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ためになるAIのお話。

研究者が示す「AIの限界値(≒到達点)」と「人間の価値」【松尾研究室 今井翔太×博報堂 藤平達之】

人々の生活、たとえば子育てや介護も、AIで変わっていく?

藤平:博報堂はフィロソフィーとして「生活者発想」を掲げておりまして、個人的にも「生活×AI」というのは興味領域のひとつだったりします。これから先、「AIを活用した子育て」「AIを活用した介護」のように、生活においても当たり前のようにAIを使うようになっていくのでしょうか?

今井:これはスパッとお答えするのが少し難しくて、下手すると、今後の展開は国ごとに違ってくるような気がしています。世界的には「介護や子育ては機械にやってほしくない。人間がやるべきだ」と考える人のほうが多いと研究結果で示されていますが、日本の場合は「機械」に対する価値観が特殊なんです。

 少し前に、ソニーの「aibo」が大ヒットしていましたよね。何気ない会話ややり取りを機械(AI)とする、機械(AI)を相手に感情的に満足するというようなことが、日本人の価値観だとちゃんと起こるのではないかと僕は考えていて。ゆえに、AI×介護、AI×育児のような分野も諸外国とは違う発展の仕方をしていく可能性があると思っています。この日本人の価値観には、ドラえもんや鉄腕アトムなどの漫画アニメの影響があるのかもしれませんね。

 ただ、子育てや介護の細々したことをよしなにAIロボットがやってくれるというような話にはすぐにはなりません。今のAIは肉体労働系の動作が全然できないので、5年、10年くらい待たないと、質問にあったような変化は起こらないかなと思います。

藤平:なるほど。たしかに、デジタル上でAIと人間とのやり取りを見ていると「とんでもないところまで来ているな」とビックリすることが多々ありますが、AIが組み込まれたロボットは、ザッと見る限り、機能も限定的でまだまだ途上だなという印象を素人ながらにも持ちます。

今井:そうですね。今のAIは、言ってしまえば“頭でっかち”で、肉体的な進化よりも先にクリエイティブなことをやろうとしているんです。日本の有名なAI研究者ですら、生成AIが現在のように進化する前に、AIは肉体的な作業ができるようになっているはずだと予測していたんですが、完全に逆転している形ですね。AI研究者の誰も、このような発展の仕方は想像していなかったと思われます。

藤平:個性/らしさから生み出されるアウトプットと同様に、「肉体があること」というのも人間の強みなんですね。

研究者もクリエイティブ・ディレクターも「創造的な仕事」

藤平:最後に、冒頭の質問に近いのですが「AIはディレクションできるのか問題」の研究者版を聞かせて下さい。AIを研究されている皆さんは、ひらめきとか着想をどうやって得られていますか? 専門領域を活かしてAIをフルに活用してロジカルに研究を進めているのか、それともどちらかといえば我々の仕事のように「クリエイティブジャンプする」「すべてがつながる」みたいな瞬間があるのか。AIを研究している方たちのプロセスにAIが組み込まれているかに興味があります。

今井:研究者によって個人差がありますが、前提として研究の進め方には大きく2パターンあります。1つは努力型/秀才型で、今ある研究内容をすべて読み込めば、自分が研究すべきところ、今抜け落ちている穴の部分が確実に見つかるだろうというアプローチを取るパターン。もう1つはいわゆる天才型で、論文を読んでいたら、急にすごいアイデアを思い付いた! というパターンです。

藤平:努力型の研究から、ノーベル賞級の偉大な発明が起こることもあるんですか?

今井:本気で話すととても長い話になるんですが、努力型の研究からも、普通に偉大な成果は生まれています。『科学革命の構造』という書籍で「研究のパラダイム」という概念が解説されているのですが。これは何かと言うと、従来の研究をずっと積み上げていくと、あるところで軋みが生じて、それまでの研究が嚙み合わなくなることがある。その軋みから従来のパラダイムが崩れて、別の新たなパラダイムへのシフトが起きるということを示す概念です。努力型でノーベル賞級の発見がなされる時も、こういうケースはあります。

 ちなみに、1つのパラダイムの中で研究を積み上げていたら、偶然とんでもなく遠いところに思考が飛んで大きな発明に繋がったといったケースもあったりします。

藤平:では、研究の手段としてAIを捉えると、研究を積み上げて軋みにたどり着くまでのプロセス、イメージでは1%、2%の改善・最適化の部分をAIがサポートしてくれる感じでしょうか?

今井:はい、そうですね。そういった形をまずは目指すべきだと思います。今のAIには天才的な発想はできないので、細々したところの改善をAIで自動化していくというのが、当面の方向性でしょう。

藤平:僕らの仕事にも共通するところがありますね。冒頭の話にあったように、メッセージの精度を高めるためにAIを使い、ABテストを重ねて、広告クリエイティブの改善をしたりするような実務におけるAI活用の方向性も共通しています。

 そして、個人的な感覚ですが、AIのおかげで空いた時間や、素早く整った前提があるからこそ、(その業務は直接AIと関係なくても)いい仕事ができるようになる。テーマや専門性は違いますし、僭越ですが、世の中を前に進める創作活動をしていると捉えると、同じ眼差しがあるのかもしれないと嬉しくなりました。

今井:そうなんです、ノーベル賞をとった研究者たちの人生を見ると、暇な時間に着想を得ていたりします。研究者も「思いつく」ための時間を作る必要があると思います。

藤平:実は、今日の対談は、今井さんのお話が僕にわかるかなとちょっと不安だったのですが(笑)、とてもわかりやすく話していただき、新たな学びがたくさんありました。AIの研究者がしっかり人間のほうを向いている感じを受け、嬉しくもなりました。今井さん、今日はありがとうございました!

今回の「シンプルにためになったポイント」

・AI研究者だって「人間をなめたらダメ」「人間はスゴい」と思っている

・人間はスゴい【1】:「ジェネラリストすぎない」ことと「いま、ここのリアルを掴んでいる」こと

・人間はスゴい【2】:「それぞれに強烈ならしさがある」ことと「肉体がある」こと

・ひらめきや創造的な活動は「AIが作ってくれた余白や下ごしらえ」から人間が生み出すもの(でありたい)

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MarkeZine編集部(マーケジンヘンシュウブ)

デジタルを中心とした広告/マーケティングの最新動向を発信する専門メディアの編集部です。

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MarkeZine(マーケジン)
2024/03/08 09:00 https://markezine.jp/article/detail/44833

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