方法論や手法は時代とともに増え、廃れていく
MZ:世の中の変化にともなって、マーケティングの範疇が広がり複雑化しているのですね。
西口:そう思います。どんな領域でも時間の経過とともにスタンダードは変わりますが、この20年の社会環境はデジタルの発展によって大きく変わりました。それによって、特にマーケティングは進化した部分が大きいと思います。
たとえば、20年前は買い物の場といえばほぼリアル店舗しかありませんでした。今ではEC併用が当たり前になり、購買チャネルがECのみの企業やブランドもめずらしくありません。それにともなって、新たな販売手法や取り引き形態も増えています。
とはいえ、新しい方法論や手法ばかりに注目していると、樹海のさらに奥に迷い込んでしまいます。マーケティングの構造と原則を理解せずに、成果を得るのは難しいです。バラエティに富んだ道具をそろえても、使う目的や最適な使い方がわからなければ真価を発揮することはできません。
MZ:画一的な定義がなく、手法も膨大にあるから、迷い込むと出てこられない樹海のようになってしまっているというわけですね。
西口:方法論や手法は登場するだけでなく、時代とともに消えていくのもまた難しいところです。マーケティングにおける「WHO・WHAT・HOW」というのは、聞いたことがありますか?
MZ:誰に・何を・どうやって届けるか、ということですよね。
西口:いろいろな方法論や手法は、すべて「HOW」にあたります。HOWは、時代が変わって人々の環境が変わると、不要になってしまうものも多いのです。
複雑化・多様化したから、「顧客」に立ち戻るしかない
MZ:確かに、ネットがなかった時代の手法がもう使われないように、今は流行っていてもすぐ廃れるものもあるということですね。
西口:そうです。だから、皆さんが「わからない」と混乱するのはよく理解できます。学ぶものが、デジタル以前のマスマーケティングが主流だった時代の理論か、もしくは直近のデジタルマーケティングの手法かという、極端な2軸になっている。しかも後者は無限に増えて消えている、という状況が混乱を招いています。
MZ:初心者マーケターはどうすればいいのでしょうか?
西口:初心者マーケターに限らず、私にとっても、ここまで複雑化・多様化すると「これを学べばよい/こうすればいい」といった画一的なことは見出しにくいです。だからこそ、「顧客ベース」に立ち戻るしかないと思っています。企業から「自分たちがこれを売りたいからこういうアプローチをして……」という方向で考えるのではなく、すべて顧客を起点に考えていく。
現に、もはや“マス”で括れる母数は存在せず、一人ひとりが自分の好みや志向性にのっとって購買したり体験したりしています。音楽一つとっても、様々なジャンルが成立していて、たどり着くまでの経緯も人それぞれです。
ですから、先ほど提示した「WHO・WHAT・HOW」のうち、誰に提案するのかの「WHO」の重要性が一層増しています。顧客は誰なのかを、ますます明確にする必要があると思います。