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MarkeZine Day 2023 Autumn(AD)

流入元とロイヤルカスタマーの行動に注目せよ モバイルアプリのユーザーインサイトを捉える方法

 モバイルアプリのユーザーインサイトをどのように捉えれば良いのか? その問いに答えるため、Adjustの大城圭右氏とDearOneの安田一優氏が「MarkeZine Day 2023 Autumn」に登壇した。両者はモバイルアプリのユーザー行動を「インストール」「継続利用」「購買」の三つに大別。大城氏がインストールから継続利用まで、安田氏が継続利用から購買までのインサイトを取り上げ、分析の方法や考察のポイントを解説した。

流入元によってユーザーの熱量は異なる

 モバイル計測プラットフォームを提供するAdjustは、2012年にドイツで創業した会社だ。日本支社は2014年に設立され、国内のマーケットシェアは81.7%にも上る。

 同社のプラットフォーム上で計測可能な指標としては「インプレッション/クリック」「インストール」「コンバージョン率」のほか、流入元に紐付けて「平均DAU」や「継続率」「収益の上昇」などが挙げられる。また「会員登録・ログイン・会員証をクリックしているかどうかが見たい」「Webストアの閲覧や購入を見たい」というクライアントニーズに応じ、カスタムイベントも設定可能だ。

「Adjustでは『ユーザーがどこで対象のアプリを見つけたか』まで把握できます。実店舗でQRコードやPOPを見てからアプリをインストールしたユーザーと、Web広告を閲覧してからインストールしたユーザーでは、熱量が異なると我々は考えているのです」そう話すのは、Adjustの大城圭右氏だ。

Adjust Account Executive 大城圭右氏
Adjust Account Executive 大城圭右氏

「店舗スタッフから声をかけられてアプリをインストールしたユーザーは、アプリ内KPIをどのように達成しているのか。Web広告から流入したユーザーと比較して、KPIを達成するまでの期間やアプリの継続利用期間に違いはあるのか。Adjustはそれらを可視化するのです」(大城氏)

なぜ店舗経由のユーザーは会員登録率が高いのか?

 ユーザーの流入元とアプリ内の行動をAdjustではどのように紐づけているのか。大城氏は仕組みを解説する。

「流入元からアプリストアに飛んだ瞬間、流入元情報は途切れてしまいます。そこで、広告IDやAdjust内で独自に振っているIDを基に、流入元とユーザーの行動をマッチさせるわけです。これにより、ユーザーが会員登録をした場合は会員登録数をカウントし、継続率を計測することができます」(大城氏)

 大城氏は、実店舗を展開する企業がWeb広告と店頭でのオフライン施策を実施した事例を紹介する。店舗Aのレジ横、店舗Bのレジ横、Web広告、三つの流入元で「インストール初日の会員登録率」に違いが出たという。

 店頭ではスタッフが声をかけ、アプリのインストールを促すケースが想定される。店舗に商品を買いに訪れたユーザーは、そのまま会員登録に至るわけだ。一方、Web広告を閲覧してインストールしたユーザーはどうか。インストール初日の会員登録率は非常に低いものの、インストール後の継続率は店舗から流入したユーザーより高い。

「Web広告から流入したユーザーは、インストールから1週間後の継続率も、4週間後の継続率も、20%を超えているのです。恐らくこれらのユーザーは、アプリを見て『どの店舗に商品があるのか』『どのようなコンセプトか』『キャンペーンをやっているのか』などの関心を高く持っていると推測します」(大城氏)

 この事例から得られる示唆は次の2点だ。

  1. インストールする前からユーザーの心理状況は異なる
  2. インストール後のユーザーの動きを可視化し、仮説と分析を繰り返す必要がある

モバイルアプリトレンド 2023:日本版

 このレポートでは、ゲーム、Eコマース、フィンテックなどの業界における日本の人気アプリ、アプリ滞在時間、継続率などのデータ分析や、日本のアプリ広告で拡大するコネクテッドTVの役割を解説しています。

仮説を立てる際に有効なツール

 流入元別に顧客をグルーピングし、各グループにおけるユーザーの動きを可視化したとしよう。ネクストステップとしてどのようなアクションが考えられるのか。大城氏は施策の実行と検証を挙げる。

「たとえばアプリ内でプッシュ通知を行うとしましょう。店舗経由でアプリをインストールした後すぐに会員登録をしたユーザーと、インストールしたものの会員登録をしてないユーザー。両者に同じ内容を通知しても、反応は当然異なります。だからこそ、グループごとに施策を変えながら『なぜこのユーザーはKPIに到達していないのか』を仮説検証することがポイントです」(大城氏)

 仮説検証の例は次のとおりだ。店頭経由の新規獲得数を改善するために、ポップの設置場所やスタッフの声かけ内容を変えながら、インストールや会員登録につながるベストプラクティスを探る。ほかにもWeb広告およびアプリ内広告のクリエイティブを変えたり、インストール済みのユーザーが再度アプリを訪れたくなるようなリターゲティング広告やプッシュ通知の内容を考えたりするのも手だろう。

「アプリをインストールする前から、ユーザーの熱量やインサイトには特徴があります。Adjustは一人ひとりの熱量がどの程度のものなのか、どのようなインサイトを抱えているのか、仮説を立てる際に最適なツールです」(大城氏)

属性の前に行動を見よ

 DearOneはNTTドコモのグループ会社で、BtoC企業のデジタルマーケティングを支援している。OMOのアプリ開発を主事業としているため、飲食・小売のクライアントが多いとのことだ。

 同社は主に二つのサービスを提供している。一つ目が伴走型のアプリ開発サービス「ModuleApps2.0」だ。店舗販促に使えるアプリを早く・安くつくることができる。二つ目は米国のプロダクトアナリティクスツール「Amplitude」だ。こちらではアプリ上のユーザー行動を、専任のデータ分析官に頼ることなく簡単に分析することができる。

 同社でマーケティング部のゼネラルマネージャーを務める安田一優氏は、アプリの継続利用を促す第一歩として「リテンション率やコンバージョン率が高いロイヤルカスタマーの行動に着目すべき」と語る。

DearOne マーケティング部 ゼネラルマネージャー 安田一優氏
DearOne マーケティング部 ゼネラルマネージャー 安田一優氏

 性別・年齢・居住地などの属性を分析する担当者は多いが「ユーザーの趣味嗜好が多様化する昨今、属性だけではユーザーの姿を正しく理解することが難しい」と安田氏。そこで「お気に入り登録を●回以上している」「クーポンの閲覧を●回以上している」「レビューを●回以上書いている」などの行動に着目する“ビヘイビアベースアプローチ”が有効だという。

「『ロイヤルカスタマーは、一般ユーザーよりも特定の行動を多くとっているのではないか』という仮説の下、ロイヤルカスタマーがとりがちな行動を他のユーザーにもとってもらえるよう促し、ロイヤルカスタマーを育成するアプローチです」(安田氏)

 ビヘイビアベースアプローチの進め方は次の図のとおりだ。

 ロイヤルカスタマーを定量的なデータで定義した上で、属性を具体化する。彼らがよくする行動を新たに発見し、その行動をロイヤルカスタマー化の鍵と捉えて促すための施策を実行する流れだ。UIを変更したり、キャンペーンや割引を行ったりして、ロイヤルカスタマーの行動を他のユーザーがとりやすくする。

画面遷移はデジタル上のカスタマージャーニー

 安田氏はアパレル企業の取り組みを引き合いに出し、行動分析からUIを改善した事例を紹介する。アプリの商品詳細画面に「閲覧履歴ボタン」を設置したところ、カートの投入率が122%、コンバージョン率が156%、購入者数が114%に改善したという。

「私が皆さんにお伝えしたいのは『閲覧履歴ボタンを設置しましょう』という単純なメッセージではありません。リテンションやコンバージョンに効く打ち手は、お客様やサービスによって異なるからです」(安田氏)

 では我々はこの事例を通じて何を学ぶべきなのか。それは「閲覧履歴ボタンの設置」というアクションを導いたロイヤルカスタマーの分析方法だ。分析にあたっては、対象の設定が重要だという。この事例では「購入回数が2回以上のユーザー」をロイヤルカスタマーと定義。定義にあてはまるユーザーの行動をAmplitudeで分析したそうだ。

 行動分析の結果、購入回数が2回以上のユーザーは閲覧履歴を平均9.1回見ていた。全体平均が1.4回であることを鑑みると、非常に多いと言える。この結果から「より多くのユーザーに閲覧履歴を見てもらうことができれば、ほかのユーザーの購入回数を増やせるのではないか」という仮説が成り立つ。

 さらにこの事例では、閲覧履歴までの遷移も可視化したそうだ。「画面遷移はデジタル上のカスタマージャーニーのようなもの」と安田氏。分析の結果、閲覧履歴を訪れる前に商品詳細画面を見ているユーザーが48%いるとわかった。「商品詳細画面から閲覧履歴に遷移しやすいUIを設計すれば、購入回数が増えるのではないか」という新たな仮説がここで成り立つ。これらの行動分析と仮説立案が、前述の高い成果を導いたわけだ。

定量×定性の組み合わせがユーザーの解像度を高める

 安田氏はビヘイビアベースアプローチの注意点を次のように語る。

「定量データの分析だけでは『なぜその行動をとったのか』がわからない場合もあります。先ほどご紹介した事例でも、行動の分析によって『閲覧履歴を見ている人が多い』『商品詳細画面から閲覧履歴に遷移している人が多い』という傾向はつかめるものの『なぜ閲覧履歴を見るとコンバージョンが上がるのか』『なぜ商品詳細画面から閲覧履歴に遷移するのか』という理由までは掴みきれません。その理由を探るためには定性分析が非常に有効です」(安田氏)

 定量分析で焦点を絞り、コンバージョンに効く行動をとる理由について定性分析で深掘りしていく──定量データと定性データの組み合わせによって、ユーザーの解像度を高めることができると安田氏は強調する。

 セッションの最後に、視聴者から「よく買う人がその行動をとっているからと言って、同じ行動をとるほかのユーザーが必ずしもよく買うようになるかはわからないのでは?」という質問が挙がる。安田氏は「行動に相関があったとしても、因果があるわけではない」とした上で、次のように回答し、セッションを締めくくった。

「インタビューなどを通じてユーザーの声に直接耳を傾ければ、そこに因果関係の有無を追究することはできると思います。やはりここでも、定量×定性の組み合わせが有効なのです」(安田氏)

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この記事の著者

中村 祐介(ナカムラ ユウスケ)

 株式会社エヌプラス代表取締役 デジタル領域のビジネス開発とコミュニケーションプランニング、コンサルテーション、メディア開発が専門。クライアントはグローバル企業から自治体まで多岐にわたる。IoTも含むデジタルトランスフォーメーション(DX)分野、スマートシティ関連に詳しい。企業の人事研修などの開発・...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

提供:adjust株式会社

【AD】本記事の内容は記事掲載開始時点のものです 企画・制作 株式会社翔泳社

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MarkeZine(マーケジン)
2023/10/20 10:00 https://markezine.jp/article/detail/43594