縦長動画広告の需要が急増。市場規模は526億円に到達
サイバーエージェントの調査によると、2023年の動画広告市場は、昨年対比112%の6,253億円に達した。特に縦長動画広告の需要が急増、2023年の市場規模は昨年対比156.3%の526億円に到達した。
縦長動画が活況を迎えていることを受けサイバーエースは2022年、縦長広告に特化した動画の制作から広告運用までを一気通貫で支援するVertical Creative Lab(以下、VCL)を設立。Metaジャパンと連携して効果検証によりクリエイティブを磨き、縦長動画の売上をYoY(Year on Year:前年比)で約2倍以上成長させた。
Facebook Japanの服部氏は、縦長動画について次のように振り返る。
「2年ほど前に『これからは縦長動画が来るので、縦長動画広告をやりましょう』と多くの人に声をかけましたが、業界のほぼ全員が興味のない様子でした。その中、日本で初めて久慈さんだけが『これから来ますね、やりましょう!』と言ってくださったのを、よく覚えています」(服部氏)
ミッドファネルの攻略には「縦長動画広告」
動画広告全体での市場は、2024年に8,700億円規模、2年後には約1.2兆円規模になると言われている。生活の中でもスマホで動画を視聴する際、縦長動画に充てられる時間は増加傾向にあるのではないだろうか。
「実際、縦長動画で消費される時間は、Web上のコンテンツ消費のうち43%が短尺動画で消費されるという予測が出ていた」と服部氏は指摘。このように縦長動画の視聴時間が非常に増えている中、企業はどのように縦長動画を使っていけば良いのだろうか。
サイバーエースの久慈氏はこの問いに対し、「認知から獲得までのマーケティングファネルで中間を担えるのが縦長動画」だと話した。静止画広告は、動画広告に対して情報量が少なくなりやすく、ユーザーに対して商品の魅力が十分に伝わりづらい。つまりキャンペーンの訴求や購入などのコンバージョンへのアプローチ方法が限られてくる。
「縦長動画は、獲得を意識しながらアプローチしたいミッドファネルの攻略部分で、非常に有効だと考えています」(久慈氏)
またコスト面にもメリットが大きい。マス広告の場合はクリエイティブを制作するだけで500~1,000万円程度の予算がかかってくる。それに対し、縦長動画はUGC(User Generated Content:ユーザー生成コンテンツ)などを活用して制作できるため、制作コストが低く抑えられると久慈氏は続けた。
「あるクライアント様は、静止画のみから縦長動画を導入されたのですが、VCLのチームが介入する前後30日間で配信予算を比較すると、約160%の伸長。CPAは約1万円下げつつも、配信量を約2倍できた実績もあります。ですから、縦長動画広告にはかなりチャンスがあると考えています」(久慈氏)
効果的なクリエイティブに重要なのは、素材・編集・効果予測
では縦長動画の中で、どんな要素がクリエイティブに含まれると効果的に働くのだろうか。それに対し服部氏は「パフォーマントクリエイティブ」という指針が出てきたと語った。
「Business as usualとしてやっていたものに、この要素を加えると、より効果が出るとわかってきました」(服部氏)
VCLでは、“素材・編集・効果予測”という3つのステップで、クリエイティブの効果を担保している。まず素材制作のために、2023年にサイバーエージェントが新設した 「極AIお台場スタジオ」を活用。同スタジオはLEDパネルを組み合わせて撮影ができるほか、スキャンシステムやモーションコントロールカメラなどの最先端設備を有している。
動画撮影の際、グリーンバックで撮った後にマスクを切っていくのは非常に骨の折れる作業だ。それをせずとも使える素材を撮影できる点について、服部氏は「革命的だ」と評価。実際、親和性の高い背景を活用した方が、効果が高いこともわかっているという。
「これにより季節や天候に関わらずどんな風景でも撮影できます。たとえばウォーターサーバー企業の商材では、滝を背景に撮影しました。同素材は、CVが通常のものに比べて約270%伸長しました」(久慈氏)
「冒頭3秒」を攻略するには「モジュール化」が有効
次は、編集について。動画には、文字の位置やBGMなど、編集で工夫できる要素が数多く存在する。その中でもVCLでは、動画をモジュール化して捉えることを一番重要視しているという。
「弊社内で制作したパフォーマンスが良い広告を調査したところ、開始3秒時点での平均再生率は約19%でした。逆に言うと、Metaさんに評価され効果が出ている広告でも、80%のユーザーは3秒で離脱してしまうのです。“冒頭3秒の攻略”は、編集では最重要項目です。だからこそ動画を約3秒ごとに切り、CTAでモジュール化することで成果の再現性を高めています」(久慈氏)
意識しているポイントは、続きが気になる仕掛けをどう作るかだと久慈氏は話す。「実行しやすいテクニックとしては、冒頭3秒のSTOPPER部分で『絶対見てね』などの呼びかけをすることです。あとは自分ゴト化させることが重要」だと指摘した。
では実際の事例を見てみよう。写真をアプリで現像できる、ALBUS(アルバス)の事例では、冒頭で推し活をしているユーザーに向けて語りかけている。加えて、勝ちパターンのひとつでもある「制作過程」の型が採用された。同素材は、他の素材に比べ170%もの再生回数をたたき出した。
続けて紹介された事例は玄関から始まる動画。玄関を開けると、段ボール箱があり、その段ボール箱を開けると商品が入っているという構成だ。
「これはメーカーさんなど、商品を作られているお客様であれば使える形です。弊社ではこれを玄関素材と呼んでいます。玄関は『家の中に何があるのだろう』という期待感が醸成でき、入って見てみたい気持ちにさせます。色々な商材で試せる手法です」(久慈氏)
「当たる」クリエイティブを量産できる、効果予測AIの活用ソリューション
3つ目の効果予測については、サイバーエージェントの提供する「極予測」シリーズを中心に語られた。同ソリューションは、効果予測AIを活用することで広告効果が事前にスコア化されるものだ。
中でも「極予測AI」は、現状で配信が一番伸びているクリエイティブと比較して効果を予測。クリエイティブの予測値が芳しくなかったものも、コピーを再考するなどして、より効果が高いクリエイティブに磨ける点もポイントだ。
実際、効果も出ており「極予測AIが人間の既成概念を超えて価値を出している例もある」と久慈氏は話した。
成功の秘訣は、継続的に任せられる企業と組むこと
縦長動画は、よく「チャレンジしてみたけれど全然伸びない」という声が少なくない。その要因について服部氏は「単発でやっても全く効きません。縦長動画を始めるのなら、継続的にたくさんの供給ができる体制を作らなければならないのです」と強調した。
VCLでの制作本数は「今後4倍以上に増やし、担当できる体制を整えている」と久慈氏は話す。またサイバーエースは、「沖縄にクリエイティブ専門の子会社があり、そちらでさらなる制作本数に耐えうる人員を強化している」ことも明かした。
勝ちパターンが見えているとはいえ、縦長動画で成果を出すのは容易なことではない。今から取り組む企業は、覚悟を持って挑まないと難しいだろう。最後に服部氏は次のようにまとめ、同セッションを締めくくった。
「『再生数がなかなか伸びない』と悩まれている企業様は、1回で諦めずに、長期的に計画をたてて、本気で取り組んでみてください。そして、その本気を受け止めて制作を任せられる企業と組むことが、おすすめの方法です。持続的なお取り組み伴走できるパートナーを見つけてみてください」(服部氏)