の多さが決め手
MZ:先にうかがった二つの課題を解決するために、三井住友カードの「Custella Analytics」を活用したそうですね。数ある分析サービスの中からCustella Analyticsを選んだ理由を教えてください。
今泉(京王パスポートクラブ):最も大きな理由は、提携カードの中でも際立って多い京王パスポートVISAカード会員のクレジット利用データ量です。大きな母数を分析しなければ、正確なデータは出てこないと考えました。加えて、VISAは鉄道系の同業他社や流通系など提携先が非常に豊富なカードですから、当社が参考にできるデータもあると感じた次第です。三井住友カード様にお声掛けした際、参考資料として見せていただいたCustella Analyticsの事例が非常に興味深く、データの納得性も高かったため、当社もお願いすることにしました。
MZ:京王パスポートクラブの課題を踏まえて、三井住友カードからはどのような分析プランを提案されたのですか。
上杉(三井住友カード):京王パスポートVISAカード会員様の分析はもちろん、当社のプロパーカードの会員様や、他の電鉄系提携カードの会員様との比較により、京王パスポートVISAカード会員様の特徴を明らかにするプランを提案しました。
上杉(三井住友カード):具体的には、グループ内外の利用状況に応じて京王パスポートVISAカードの会員様を「ライト」「ミドル」「ヘビー」に分類し、それぞれの特徴をあぶり出してLTVを可視化します。その上で注力すべき層を見定め、有効な獲得施策の提案まで行うプランです。
京王パスポートクラブ様と当社は提携関係にあるため、提携カード会員の規約に則り、利用動向の分析結果を屋号単位で提供することができます。「百貨店」や「ECサイト」などの丸めた表現ではなく、具体的な屋号で分析結果をお伝えすることにより、アウトプットの解像度を高められるわけです。
ヘビー会員は日常的な支払いにカードを利用
MZ:アナリストの尾崎さんから、実際の分析工程と得られた示唆をお話しください。
尾崎(三井住友カード):当社がプロパ―カードの会員分析で使っている手法を用い、利用金額と利用業種を掛け合わせてライト・ミドル・ヘビーの分類を行いました。
尾崎(三井住友カード):その結果、ヘビーは固定費など日常的な支払いに京王パスポートVISAカードを利用していることがわかったのです。「●●ペイ」などのネット決済サービスやECサイトの利用が活発なことから、ITリテラシーが高いという特徴も判明しました。
ヘビーの特徴がわかったところで注力すべき層を分析した結果、ファミリー層と独身層がヘビーのポテンシャルを備えていることがわかりました。たとえば子供を育てる40代の母親の場合。学習塾やテーマパークにおけるカード利用額が高い一方、カフェでの決済データからは自身がくつろぐための消費が見て取れます。家族と自身に投資をしながらも、家計を管理するため固定費の支払い方法を一本化する傾向が明らかになりました。
独身層は男女で利用動向に大きな違いが見られました。独身男性では、車やダイレクト型保険の決済に京王パスポートVISAカードを利用する人が多かったです。自分に合ったプランを選択し、決済手段をまとめて賢く家計を運用する動きが見て取れました。独身女性では、美容や旅行などの趣味に投資する傾向が強かったです。一方、コンビニで食品を購入する人も多く、家計をやりくりしながら趣味を楽しむ側面が浮き彫りになりました。
LTVのジャーニーマップで打ち手が明確に
今泉(京王パスポートクラブ):京王パスポートVISAカードはグループ内のお店で使う方に大きなメリットのあるカードですから、販促施策ではグループ内利用がもたらすメリットを強く打ち出していました。しかしながら今回の分析で、ヘビーの方々が固定費や教育費の支払いなど、グループ外で京王パスポートVISAカードを積極的に利用してくださっていることがわかったのです。これには驚きました。グループ内に教育関連の事業を展開する企業はないため、Custella Analyticsで分析していただいたからこそ得られた示唆だと思います。
また、定義が曖昧だった次世代会員の方向性をファミリー層・独身層と明確に示していただけたことも大きかったです。各担当者の肌感覚ではなく、チームの共有知として有望層を把握する良い機会になりました。
松井(京王パスポートクラブ):CRMの担当者としては、分析の切り口を三井住友カード様から学ばせていただきました。Custella Analyticsで用いられている会員の分類方法は、具体的な動向が見えるため、現実的なターゲットの絞り込みや狙いの明確化などの際に大変参考になります。当社の既存サービスを活かした販促提案も盛り込んでいただき、手近なところから着手できるため非常に助かっています。
生田目(京王パスポートクラブ):当社はこれまで、京王ポイントサービスの対象店を京王グループもしくはグループ施設内店舗のみに限定していましたが、昨年からグループ外の店舗にも対象店となっていただけるよう制度を変更しました。グループ外における京王パスポートVISAカードの使われ方を知ることで、当社からアプローチをかけるべき業種やエリアが導き出せるのではないかと考えたわけです。
生田目(京王パスポートクラブ):加盟店開拓の観点で言うと、LTVのジャー二―マップを示していただけたことは大きかったです。ライトからミドル、ミドルからヘビーへの育成モデルがわかる上、屋号単位で利用動向が把握できたため、より根拠のある営業戦略を考えられるようになったと思います。
また、京王パスポートVISAカードの利用状況を可視化した市区町村別のヒートマップも提供いただきました。場所によってヘビー層の割合が異なることがわかり、優先して開拓すべきエリアのヒントを得られたため、非常に有益でした。
グループ内外と連携した施策の実行へ
上杉(三井住友カード):ご提案した当初、京王パスポートクラブ様と同じく電鉄系の提携カードとの利用比較を行うプランも組み込んでいたのです。分析を進めるうち、電鉄系カードの利用動向が沿線エリアの影響を大きく受けること、エリア以外に大きな差が見られないことから「有益な示唆が得られそうにない」と判断しました。今後につながる若年層や独身層の詳細分析に至った背景です。
今泉(京王パスポートクラブ):同業他社との相似性には私たちも気付いていましたが、データに基づいて確かめたい気持ちもあったのです。中間報告で確信を持つことができましたし、率直に会話をしながら分析業務を進められて良かったと感じています。
MZ:今回の分析結果を踏まえ、京王パスポートクラブでは打ち手を考えるフェーズに移行していくと思います。御社の展望と、三井住友カードに期待することをお話しください。
今泉(京王パスポートクラブ):私たちの最重要課題は、京王グループの利用を高めることです。今回分析していただいたグループ外利用の中には、グループ内施設での会員獲得・利用促進に落とし込めるヒントが数多くあると思います。それを各グループ会社と連携しながら企画・実施していきたいです。
今泉(京王パスポートクラブ):加えて、ミドル・ヘビー層を育成するためには当グループが展開していない業種・業態の企業様と連携しながら販促施策を打つ必要があります。三井住友カード様は幅広い業種にパートナーを抱えていらっしゃいますから、お力を借りながら会員獲得や利用促進に取り組み、アクティブ会員層を拡大していきたいです。
決済データ分析の魅力は「一人の顧客を追えること」
松井(京王パスポートクラブ):京王パスポートVISAカードのクレジット利用促進は、三井住友カード様の協力なしに成り立たないと考えています。今後もノウハウを教えていただきながら、より効果的な施策を見つけていきたいです。
生田目(京王パスポートクラブ):分析で明らかになった好相性の業種やポテンシャルの高いエリアをさらに絞り込み、新規加盟店の開拓に向けた提案を進める予定です。そして「京王線沿線といえば京王パスポートVISAカード」と言っていただけるくらい強固な顧客基盤を、三井住友カード様とともに構築していきたいと思います。
MZ:お三方の展望を受け、三井住友カードとしてチャレンジしたいことをお話しください。
尾崎(三井住友カード):私としては引き続きデータ分析の領域でサポートしたいと考えています。キャッシュレスデータを使った分析の魅力は一人の顧客を追えることですから、今後も定点で調査をしていきたいです。
尾崎(三井住友カード):今後は「Vポイント(※)」の交換履歴を活用した分析など、カード会社ならではの内容もCustella Analyticsとあわせてご提案し、施策につなげていただきたいと考えています。
※銀行の各種サービスやキャンペーンなどで貯まるSMBCグループ共通のポイント
上杉(三井住友カード):京王パスポートクラブ様を担当している当社の営業担当からは、毎日のようにヒアリング内容の報告が届くんです。今後も営業部門と我々データ戦略部が一丸となり、分析業務や施策立案のお手伝いをさせていただきたいと考えています。