生成AIの業務活用を推進し始めた伊勢市
MarkeZine編集部(以下、MZ):皆さんの自己紹介をお願いします。
奥田(伊勢市役所):私が課長を務めるデジタル政策課では、行政手続きのオンライン化をはじめとする「行政DX」と「情報システムの安定運用やセキュリティ管理」「地域の課題をデジタルで解決」の三つをミッションに掲げています。
柘植(伊勢市役所):私はデジタル政策課の三つのミッションのうち、地域課題をデジタルで解決する部分を主に担っています。これまで、地域が抱える課題を収集し、それを解決できる企業を探したり、地域課題の解決に取り組む体制作りを進めてきました。
加藤(伊勢商工会議所):私は、2023年に商工会議所内で設立されたデジタル化推進委員会の委員長を務めています。委員会ではDXの基礎知識を共有し、会員事業所にDXの具体的な進行方向を示すことで、伊勢市全体のDXを目指しています。
児玉(TENHO):TENHOは「AIと人間が共存する世界を創る」というミッションを掲げ、AI活用を検討する企業や自治体に対しての導入支援や、AIエンジニアの研修サービスなどを行っています。
宮村(デジタルシティオキナワ):我々は普段、民間企業を対象にシステム導入やDX、人材育成などの領域で支援しています。今回はTENHOからの提案で、伊勢市役所様へのサポートに参画しています。ちなみに、支援領域に関してTENHOには「AI人材の育成」、当社には「AIの商用利用」と、それぞれに強みがあります。
ガイドラインでリスク周知&活用促進を目指す
MZ:伊勢市役所では今後の生成AI活用に向けて、ガイドラインを作成中だとうかがいました。作成の意図を教えてください。
奥田(伊勢市役所):今後、生成AIを当課のみならず、役所内の様々な課で文書作成などの業務に活かしてもらいたいと考えているからです。著作権法への抵触リスクなど、生成AIの活用にはいくつかの課題があります。そこで、個人情報や機密情報の取り扱い方、誤った情報を流さないようチェックする体制などを明記したガイドラインを当課が定め、その上で各課にはAIを活用してもらう予定です。
柘植(伊勢市役所):暫定版ガイドラインの作成に先んじて、市長を本部長とし、各課の中堅職員をメンバーとするテーマ別のワーキンググループが提言を行い、DXを推進していく「デジタル推進本部」を2021年に立ち上げました。2023年度は、このデジタル推進本部に生成AI活用のワーキンググループを設け、ガイドラインを作成しています。
ガイドラインの作成においては、リスクばかりを取り上げるのではなく「具体的にどういった業務に生成AIが活用できるのか」など、庁内での活用を促せる内容にしていきたいと思っています。
MZ:伊勢市役所では、これから生成AIを活用していくフェーズですが、地元企業のDXの進捗状況はいかがでしょうか。
加藤(伊勢商工会議所):デジタル化推進委員会には、個人事業主から中小まで幅広い規模の企業が参画しています。彼らの状況を見る限り、DXは雲をつかむような話だと感じます。
一方で、DXへの積極的な取り組みを進める企業も存在します。私自身、大東自動車という自動車教習所の代表も務めているのですが、ここでは2023年7月より、教習生の原簿のデジタル化を進めています。具体的には、授業への出席確認を顔認証で行い、指導員の押印もアプリ上で行っているのです。さらに、同年8月からはAI教習車(※)の導入も開始しました。
※車内のカメラで、運転中の教習生が適切に運転できているかをAIがチェックする教習車
生成AI活用に向けた四つの支援ステップ
MZ:今回、伊勢市役所の生成AI活用プロジェクトにおいて、TENHOとデジタルシティオキナワがサポートすることになった経緯を教えてください。
奥田(伊勢市役所):デジタル推進本部のワーキンググループ立ち上げにあたり、私自身もChatGPTについて学ぶ必要があると感じました。そこで「日本リスキリングコンソーシアム(Google主幹事)」の各種講座のうち、とあるChatGPT講座を受けたのですが、資料の内容が非常にわかりやすくて。その講座の提供企業がTENHOさんだったというわけです。
MZ:今後、TENHOとデジタルシティオキナワで想定している支援のステップを教えてください。
児玉(TENHO):我々は大きく四つのステップを想定しています。第一ステップは「セミナーと活用ワーキングの実施」です。セミナーでは「そもそも生成AIとは何か」「どんな種類の生成AIが存在するのか」をはじめ、業務活用における課題や注意点まで、一から学んでいただきます。その後、活用ワーキングで伊勢市役所様の課題をヒアリングし、最適な導入法を設計します。
現場の生成AI理解が深まるほど、支援の幅も広がる
児玉(TENHO):二つ目のステップは「ガイドラインの作成」です。誤情報の発信や情報漏洩、著作権法への抵触などを未然防止するためには、ルールを明確化することが欠かせません。現在、伊勢市役所様への支援はこのフェーズにあります。
三つ目のステップは「“問い”のサポート」です。たとえばChatGPTの場合、使用者が適切な質問を投げかけないと、有効な解は得られません。そのため生成AIを使うのが得意な人と不得意な人の二極化が起こり、組織全体の活用推進が滞ってしまうのです。そこで、様々なシチュエーションに対応した「問いのテンプレート」を当社が用意することで、生成AIを初めて使う人でも利用しやすくします。
四つ目のステップは「当社の既存ツールの提供」です。LINEやFacebook Messengerなど既存のチャットツールに、生成AIを導入した独自のチャットボットを組み込みます。このチャットボットによって、AI活用の社内浸透やAI人材の教育が自動化されるわけです。チャットボットには、クライアント独自のマニュアルやサイトのQ&Aなどを情報ソースとして紐づけることが可能です。この四つのステップを三ヵ月以内に行うことを我々は目標に掲げています。
MZ:四つのステップを進めるにあたり、特に意識されている点があれば教えてください。
宮村(デジタルシティオキナワ):我々が最も重視しているのは、クライアントの生成AIへの理解を深めることです。現場の人たちが生成AIの活用法を理解すればするほど、我々の提供する支援の内容やその可能性も広がると考えています。
人事異動や予算など行政ならではのハードルも
MZ:伊勢市役所内で生成AIの活用を浸透させるためには、今後どのようなステップが必要でしょうか。
柘植(伊勢市役所):今後、生成AIの活用を庁内でより浸透させるためには、生成AIに適切な指示を出すスキルを、個々の職員が取得する必要が出てくると思います。
柘植(伊勢市役所):具体的な業務例として文書作成が挙げられますが、人間による指示の内容次第で、AIによるアウトプットの質は大きく変わります。指示出しのフレームワークなどは、現在作成中のガイドラインに掲載する予定です。
行政には定期的な人事異動がありますから、AI活用のノウハウ共有は民間企業以上に重要です。この課題も、ガイドラインの作成を通じて払拭したいと思います。これらの課題を克服することで、業務がより効率化され、市民サービスの品質向上に時間を割けるようになると考えています。
宮村(デジタルシティオキナワ):行政機関の予算は市民の税金から成り立っているため、民間企業と比べて新しい取り組みへのハードルが高いのではないかと推察します。そのため、職員の方々の「新しい試みを行いたい」という意思がAI活用推進の重要な起爆剤になりますし、我々としても、支援過程で想定されるAI活用のリスクを、いかに丁寧に説明できるかが鍵だと思っています。
企業・自治体双方の支援ノウハウを今後も活かす
MZ:最後に、皆さんの展望を教えてください。
奥田(伊勢市役所):当市役所では「デジタル行政推進ビジョン」を掲げており、利用者目線でデジタル行政を推進していく所存です。今後はデジタル技術を活用し、商工会議所とも連携しながら地域の課題を解決していきます。
加藤(伊勢商工会議所):地元企業においては、既存の業務プロセスに満足している人が多く「なぜDXを進める必要があるのか」と疑問を持つ方はまだまだいらっしゃいます。商工会議所としては、DXがいかに業務効率化につながるかを積極的にPRしていく必要があると考えています。
宮村(デジタルシティオキナワ):企業と行政では、生成AIの活用の目的やポイントが異なります。企業であればCRMや在庫管理、CS業務を自動化し、最終的には売上拡大を目指すケースが多い一方、行政であればサービスの品質向上に向けて、全庁的に満遍ない生成AI活用が求められるのではないでしょうか。
我々は企業と行政の双方を支援してきた経験がありますから、その知見を活かし、今後も多くの組織が生成AIを最大限に活用できるようサポートしたいと思っています。
児玉(TENHO):私たちは、インターネットを利用しているすべての企業や組織に等しく高い価値を提供できると自負しています。「生成AIの活用を考えているが、何をしたら良いかわからない」という方々は、ぜひ私たちにお問い合わせください。
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