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【ニッセイ基礎研究所 解説】「共創」視点で再定義する「サステナブル・マーケティング」

サステナ消費者を分類した主要3つのセグメントを紹介~データから読み解く、消費者の本音とインサイト

商品カテゴリー別に見るサステナビリティ意識の広がり

 ここから、紹介した3つのセグメントをベースに読み解きを深めていく。まずは、サステナビリティを意識している層の広がりをセグメント別に見ていこう。

 表2は、商品カテゴリーごとに各セグメントの広がりを整理したものだ。

【表2】商品・サービス購入時にサステナビリティを意識する商品カテゴリー別割合
【表2】商品・サービス購入時にサステナビリティを意識する商品カテゴリー別割合(クリックして拡大)

食品・飲料、日用品、衣料品など生活に密着したカテゴリー

 日本の消費者は「食品・飲料」や「日用品」「衣料品」など生活に密着したカテゴリーで、セグメント1「サステナ積極実践層」の比率が高い

 特に食品・飲料では7割弱、衣料や家庭用品でも一定の割合がサステナ意識で商品を選んでいる。ここには、「日常生活で無理なく実践できる」「安心・安全・健康という価値観とサステナが結びつきやすい」といった、日本ならではの生活実感が背景にあることが感じられる。

 また、こうした高頻度に購入されるカテゴリーは「買い替えの機会が多く」「選択肢も比較的豊富」であるため、消費者が自発的にサステナ商品を選びやすいという側面もあるだろう。

家電、住宅、金融、保険など「高額」あるいは「無形商材」のカテゴリー

 一方で、家電・住宅のような高額で購入頻度が低い商品、金融や投資・保険などの無形商材では、サステナビリティへの意識が購買理由となる割合が減少する。これは、サステナビリティのもたらす価値が「日常の選択肢」として実感しにくいことと無関係ではないだろう。高額なものや無形なものを買う時、日本人の「目に見える安心・実感をより重視する」という、モノの品質にこだわる特性が影響している面もありそうだ。

 ただし、購入時にサステナビリティが強く意識されないからと言って、サステナブル・マーケティングのスコープから外して良いのか、と言えば必ずしもそうではない。ニッセイ基礎研究所の調査によれば、特に金融・投資・保険カテゴリーのユーザー層はサステナビリティ意識が高く積極的であることがわかっている。

 従って、商品を購入する際に直接的に意識はされなかったとしても、そのブランドのレビュテーション(評判)が日常的に芳しいと感じられなければ、購入候補リストから簡単に外されてしまう、言わば「ネガティブ・スクリーニング」の役割を果たしている点には注意が必要だろう。

サステナの観点では先駆的な「自動車」カテゴリー

 自動車カテゴリーに目を向けると、1997年にトヨタ自動車が量産ハイブリッド車を発売して以降、ガソリン消費量やCO2削減など環境配慮が業界全体のスタンダードとなってきた。2024年の年間新車(軽自動車を除く登録車)販売においても、ハイブリッド車が約6割を占めており(出典:一般社団法人 日本自動車販売協会連合会)、サステナビリティへの配慮という観点では先駆的な市場でもある。

 しかし消費者視点で見ると、購入時のサステナビリティへの意識は意外に高くない。このデータのみでは解釈が難しいが、たとえば環境配慮がごく当たり前になったことで、消費者にとってサステナブルな車の選択が「意識的な行動」というより、「自然な選択」に近づきつつあると言えるかもしれない。

 また一方で、CO2削減というより「燃費」といった個人の経済性としての側面がクローズアップされるようになり、「環境や地域・社会への波及効果」が消費者にとって商品の判断軸になり得ていない、という面もあると思われる。

「なぜ動くのか/動かないのか」~7つの因子から消費者のインサイトを読み解く

 マーケティング現場において、消費者がサステナ商品やサービスを「なぜ選ぶのか」「なぜ選ばないのか」を解明することは、効果的な施策設計の起点となる。そこで注目したいのが、消費者心理や行動の背景にある「インサイト」である。

 ここまではセグメントごとの行動実態を見てきたが、ここからは、ニッセイ基礎研究所の調査・分析結果から得られた、消費者のサステナビリティ行動を左右する心理的・社会的な要因、関与度、社会規範、ベネフィット評価、障壁意識などの「7つの因子(サステナビリティ意識7因子)」を見てみたい(表3)。

【表3】サステナビリティ意識の7つの因子(クリックして拡大)
【表3】サステナビリティ意識の7つの因子(クリックして拡大)

 人の行動を決める心理的な要因のことを「因子」というが、これらサステナビリティ意識に潜在する7つの因子が組み合わさりながら、その時々のシーンや環境に沿って個人のサステナビリティ行動が決定されていくことになる。

 したがって、これらの因子を先ほどの行動実態データと掛け合わせて分析することで、各セグメントや商品カテゴリーごとに「なぜ行動が促進されるのか、あるいは阻害されるのか」の背景をより深く読み解くヒントが得られるだろう(表4)。

【表4】セグメントの「サステナ意識(7因子)」の特徴(クリックして拡大)
【表4】セグメントの「サステナ意識(7因子)」の特徴(クリックして拡大)

 たとえば、サステナビリティに関して責任意識や使命感の意識の大きい層(セグメント1:サステナ「積極実践」層)は、新しいサステナ商品や社会貢献型サービスに積極的に反応しやすい。一方、障壁意識が高い層(セグメント3:サステナ「行動手前」層)は、同じ提案でも「行動のハードル」が高く、実際の購買や参加には至りにくい。

 また、家族や友人、コミュニティとのつながりを重視する層(セグメント2:サステナライトフォロワー層)は、口コミや周囲の評価が行動の後押しとなることが多い。したがって、SNSなどで発信しやすい形での関わりが効果的な場合もあるだろう。

 一般的にサステナブルな行動は、「意識が高い」行動と言われがちだが、マーケティング理論でいえば「高関与行動」に近い。すなわち、万人が取る行動ではなく、サステナビリティに特に関心や思い入れがある人の取る行動と言われる。

 実際、サステナ消費はその人の関与度(=どれだけそのテーマに関心や思い入れがあるか)の高低によって、行動への移りやすさが大きく左右される面もある。

 つまり、サステナビリティ意識7因子のように、セグメントごとに異なるインサイトを細かく読み解くことが、マーケティングの限られたリソースをどこに投入していくかの重要な判断軸の1つとなる

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周りの評価や空気が「行動」を後押しする時代へ

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この記事の著者

小口 裕(オグチ ユタカ)

株式会社ニッセイ基礎研究所 准主任研究員

多摩美術大学 非常勤講師(消費者行動論)。消費者行動の専門家として、エシカル消費、サステナブル・マーケティング、地方創生を中心に研究・政策提言を行う。過去、20年以上にわたり、自動車、食品・飲料、デジタルコンテンツ、自治体などの多岐にわたる分野の消費者調査や研究に従事。...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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MarkeZine(マーケジン)
2025/07/30 09:00 https://markezine.jp/article/detail/44710

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