新商品の発売前に認知を拡大したアサヒ飲料
ユニークビジョンは、フルファネルでブランド体験を提供できるSNSマーケティングツール「Beluga」シリーズを提供している企業だ。2011年のリリース以来、ツールの開発を重ねており、Xと共同開発した「カスタムストーリー」など、機能を拡張してきた。2021年には「X Marketing Partner」の国内7社に認定されている。
XだけでなくLINEのツール開発にも力を入れている同社は、大手クライアントを中心にLINEを活用した販促マストバイキャンペーンの実施も支援している。
SNSマーケティングに長年携わってきた代表取締役社長の白圡氏は「SNSキャンペーンを単なるインセンティブの付与ではなく、ブランド体験の提供として捉え直すことが重要です」とセッションの冒頭で語る。
白圡氏いわく、価値あるブランド体験をユーザーへ提供するためには、SNSキャンペーンも認知・理解・行動・購入のフルファネルで実施する必要があるという。
認知に効いた事例として、白圡氏はアサヒ飲料のSNSキャンペーンを紹介する。新商品「三ツ矢特濃アップルスカッシュ」の発売に先立ち、X上で実施したキャンペーンだ。
ケーススタディ①アサヒ飲料
カンバセーションボタンでユーザーの絵文字入り投稿を促し、タイムラインで目立つUGCを量産。キャンペーン開始日には関連ハッシュタグがトレンドの1~4位を席巻した。そして「Beluga キャンペーン for X」のリマインダー機能によって発売日当日に投稿者へお知らせを届け、新商品の飲用を促した。
ローソン、ホロライブ、千寿製薬のSNS活用
続けて白圡氏は、理解促進の成功事例として、ローソンとメーカー7社の「ありそうでなかった商品」投票キャンペーンを紹介。ローソンのX公式アカウントで、メーカー各社が商品化する前のアイデアを発表し、ユーザーが「欲しい」と思う商品への投票を促すものだ。
ケーススタディ②ローソン
Beluga キャンペーン for Xの「カスタムストーリー」という機能を使い、商品の選択や投票の仕組みを構築した。白圡氏によると、ユーザーからは商品化を熱望する声が数多く届き、発売前から商品理解が深まったという。投票数の多かった「味のしない飴」など、上位3位は実際に商品化され、大ヒットにつながった。
SNSキャンペーンは行動喚起にも効く。VTuber事務所のホロライブプロダクション(運営会社:カバー)は、東京ドームシティで開催された期間限定のイベント「ホロライブシティ アトラクションズ」への送客を目的に、Xでチェックインキャンペーンを実施した。
ケーススタディ③ホロライブ
ホロライブプロダクションの公式アカウントがポストしたキャンペーン投稿をユーザーがリポストすると、個別の二次元コードが発行される。この二次元コードを現地の端末にかざすと、ユーザーの画面に当落が表示される仕組みだ。1万人以上のユーザーがチェックインを行ったという。
LINEを活用した千寿製薬のキャンペーンは、目薬「NewマイティアCLアイスクラッシュ」の購買につながった。このキャンペーンは、ユーザーが同社の公式アカウントを友だち追加し、対象商品の購入レシート画像を登録すると、発売10周年記念キャンペーンに応募できるというもの。レシートの判定には、ユニークビジョンのAI画像判定技術が使われている。
ケーススタディ④千寿製薬
「商品購入の促進はもちろん、レシート画像から購入した日時、店舗、商品、金額のデータを取り込み、今後のキャンペーンでそれらのデータを活用できるようになっています」(白圡氏)
なぜSNSキャンペーンは単発で終わってしまうのか?
SNSキャンペーンの有効性については理解できたものの、施策が単発で終わってしまうことに悩む担当者は多いだろう。キャンペーンを通じてデータを蓄積し、長期的なCRMに役立てることはできるはずだ。しかしながら、多くの企業が実行に至っていない。白圡氏は実行を阻む要因として、次の3点を挙げる。
1.活用方法を考えずにデータを収集してしまうため、使える形にできない
2.データがどこにあるかわからないため、アクセスできない
3.CRMツールを導入しただけで、活用可能なデータを収集できていない
LINEを起点に開発されたユニークビジョンのCRMツール「Beluga CRM」には、これらの壁をクリアする特徴がある。キャンペーンを通じて属性データやアンケートデータを自動で蓄積。アンケート項目がマスター化されるため集計や分析がしやすく、分析結果をセグメントとして保存することも可能だ。セグメントごとにメッセージの出し分けや付与ポイント数の変更なども行える。
CRMに注力する場合、コストの問題を避けて通ることはできないだろう。投資予算が年間数千万円以上かかる場合もあるからだ。その点、Beluga CRMはキャンペーンの実施から1年間は無料で使用できる(データのインポート/エクスポートやメッセージ配信には別途費用が発生)。1年後に別のキャンペーンを実施すれば、実質0円で使い続けることも可能。メッセージを全配信ではなく、購入履歴やイベント参加データに基づいてターゲティング配信する点も、コストの削減につながる。
「ただ、LINEだけでキャンペーンを完結してしまうと、企業と生活者の1対1のコミュニケーションになってしまい、おもしろみに欠けます。キャンペーンをXで拡散し、盛り上がっている状態をつくることも大事です」(白圡氏)
CRMを成功に導く四つのポイント
SNSを活用したCRMで顧客と継続的な関係性を築くためのポイントとして、白圡氏は次の四つを挙げる。
1.ブランド体験の多様化
2.顧客接点の増加
3.データ活用ループの構築
4.既存CRM/CDPとの連携
XやLINEだけでなく、InstagramやTikTokなど、幅広いメディアでブランド体験を継続的に提供すること。さらに、リアルイベントやリテールメディア、テレビなどとSNSを絡めてキャンペーンを実施し、情報の拡散やユニークなID付きのリスト作成を行うこと。そこで終わらず、リストの分析や活用までを含めたループを回すこと。最後に、既存のCRMツールやCDPとの連携を行うことが重要との考えだ。
現在ユニークビジョンはADKマーケティング・ソリューションズと協業し「ADK-SPer(エーディーケー エスパー)」というSNS販促集客ソリューションを提供している。LINEの公式アカウントを軸に、集客とCRMを支援するものだ。
ADKマーケティング・ソリューションズの清家氏は、協業の経緯を次のように語る。
「当社には、認知の獲得から顧客のファン化までをトータルで支援する事業ブランド『ADK CONNECT』があります。CRMに力を入れているユニークビジョンとは非常に近い考え方を持っていると感じ、ソリューションを共同開発した流れです」(清家氏)
餅の購買者層を広げたホクレン
ADK-SPerの活用事例として、清家氏はホクレンの「モチモチベーション北海道 北海道産包装もちキャンペーン」を紹介する。LINE公式アカウントの友だち追加と、対象商品の購入レシート画像の登録、アンケートへの回答で、プレゼントが当たるキャンペーンに応募できる仕組みだ。ブランド体験を損ねないよう、プレゼントを金券などではなく餅を模したビーズクッションなどにしたそうだ。
「友だち追加してくれたユーザーには、餅を使ったレシピの案内や年末年始の挨拶などを送信し、コミュニケーションを積極的にとりました。その結果、年配者だけでなく若年層の購買も促進でき、新たな年齢層の顧客を取り込むことに成功しました」(清家氏)
ユニークビジョンとADKマーケティング・ソリューションズは、ADK-SPerのほかに長期的なキャンペーンを支援するサービス「ADK-SPerマイレージ」も提供している。マイレージキャンペーンでランク機能を使えるようにし、ランクアップをモチベーションに来店・購入のリピートを促進する。
「スポット販促とは異なる長期型メニューのため、毎月テーマを変えてキャンペーンを実施いただけます。日を追うごとにレシートデータが蓄積されるため、それを活用したターゲティングやコミュニケーションも可能です。休眠顧客の復活を促す施策も試せる点が長期型キャンペーンのメリットでもあります」(清家氏)
餃子の指名買いを促した味の素冷凍食品
ADK-SPerマイレージを活用した事例が、味の素冷凍食品の「ギョーザマイレージ」だ。このキャンペーンには、冷凍餃子の指名買いを促進する目的があった。
具体的には、対象商品の購入レシート画像をアップしたユーザーに対し、ポイントを付与。ユーザーが貯めたポイントと引き換えにプレゼントへ応募できるようにした。購入の件数・頻度に応じたランク変動の仕掛けなどにより、リピート購入を促進したという。
LINEを活用したキャンペーンの可能性について、白圡氏は次のように捕捉する。
「LINEのキャンペーンで実施するアンケートやレシートの購買情報を通じて、年代・性別・居住地・購入頻度・購入店舗・併売商品・競合との比較データを収集できます。ほかの事例と同様、それらのデータに基づくセグメントの設定と、メッセージのターゲティング配信も可能です」(白圡氏)
清家氏は、いよいよ本格化しつつあるCookieレスの流れに触れ「LINE公式アカウントは、Cookieレスへのカウンターとなり、顧客のファン化を促進する非常に有効なツールです。人口が減少する中、いかにファンとの継続したコミュニケーションを維持できるかがマーケティング成功の鍵になります」と語る。
これを受けて、白圡氏も「消費者からデータを勝手に取得しようとする姿勢が問題」と指摘。「顧客と適切なコミュニケーションを続けながら、対価をきちんと示せば、抵抗なくデータを提供してくれると考えています。そのためには、SNSキャンペーンをブランド体験の場として捉え直し、長期的な視点で施策を動かすことが重要でしょう」と締めくくった。