静止画フォーマットが多い人材業界のWeb広告
──まずは人材業界のWeb広告運用に共通する特徴と課題を教えてください。
田村(エン・ジャパン):ディスプレイ広告に関しては「静止画のフォーマットが多い」という特徴が挙げられます。動画となると撮影後のテロップ挿入など作業工数やコストが重なるほか、そもそも動画編集のリソースやノウハウが社内にない場合も多いためです。静止画で複数パターンのクリエイティブを作ってPDCAを回すほうが、量と質の観点で成果が出やすいのかもしれません。
米澤(セプテーニ):静止画に比べ、動画の制作にはそれなりの期間を要します。クリエイティブを素早く試して良し悪しの判別をつけられる点が静止画の強みです。
平八重(TikTok for Business):私は人材業界のクライアントを中心にサポートしていますが「静止画のノウハウはあるものの、動画のノウハウは不足している」という課題はどのクライアントも共通して抱えていると感じます。
それでもTikTokを攻略する必要性があった
──「エン派遣」では、2022年11月からTikTokで広告配信を開始したとうかがいました。先ほど「静止画のほうがPDCAを回しやすい」とおっしゃっていましたが、なぜあえて動画がメインのTikTokにチャレンジしようと思われたのでしょうか?
田村(エン・ジャパン):当時はTikTokのユーザー数が急増しているタイミングでしたから、攻略する必要性を感じてチャレンジした流れです。エン派遣を利用いただきたいユーザーが多い点も魅力でした。「TikTok広告なら認知から獲得までフルファネルでアプローチできるのではないか」という期待もありましたし、人材業界でTikTok広告の成功事例がまだ少なかったため、当社が率先して成功事例をつくりたいと考えたこともきっかけの一つです。
──実際にTikTokで広告を配信してみていかがでしたか?
田村(エン・ジャパン):正直に申し上げると苦戦しました(笑)。当時は社内にTikTok用の動画を作るリソースがなかったため、他のプラットフォームで配信していた動画素材をリサイズしてTikTokで配信していたんです。しかし、TikTokライクな動画ではなかったからか、望ましい成果は出ませんでした。成果を出すにはTikTok向けに動画を作る必要がある。でもそのリソースがない。どうするべきか悩んでいた時、米澤さんから提案いただいたのが「カルーセルフォーマット(β版)」です。
──カルーセルフォーマットとはどのようなプロダクトなのでしょうか?
小野(TikTok for Business):カルーセルフォーマットは、TikTokに静止画素材を入稿するだけで広告が配信可能なフォーマットです。ユーザーは画面を左右にスワイプしながら複数の静止画を閲覧することができます。
クリエイティブの摩耗スピードが動画よりも遅い
小野(TikTok for Business):ローンチの背景には、クライアントの高いニーズがありました。日本はマンガ文化が根強いため、ユーザーが画面をスワイプする挙動に慣れているのです。マンガ関連のクライアントはもちろん、それ以外の業界からも開発を希望する声を頂戴し、2022年秋より日本を中心に開発をスタートしました。日本発で新しいプロダクトを開発するケースは、グローバルで展開するTikTokにおいて珍しいです。α版のテストの結果CPAが改善し、クリエイティブの摩耗スピードが動画に比べて遅いことも判明したため、2023年5月にβ版へ移行しました。
──カルーセルフォーマットを活用して、エン派遣ではどのような広告を配信したのでしょうか?
田村(エン・ジャパン):2023年6月からカルーセルフォーマットによる広告配信を開始しました。米澤さんから「カルーセルフォーマットはマンガのようなクリエイティブが多い」とうかがっていたため、他のプラットフォーム用に作成していた「事務のお仕事おすすめ4選」のクリエイティブを選びました。ポイントは複数の静止画を切り貼りするのではなく、ストーリー性を持たせたこと。おすすめの仕事一つ目、二つ目、三つ目……と、流れがわかるような組み合わせにしました。
──実際にカルーセルフォーマットを活用してみていかがでしたか?
田村(エン・ジャパン):配信を始めた6月のCPAは、2月から5月の数値と比較して約4分の1になりました。コンバージョン数についても、前月の4倍以上に伸長するなど期待以上の成果が表れ、思わず「本当ですか?」と米澤さんに電話してしまいました(笑)。
米澤(セプテーニ):当社にとっても「人材系企業×カルーセルフォーマット」は初めての試みだったため、まさかこんなにすぐ成果が出るとは思っていませんでした。カルーセルフォーマットは他のプラットフォームでも提供されていますが、CVRの改善はTikTokが最も顕著に出たと感じています。
ユーザーが指を動かして閲覧することの効用
──広告運用のプロフェッショナルとして、またエン派遣の広告運用に伴走してきた立場から、米澤さんは今回の成功要因がどのような点にあったとお考えですか?
米澤(セプテーニ):当社では「ユーザーが指を動かす」がキーワードだと考えています。従来のTikTok広告動画フォーマットは、どちらかというと広告主側がプッシュするものと捉えられがちですが、カルーセルフォーマットはユーザーが自ら指を動かして広告を閲覧します。この能動性により、TikTok側で「ユーザーが広告に興味を持っている」と見なされ、アドのスコアアップにつながっているという仮説です。
実際、数値の中で最も伸びが良かった項目がCVRでした。アドスコアが高まった分、コンバージョンする可能性の高いユーザー層に広告を配信するプラットフォーム側のレコメンドシステムとの相乗効果があったのではないかと推測します。
そして何より、カルーセルフォーマットには見た目の新鮮さがあります。TikTokで上下のスワイプに慣れ親しんだユーザーにとって、横にスワイプする動作は新鮮な体験だと言えるのではないでしょうか。おすすめの仕事を紹介するクリエイティブの良さに加え、ユーザーのアクションを促すカルーセルフォーマットの特徴が「次の画像も読み進めたい」という気持ちを刺激したのだと思います。
平八重(TikTok for Business):ユーザーが自身のペースでクリエイティブを閲覧できる点もポイントだと思います。今回のケースで言うと、おすすめの事務の仕事を1選、2選とスワイプしていくうちに、潜在的なニーズを刺激されたユーザーが多かったのでしょう。
余裕が生まれたリソースで動画に再挑戦したい
──今回の結果を踏まえ、エン派遣ではTikTok広告を通じて今後どのようなことにチャレンジしたいですか?
田村(エン・ジャパン):現在エン派遣ではTikTok広告をカルーセルフォーマット中心の運用に切り替えています。今回非常に良い結果を出せたおかげで広告運用のリソースに余裕が生まれたため、今後は動画に再挑戦したいと考えています。また「エン転職」や「エンゲージ」など、当社が運営する別サービスでもカルーセルフォーマットによる広告配信を行う予定です。
──田村さんの展望を受けて、米澤さんは今後どのようなサポートを続けていきたいとお考えですか?
米澤(セプテーニ):動画フォーマットへの再チャレンジにも伴走していきたいです。一口に動画と言っても、広告主様目線で制作するクリエイティブだけでなく、クリエイターの方々による第三者視点のクリエイティブもありますよね。様々なパターンを組み合わせながら、エン・ジャパン様が伝えたいことを正しく伝えつつ、企業イメージの向上と成果を実現するコンテンツ展開を当社のネクストステップとしたいです。
動画素材がなくてもTikTok広告にチャレンジできる
──平八重さんから人材業界をはじめとする広告主に向けて、TikTok活用のアドバイスをお願いします。
平八重(TikTok for Business):人材業界のクライアントの中には「TikTok広告に興味はあるものの、動画がないからチャレンジできない」と感じている方が多いはずです。しかし、カルーセルフォーマットなら既にお持ちの静止画素材をそのまま活用し、配信効率の改善につなげていただくことができます。より多くのクライアントにカルーセルフォーマットを活用していただきたいです。
──小野さんからはカルーセルフォーマットのロードマップをお話しいただきたいです。
小野(TikTok for Business):カルーセルフォーマットには、今後も新機能が追加されていく予定です。さらに「ビデオショッピング広告」というカタログ連携プロダクトでも、カルーセルフォーマットが利用できるようになりました。
商品情報や求人情報などをデータフィードで管理しているクライアントであれば、カタログとの連携によってカタログの画像をカルーセルフォーマットで配信することができ、画像別のリンクに遷移させることも可能です。またリターゲティング配信も可能なため、一度Webサイトに訪れて検討していたユーザーに対し、閲覧した商品や求人を表示できます。
田村(エン・ジャパン):良いですね。次はぜひカタログ連携も試してみたいです。
小野(TikTok for Business):Eコマースのクライアントに限らず、エン・ジャパン様のような人材系のクライアントでもぜひ活用いただければと思います。