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今知っておきたいマーケティング基礎知識

顧客と良好な関係を保つリテンションマーケティングの重要性と8つの手法


 リテンションマーケティングに注力する企業が増えている。なぜなら比較的少ないコストで利益を上げやすいからだ。本記事では、リテンションマーケティングとは何かをはじめとして、注目される理由、導入のメリットを解説することによって、その重要性を伝えたい。具体的な施策も8つ取り上げるので、参考にしてもらえたら幸いだ。

リテンションマーケティングとは顧客との良好な関係を保持すること

 リテンションマーケティングとは、顧客との良好な関係を保持するためのマーケティング活動を指す。リテンション(Retention)は英語で「保持」や「保有」を意味する言葉だ。マーケティング活動においては、顧客と継続的で良好な関係を築くことを意味する。

 対象は既存顧客で、リピート購入を促進する施策や購入額の増加などを狙う。セット販売などに代表されるクロスセルや、上位モデルまたは価格帯の高い商品・サービスに買い替えてもらうアップセルなどが代表的な手法だ。そのためには、顧客満足度の向上や改善が欠かせない。

 顧客満足度を高めることは、既存顧客を優良顧客へと育成することにつながる。自社商品・サービスのファンを増やす土台を作る大切な作業でもある。ファンが増えれば、新規顧客の獲得につながる可能性は十分だ。売上が増えれば、経営も安定していくだろう。

なぜリテンションマーケティングが注目されるのか

 リテンションマーケティングが注目されるのには、いくつかの理由がある。その理由を理解しておけば、リテンションマーケティングを実施する必要性や重要性もわかってくるだろう。

新規顧客開拓より効率的に販売可能

 新規顧客の開拓には、莫大なコストがかかる。自社商品・サービスの良さを理解してもらい、競合他社による類似品の中から選んでもらうには、相応の労力や時間が必要だ。しかし、既存顧客へのアプローチなら、新規顧客開拓とはコストパフォーマンスが大幅に変わってくる。

 マーケティングには、1対5の法則というものがある。新規顧客の開拓は、既存顧客に対する販売コストの5倍を要するというものだ。既存顧客は、自社商品・サービスを理解していることに加えて、販売実績から好みや購入ペースを予測し、タイムリーに適切な提案もできる。

 つまり、リテンションマーケティングを行えば、効率的に販売や売上拡大が可能ということだ。

社会構造の変化

 コストパフォーマンスを追及するのは、経営安定化のための利益確保だけではない。社会構造の変化という背景もある。具体的には、少子高齢化による生産年齢人口の減少だ。生産年齢人口とは、生産活動の中心となる15~64歳までの人口を意味する。

 総務省の令和4(2022)年版 情報通信白書によると、生産年齢人口は、1975年にピークを迎えてから約30年間も減少し続けている。ピーク時には8716万人だったが、2020年には7509万人と13.8%も減少した。2040年には5978万人になると予測されている。

 働き手や顧客となる人口が、年々少なくなるとわかっている状況で、コストパフォーマンスの良いリテンションマーケティングに企業が注力するのはごく自然なことだ。

デジタルツールの利用拡大

 デジタルツールの利用拡大も、リテンションマーケティングへの関心が高まる理由のひとつだといえる。スマートフォンやタブレットなど、モバイルデバイスの利用率やEC取引の増加を受けて、サブスクリプションによる商品・サービスの購入は決して珍しいことではなくなった。

 総務省の令和3(2021)年版情報通信白書によると、世界のサブスクリプションサービスは顕著な伸びを見せていることがわかる。矢野経済研究所によると、2021年の国内市場は前年度比10.6%増となる9615億5000万円で、その後の堅調な成長も予測されている。

 このようなサブスクリプション型の販売に見られる特徴として、対面よりも解約されやすいということがある。近年では、SNSなどで評判を下調べしたり、購入後に感想を伝えたりなど、個々の顧客による情報発信が購買行動に影響している。離脱率という指標もあり、いかに顧客の心を掴み続けるかや満足度を維持するかが、リピート購入のための重要な課題となっている。

 このような理由から、リテンションマーケティングに注目が集まっているのだ。次に、リテンションマーケティングで解決できる課題を含めた、導入のメリットを見ていこう。

リテンションマーケティングを導入するメリット

 ここでは、リテンションマーケティングを導入する利点やメリットについて見ていこう。既存顧客にアプローチするリテンションマーケティングには、特筆すべき利点やメリットがある。

顧客満足度の向上と離脱率の抑制

 リテンションマーケティングを導入するメリットには、顧客満足度の向上と離脱率の抑制がある。顧客が商品・サービスを購入するというアクションを起こすのは、解決したい課題があるからだ。その課題が解決されたかどうか、解決策として気に入ってもらえたかどうかを丁寧に追っていくことが、リテンションマーケティングの基本的な考え方のため、顧客満足度が向上し離脱率を抑制する。

 購入履歴や購入者の情報などを分析し、よりパーソナライズされ顧客の好みに応じた商品・サービス、顧客限定の特典を提案することで、顧客には「自分のことをわかってくれている」「優遇されている」というポジティブな感情が生まれやすい。購入後のサポートも顧客満足度の向上や離脱率の抑制には重要だ。

優良顧客を育成しLTVを向上

 LTV(Life Time Value)とは、顧客生涯価値を意味する。初回の購入から取引を終えるまでの期間に、1社または1人の顧客がどれくらいの価値(=利益)を自社にもたらすかというマーケティングの指標だ。金額が大きくても1回の取引で終わってしまう顧客と、高額とはいえなくても定期的に購入する顧客とでは、関係が長くなるほど後者のLTVが増す。

 既存顧客の中から優良顧客を育成しLTVを高められるのも、リテンションマーケティングのメリットといえる。優良顧客はときたまやってくる幸運ではなく、既存顧客にリテンションマーケティングを実施することによって、優良顧客になる確率を高められるということだ。

 優良顧客が増えていけば、自社でコストをかけて営業や宣伝、マーケティングをしなくても、優良顧客がまた別の顧客に取り次いでくれることも期待できる。

休眠顧客の掘り起こし

 優良顧客とは反対に、自社商品・サービスの購入経験こそあるものの、その後の購入実績がないという既存顧客もいるだろう。このような顧客は休眠顧客と呼ばれる。休眠顧客の掘り起こしができるのも、リテンションマーケティングのメリットのひとつだ。

 購入が止まってしまっていることには、必ず理由がある。自社商品・サービスそのものに対する不満なのか、予算の関係なのか、ニーズが変わったのかなど、理由はさまざまだ。中には、購入してみたものの上手く使いこなせなかったという顧客もいるかもしれない。

 休眠の理由を知り、理由に沿ったアプローチを焦らずに粘り強く続けていくことが重要だ。そうすれば、休眠顧客に対する適切な提案が可能になり、掘り起こしへとつながっていく。

商品・サービスの改善や新商品開発への活用

 リテンションマーケティングによって顧客との良好な関係が築けるようになってくると、自社商品・サービスに対する忌憚のない意見や細かい要望などが聞けるようになってくる。顧客の率直な声は、自社商品・サービスの改善やその後の開発に欠かせない貴重な情報だ。

 顧客の声はVOC(Voice of Customer)と呼ばれ、新商品やサービスの開発に欠かせないマーケティングの手法のひとつとして知られている。既存顧客に加えて見込み顧客も含めた自社商品・サービスの改善や開発ができれば理想的だが、意見を聞きやすい既存顧客から始めるほうがコストを低く抑えやすい。

具体的なリテンションマーケティングの8つの手法

 ここでは、具体的なリテンションマーケティングの手法を8つ取り上げる。目新しい手法や高度なテクニックを要するものではなく、従来の手法を駆使するというイメージだ。

メールマガジン・ニュースレター

 既存顧客へのアプローチとして取り組みやすいのが、メールマガジンやニュースレターの配信だ。顧客のメールアドレスを収集しリスト化してあれば、一斉メールやメール配信システムの利用で配信が可能となる。

 配信を始める前の準備として欠かせないのが、既存顧客の分析とセグメント分けだ。直近の購入日(Recency)や購入頻度(Frequency)、購入金額(Monetary)で分類するのは、RFM分析と呼ばれる代表的な分析方法。ほかにも購入品や既存顧客の属性などを掛け合わせてセグメントを作っていく。

 メールマガジンやニュースレターの内容は、顧客にとって有益なものを選ぶこともポイントだ。割引やキャンペーン情報だけではすぐに飽きられてしまうので、正しい使い方や周辺知識、業界ニュースなど、既存顧客の興味を引く内容を考えていく必要がある。

レコメンド

 自社サイトやアプリがある場合、レコメンド機能を実装するというのも、リテンションを促すひとつの方法だ。レコメンドとは、購入や閲覧実績に応じて類似品や関連商品などをおすすめしてくる機能のことで、「この商品を購入(閲覧)した人におすすめ」といった文言とともに表示される。

 顧客が何と比較検討した上で、最終的な購入判断にいたったのかを思い出すきっかけにもなり、買いたかったが見送った商品への購買意欲を刺激することも期待できる。ここから買い替えが発生する可能性もあるだろう。

 レコメンドエンジンの実装には、Webサイト構築やアプリ開発をした業者に依頼するケースが多い。自社に開発者がいれば、外注するよりもコストを圧縮できるだろう。

アプリのプッシュ通知

 アプリのプッシュ通知とは、スマートフォンの画面に表示される通知機能を指す。スマートフォンで何か作業をしている際に、画面の上部などから短いメッセージが現れるのを見たことがある人もいるだろう。その機能のことだ。

 自社アプリを持っていることが前提となるが、個々人の顧客にリーチできるという大きな強みがある。その一方で、アプリの通知機能をオフに設定されてしまうと何も届かないという弱みもあるのが特徴だ。

 アプリの通知をオフにされない通知内容の精査に加えて、オンにしておいてもらえる特典や仕組み作りなど、プッシュ通知機能が活かされるコンテンツも不可欠といえる。

SNS

 今の時代、SNSなしにリテンションマーケティングは考えられないといっても過言ではない。InstagramやX(旧Twitter)などのSNSでは、企業や著名人・有名人が開設したアカウントも多く、顧客との距離感の近さや反応の速さ、拡散力の高さなどが特徴といえる。

 メールマガジンやニュースレターと異なり、SNSは不特定多数のユーザーにリーチできるのが魅力。企業にとっては、既存顧客はもちろんのこと潜在顧客に自社商品・サービスがどのように受け止められているかを手軽にリサーチできる。

 自社商品・サービス名をハッシュタグで検索し、自社アカウントで「いいね」返しや感謝を表す返信・コメントなどを残せば、既存顧客の愛着を高めたり、潜在顧客の興味を引いたりすることも可能だ。

カスタマーサポート

 自社商品・サービスの使用や利用にあたって、わかりにくいところや難しい点、注意点などがある場合には、カスタマーサポートを充実させるというのがリテンションマーケティングの基本といえる。購入後に自社商品・サービスを十分に使えていないというのは、顧客にとって大きな問題だからだ。

 カスタマーサポートには、電話(コールセンター)やチャットボット、SNS、メール、FAQなど、さまざまな手段がある。顧客が望む方法でサポートできるのが望ましいが、予算の関係で導入可能な手段が限られている場合には、自社の中心となる顧客層に合わせて段階的にサポートを拡充していくのがおすすめだ。

オフラインイベント

 オフラインイベントとは、展示会や発表会、セミナーなどのリアルイベントを指す。商品・サービスを顧客が実際に手にしたり、体験したりできるだけではなく、使用感や利用した感想をその場で集めることも可能だ。

 新規顧客開拓と異なり、既存顧客を対象とするリテンションマーケティングには、予算や人員などがあまり割かれないということもある。オンラインで顧客と接することも多いリテンションマーケティングの世界では、顧客と直接接する機会は貴重だと考えよう。

 顧客と直接コミュニケーションが取れるオフラインイベントは、自社商品・サービスの特徴を訴求でき、顧客の生の声を聞ける格好の場だといえる。

ポイント・クーポン

 購入額や頻度に応じたポイント加算やスタンプ、クーポンなどの特典は、昔も今も変わらず既存顧客の心を掴んで離さない魅力がある。自社アプリ開発にはコストがかかるが、SNSでクーポンコードを配布したり、共通ポイントを導入したりすればコストを抑えやすい。

 通常の価格よりもいずれ割安で購入できるというお得感や、スタンプをコツコツとためていく達成感があるのだろう。個人向けのサービスでは、誕生日や記念日を登録すると該当月に特典が受け取れるというサービスなども散見される。

 よくある手法だとわかっていながらも、つい購入してしまうのは、それが人の心理だからだろう。リピート購入に対する景品やノベルティは今に始まったことではなく、江戸時代の呉服屋である越後屋にまで遡れるという説もある。

アンケート

 自社商品・サービスについてのアンケートで既存顧客の偽らざる意見を聞き出すのも、リテンションマーケティングの手法のひとつだ。アンケートは原則として無記名で、自社との関係を気にすることなく意見を出してもらえるような配慮が欠かせない。

 セミナーなどでよく配布される紙ベースのアンケートは、回収率が高いという一方で、よく考えられた意見は出にくいという特徴がある。Webベースのアンケートは、じっくりと考える時間があるため、一旦考えをまとめてから意見を出したいという場合に向いている。状況に応じて使っていこう。

押さえておきたいリテンションマーケティングを成功させる3つのポイント

 最後に、リテンションマーケティングを成功させるためのポイントを3つ紹介しておきたい。

  • マーケティング施策や提案内容
  • 接点を持つ頻度
  • 好ましいコミュニケーション方法

 特に難しいことではなく、それぞれの顧客ニーズに合った施策や提案内容を適切な頻度で、かつ顧客が好むコミュニケーション方法で提供するということだ。

 施策は定期的に効果測定や検証をし、改善を重ねていく必要がある。必要であれば、CRM支援ツールの導入も検討しよう。顧客満足と自社利益のバランスを上手に取ることが重要だ。

 リテンションマーケティングは、新規顧客開拓よりも低コストで利益を確保しやすいというコストパフォーマンスの良さが特徴といえる。既存顧客と長期的に良好な関係を築き、より大きな利益へとつなげよう。

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この記事の著者

マーケ研究所(マーケケンキュウジョ)

 マーケティングに関する情報を調べ、まとめて届けています。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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2024/07/01 09:15 https://markezine.jp/article/detail/44600

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