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COLUMN

【江端浩人のメディアトレンド予測】現代日本におけるメディア消費の変容とコミュニティの重要性


コミュニティの流行、その背景にある5つの要因

 なぜ企業のコミュニティへの取り組みが、加速しているのだろうか。企業コミュニティを運営しているコミューン株式会社 日本事業責任者 兼 CMOの杉山氏と、株式会社Asobica 取締役CCO 小父内氏とカスタマーサクセス部部長 兼 事業推進室マネージャーの横溝氏へのインタビューを通して、理由を探った。その中から浮かび上がった5つの要因をここに挙げたい。

(1)コロナ禍によるオンラインコミュニケーションの一般化

 両社ともに「コロナ禍で事業が伸びているが、Postコロナでも勢いが衰えていない、むしろ伸びている」という見解をもっていた。コロナ禍ではZoomなどオンラインコミュニケーションが浸透し、同時に店頭などリアルで顧客と接触することが難しい環境であったからこそ、ロイヤル顧客とコミュニケーションができる施策の重要性が高まっていったと考えられる。

(2)企業のSaaS導入慣れ

 クラウドコンピューティングが常識となり、コロナ禍でリモート勤務が当たり前になったことで、業務用のソフトウェアをクラウドで利用することに企業が慣れてきた。企業へクラウドのソフトウェアを導入することは、オンプレミスへのソフトウェア導入よりも基本的には楽に導入できる。Asobicaの小父内氏は「弊社はBtoB企業の顧客が中心であったが、ここにきてBtoC企業の需要が伸びている。この背景には一般企業のSaaS慣れが寄与していると思う」と語っていた。

(3)SNSよりも濃い、エクスクルーシブな結びつき

 SNSにもコミュニティは存在している。たとえば、Facebookなどはグループを作ったり、コミュニティを管理する仕組みをもっている。しかし最近のコミュニティのSaaSは、SNSよりもリッチな特別感のある機能を多数付与しているようだ。

 コミューンの杉山氏は「Commmuneでは最近コミュニティを活性化するために投稿にAIを活用して返信をする機能を導入した」という。ユーザーが投稿した内容に応じて、AIが返事を生成するため、コミュニティマネージャーはそれを活用することもできるという。もちろん従来通り、自分で返事をレスをすることも可能だ。他にも独自のステータスやインセンティブを与えることもできる。

(4)未然に炎上を予防する

 最近SNSやニュースを騒がせている、YouTuberのイタズラ投稿やちょっとしたコミュニケーションミスに起因する炎上。通常の場合、当事者である企業が消そうとしても燃え広がるケースが多いように感じている。ただ、コミュニティ内で自社のスタンスや価値・倫理観を理解してくれるファンがいれば、SNS上の炎上も自然と消化してくれるのではないだろうか? 東日本大震災の時、石原都知事の「パチンコと自販機はやめちまえ」発言に際し、ファンがSNS上で自販機の節電や昼の電気を使わず夜冷やすなどの企業努力を紹介して擁護してくれた経験を筆者は持つ。炎上事案の前に、ファンとの確固たる関係性を持つ重要性を感じている。

(5)顧客フィードバックのサービス反映の速さ

 サービスを導入して運営していると、どうしても不具合やNice to Haveの機能が出てくる。また業界やサービス形態によっても運用の仕方が変わるだろう。両社とも自らのユーザーコミュニティを有効に活用して意見を吸い上げ、反映する仕組みをもっている。

 またコミューンではコミュニティの重要性を啓蒙する役割としてエヴァンジェリストを設置し、企業の導入に関するハードルを低くすると同時に、サービスの質の改善を図っている。一方、Asobicaの小父内氏は「具体的な数字は言えないが、解約率は相当低い」という。

コミュニティの将来とブランド戦略

 コミュニティ内での活動は、自社のコンテンツに触れることで顧客のロイヤリティを醸成する。それに加えて、競合他社のコンテンツに触れる機会を減らし、ユーザーをブランドの熱狂的なファンに変える力をもっている。これは、ユーザーがブランドや商品を「推し」として支持することを意味する。コロナ禍を経て、オンライン交流の標準化が進み、ロイヤルカスタマーが可視化しやすくなった。今後、コミュニティはさらに発展し、企業のマーケティングにおいてより重要な役割を果たすようになると考えている。

 メディアとコミュニケーションの形は、テクノロジーの進化や生活スタイルの変化と共に変わり続けている。全世代共通の体験コンテンツが減少する一方で、リキッド消費やインタレストメディア、ユーザーコミュニティのような新しい顧客との関係構築できる形態が登場しており、これらが新たなブランド価値を創出している。

 この傾向を捉え、テクノロジーを駆使して顧客と共創・共感できるかが、これから伸びていく企業のカギとなるだろう。また、それらはすべてデジタルで完結するわけではなく、アナログへの変換もどこかで必要である。たとえば、デジタルのコミュニティで知り合った人とはリアルでも会いたくなるように……。デジタルとアナログな人間をつなぐインターフェース即ちUX/UIが今後さらに重要になってくるだろう。

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この記事の著者

江端 浩人(エバタ ヒロト)

iU大学教授、江端浩人事務所 代表、MAIDX LLC代表、AlMONDO事業顧問

米ニューヨーク・マンハッタン生まれ。米スタンフォード大学経営大学院修了、経営学修士(MBA)取得。伊藤忠商事の宇宙・情報部門、ITベンチャーの創業を経て、日本コカ・コーラでマーケティングバイスプレジデント、日本マイクロソフト業務...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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MarkeZine(マーケジン)
2024/01/17 09:17 https://markezine.jp/article/detail/44523

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