業態に対するマイナスイメージから自社の強みを逆算
物語コーポレーションは、1995年に「焼肉一番カルビ」という名前で焼肉店をオープンした。BSE(牛海綿状脳症)をはじめとする業界の危機を乗り越え、2007年3月に「焼肉きんぐ」へと改名。2012年に100店舗、2018年に200店舗、2023年4月に300店舗を達成している。
目覚ましい成長の要因はどこにあるのだろうか。同社で開発企画部の部長を務める霜山北斗氏は、要因の一つとして「焼肉食べ放題店のイメージ変革」を挙げる。
「10~20年前、焼肉食べ放題店のイメージは『安かろう悪かろう』でした。『おいしくない』『元が取れない』『品揃えが悪い』『ビュッフェスタイルで慌ただしい』などのマイナスイメージを改革すれば、お客様の満足度向上や他社との差別化につながると考えたわけです」(霜山氏)
そこで焼肉きんぐでは、焼肉食べ放題店のマイナスイメージから逆算して、自社のブランドの方向性や強みを定めていった。
安かろう悪かろう/おいしくない→高品質でとびきりおいしい商品
品揃えが悪い→圧倒的な品揃え
慌ただしい→席で注文&ゆっくり食事ができる
元が取れない→どれだけ食べても定額である安心感
上記をさらに分解すると、焼肉食べ放題店の利用者ニーズも見えてくる。具体的には「たくさん食べたい」「たくさん注文したい」「良い肉を食べたい」というニーズだ。焼肉きんぐではこれらのニーズを次のような指標に変換し、目標となる数値を設定。この数値によって顧客満足度を測ることにした。
たくさん食べたい→可食重量
たくさん注文したい→注文皿数
良い肉を食べたい→グラム原価
「食べ放題の良いところは、様々な種類のメニューを楽しめる点にあります。3~4品でお腹いっぱいになってしまう食べ放題は、満足いただけないんです。そのため、できるだけ多くの皿数を注文いただけるようなメニュー構成にしています。『おいしい赤身』や『ジューシーな脂身』など、高品質の肉をきちんと仕入れながら、サイドメニューやご飯ものでトータルの原価を調整しています」(霜山氏)
UX向上と原価率のコントロールを両立するタッチパネル
食べ放題店のイメージ改革に勝機を見出したとは言え「焼肉きんぐは食べ放題店である前に“焼肉屋”である」と強調する霜山氏。焼肉屋の基本価値である「おいしい肉が食べられる」を守るため、とりわけ王道メニューの品質にはこだわったそうだ。
「焼肉屋に行くなら必ず食べたいカルビやロース、ハラミなどは、在庫を切らさず用意しておくことはもちろん、品質の高さにこだわっています。キムチやナムル、ビビンバなどのサイドメニューについても同様です」(霜山氏)
焼肉きんぐのこだわりは、メニューの構成や肉の品質だけにとどまらない。商品の注文に使われるタブレットの画面は、同社の担当者が自由にレイアウトを変えられる。たとえばお薦めのメニューを大きく表示したり、逆にあまり注文してもらいたくないメニューを小さく表示したりできるわけだ。UXを向上しつつ、原価率もコントロール可能なタッチパネルを開発した。