良質な店舗体験は顧客が来店することに支払う対価
大里:本連載では、店舗ビジネスの有識者や新たな店舗ビジネスで注目される企業の方々をお招きし、これからの店舗ビジネスの在り方について紐解いています。まず、イケア・ジャパンでお二人が担う役割を教えていただけますか?
谷川:私は現在、ホームファニッシング&リテイルデザインマネジャーを務めています。具体的には、店舗・オンラインストアのそれぞれで、お部屋の提案や店舗のデザインや商品の陳列などを行い、それを通してより多くの方に興味を持っていただく店舗作りを行っています。
菊池:私は、カントリーフードマネジャーという職務で、食品部門を担当しています。イケアでは、食事をとる場所を店舗体験として非常に重要視しています。これは、お買い物の導線の途中に休憩できる場所があることで、ショールームで見たものを皆で振り返ったり、気になる商品を比較したりできるためです。休憩する場所かつ意思決定を行う場所として居心地の良い空間作りが行えるように日々奮闘しています。
大里:近年、社会情勢の大きな変化にともない、消費者の購買行動や店舗に求める価値も大きく変化していると感じています。そんな中で、大型店舗を多数展開するイケアが考える店舗としての提供価値について教えてください。
谷川:イケアでは、「IKEA as a destination store(目的地としてのイケア)」「fun day out(家の外で過ごす楽しい日)」という言葉を非常に大切にしています。これらの言葉は、一日出掛けても楽しい店舗体験作りに注力していることを意味しています。現在は、ECサイトでの買い物が当たり前になりました。これは同時に、以前なら当たり前だった店舗に行くことだけがお客様の選択肢ではなくなったことも意味しています。
だからこそイケアでは、店舗に来る対価として、ショールームやスウェーデンにちなんだ料理など、店舗だからこその付加価値をお客様に体感していただけるように意識しています。
気軽に寄れる都心型店舗で顧客接点を拡大
大里:イケア・ジャパンは2020年から2021年にかけて、新たに都心型店舗を3店舗オープンしました。この都心型店舗と大型店舗では、店舗体験の狙いとしてどのような違いがあるのでしょうか?
谷川:イケアの大型店舗は、郊外でお客様をお迎えする形態です。売り場面積の広さや商品数の多さを活かして、商品をじっくり検討し、お買い物を楽しんでいただけるような店舗体験を意識しています。
しかし、この数年で世界中のお客様のライフスタイルが効率性を重視したものに変化してきました。それにあわせて「新たなお客様に会いに行く」というコンセプトで、これまで店舗に足を運んだことがない方にイケアを知っていただき、商品と出会っていただく場所としての役割を果たしているのが都心型店舗です。
故に都心型店舗では、欲しいと思った時に求めている商品が手軽に手に入る利便性や、立ち寄るたびにディスプレイが変化しているようなバラエティに富んだ雰囲気作りを意識しています。また都心型店舗は、イケアブランドのエントリーポイントにあたるので、大型店舗やECへつなぐ“あらゆるチャネルの起点”の役割もあります。いかに「また来たい」と感じていただける体験を提供できるかが重要になっています。
菊池:都心型店舗においてフードも重要な役割を占めています。立地の良さと価格の安さも相まって、多くのお客様が友人や同僚と食事目的でイケアに来てくださっています。そして、そのついでに他の商品を見てくださる方も多いです。このように、フード事業がこれまでつながりの持てなかった層のお客様に興味を持っていただくための一つのきっかけになっています。