クライアントの要望には「yes, we can do」の精神で応える
――25年以上、顧客体験の設計や改善支援のご経験があると聞いていますが、詳しく教えてください。
おっしゃる通り、私はSAPでネスレをはじめとする様々なグローバル企業のCX改善をサポートしてきました。私のモットーは“yes, we can do”、つまり「自分たちにはできる」の精神です。クライアント企業からの要望に対しては、まずは“yes”の姿勢で、体験設計に臨んできました。
そして、クライアント企業の多くは今なお、営業やマーケティング、CSなど複数の部署が分断され、独立している状態です。このような分断の解消も意識的に進めてきました。
さらに、ここ数年は、CX改善に全社で取り組もうとする意識の醸成にも注力しています。というのも、顧客に直接接するフロントエンドの従業員のみがCX改善に取り組んでいたのでは、不十分だからです。そうではなく、バックエンドの従業員も含め、企業全体で体験の質改善に取り組む──そうした意識が今後は重要です。
――現在SAP CX(※1)の最高収益責任者として、どのような目標を持っていらっしゃるのでしょうか?
SAP CXの最高収益責任者という肩書きではありますが、私の任務は「ユーザーにハッピーになってもらうこと」。いわば、“カスタマーハピネスオフィサー”です。ハッピーになってもらうには、素晴らしい体験提供が欠かせません。さらに、その素晴らしい体験はあらゆるタッチポイントを通じて提供されるべきです。その質やチャネルの選定などを担っています。
※1 SAPが提供するCXソリューション。消費者データや機械学習などを基に、セールスやマーケティングなどの部署を横断し、かつリアルタイムで顧客エンゲージメントの向上が期待できる
指標としては「NPS(※2)」を注視しています。他にも様々な指標が存在しますが、企業がCX改善に成功しているか否かの判断軸として、NPSが最も適していると考えます。
※2 Net Promoter Scoreの略。消費者に対して「商品やサービスを親しい人にどの程度、勧めるか」と質問。0~10の11段階で回答してもらい、その結果から算出する
CXトレンドは「チャネル間の調和」と「データ連携」
――NPS向上のための具体的な取り組みを教えてください。
SAP CXの収益を上げるにあたっては、SAP CXのデジタルチャネルへの対応を常に考えています。私がこの業界に入った時には「電話」や「ファックス」「フィールドセールス」の三つくらいしかチャネルはありませんでした。しかし今や、日本では「LINE」、中国では「WeChat」、欧州では「WhatsApp」など、各エリアで人気のチャネルは異なります。
また、チャネルの種類は年々増加しており、企業のマーケターはおそらく「次はどのチャネルを使ってキャンペーンを展開するか」と頭を悩ませていることでしょう。そこで、当社が提供しているSAP CXを想起してもらうためにも、デジタルチャネルへの対応は「待ったなし」の状態なのです。
――CX領域における最新トレンドを教えてください。
BtoC/BtoBの両面から話します。まずBtoCでは、コロナ禍を経て年齢・性別などの属性を問わず皆がEコマースを経験しました。しかも、複数のデジタルチャネルを横断、自在に使い分けて、商品を購入しています。そうしたトレンド踏まえ、SAPとしては今後も、複数のチャネルのハーモナイズ(調和)に投資していく考えです。
一方、BtoBではコンテキストデータ、つまりVOC(Voice Of Customer)とCRMデータの連携が一層重要になってきています。一例としてダイキンの欧州事例を紹介しましょう。同社では、空調設置後、顧客に対しアンケートを送ります。「空調は問題なく作動しているか」「旧型は環境負荷を抑えた方法で処分されたか」などを尋ね、その結果をCRMデータと連携し、より良い体験提供につなげているのです。これが昨今のBtoB企業におけるCXトレンドです。