「販売への貢献」は売り場で達成すべき
水野:一般の企業では、コミュニティにも売上への貢献が期待されています。コープ・デリシェの場合はいかがでしょうか?
宇都宮:コープ・デリシェは「くらしを理解する」という役割に特化しているため、売上につなげる取り組みは一切行っていませんし、今後もその役割を担うことはありません。KPIに関しても特に明確な指標を設けているわけではなく、おしゃべりが活発に行われていれば役割を果たしていると考えています。ECサイト(コープデリeフレンズ)のトップには、コープ・デリシェへの導線を設けていますが、あくまでもコープ・デリシェは「商品を理解してもらう場所」という位置付けです。
水野:NB商品を製造するメーカーからすると、自社の商品がコープ・デリシェに取り上げられることで、認知獲得や理解促進につながりますよね。
宇都宮:確かに、そのような価値を持つ媒体と考えることもできますが「コープ・デリシェ=安易に売上につなげる場ではない」という意識を強く持ちながら企画・運営しています。私たちの目的はあくまでも組合員のくらしに寄り添い、それを理解することです。先ほど紹介した「世界にひとつだけの手作りみそ」も、味噌メーカーの協力は得ていますが、商品販売の場としては提供していません。
私の別の立場では「販売への貢献」をミッションとして担っています。しかし、そのミッションは売場で達成すべきであり、コープ・デリシェの運営とは区別して考えています。
水野:「売り」とは一線を画す中立の立場が、会員とコープデリの良い橋渡しになっているのかもしれませんね。
宇都宮:おっしゃるとおりです。今後はコープ・デリシェを通じて、コープデリの様々な部署と会員のコミュニケーションを促し、新しい価値を生み出したいと考えています。
水野:コミュニケーションの輪が広がり、相互理解が深まっていくことを期待します。今日は貴重なお話を聞かせていただきありがとうございました。
対談後記
商品の開発から販売、配送までを一貫して行うコープデリのビジネスモデルは、一般企業のビジネスモデルと大きく異なるため、コープ・デリシェの取り組みが読者の参考になるかどうか、最初は不安でした。しかし、宇都宮さんと世良さんのお話をうかがい、特に顧客理解の観点で多くのヒントが得られました。コミュニティを通じてコミュニケーションの場を提供し、くらしに寄り添い続けることで独自の価値を創出するコープデリ。配達で培ったノウハウが詰まった優れた事例だと感じました。
コロナ禍を契機に企業コミュニティへの注目が高まったことを受け、各社の優れた事例を紹介する目的で本連載はスタートしました。開始から4年が経過し、企業のマーケティングは「リアルへの回帰」と「新たなデジタル対応」の両方を求められています。「Withコロナ時代、一歩先行く企業コミュニティの共創最前線」と題したこの連載も、変化の時を迎えています。今後も企業と顧客の新たなコミュニティの形を模索し、どこかでまた優れた取り組みを皆様に共有したいと考えています。
