ブランドを守りながら、より直接顧客とつながる強さを
磯山:D2Cの取り組みはこれが初めてですか?
西村:本格的にはやってきておらず、酒類卸さんや酒類販売店さんの力をお借りして販売するのがメインでした。しかし、消費者の価値観が多様化する中で、将来にわたってお客様をワクワクさせるメーカーであり続けるには、直接購買データをビジネスモデルに活かすという挑戦をする必要がありました。
磯山:先ほど仰っていたビール側から顧客に近づくアプローチのためにも、顧客と直接つながるD2Cは最適ですよね。
西村:今後の市場予測はよく社内で不都合な真実と言われますが、大多数に受け入れられるプロダクトを新しく作り続けることで成り立っていた「売り切り型」のビジネスから緩やかに転換し、マスだけではなく、時間をかけてスモールマスを探索することを課題解決の1つの方法として挑戦していかなければならない時代になってきました。
この先、いつまでもマス投資・プロダクトアウトのビジネスモデルだけでは瞬発力だけで長距離走に挑むようなもので、いずれ立ち行かなくなるでしょう。
磯山:「スーパードライ」という揺るがないブランドを持つアサヒビールさんでも、そういう危機感があるんですね。

西村:その成功体験があるからこそ、スモールマスの探索や、小さい価値を育てていくような中長期目線での我慢が求められるビジネスアプローチがしづらい一面もあるのが正直なところですね。
でも、このまま今までのブランドをこれまでの勝ちパターンだけで守り続けているだけでは、消費者の心を捉えられない、ワクワクさせられないメーカーになってしまうという強い危機感がありました。皆が金太郎飴のようになってはおもしろくない、それで「このままではいけない」と思いました。
顧客の姿を見せて社内を説得
磯山:やりづらくてもやらなくてはいけないと。そういう環境の中で、会社として「やろう」という判断になったのは、何か決定打があったんですか?
西村:ホームサーバーの試作品をご家庭で1ヵ月程度使ってもらい、感じたことや思ったことをインタビューして、その内容を編集した動画を経営陣に観てもらいました。
「いつ」「誰と」「どんな時に」楽しんでいるのか。「ホームサーバーがある生活」は今までとどう違うのか。わかりやすい例としては、これまでは各自が冷蔵庫から好きなお酒を取っていたところ、ホームサーバーが来てからは息子が注いでくれるようになり、乾杯や「もう一杯いる?」などの会話もできるようになったという声もありました。
磯山:家庭内のコミュニケーション活性化に一役買っていると。
西村:ただビールをつくって届けるだけならば、今までとやっていることは変わらないですよね。ビールサーバーならではの価値、直接顧客と接点を持つ意義を見せられたのが、背中を押した一つの要因ではあるかなと思います。