マーケティングファネルに囚われず、顧客の感情を見るべき
髙口:最後に、これは私から音部さんへの質問でもあるのですが。VUCA時代と言われるように、現代では目まぐるしい変化が日々起こっています。技術の進化が今までになく速いので、模倣されやすく、消費者も飽きやすい状態です。環境や価値観が大きき変化していく中で、ブランドは特定のパーセプションをかたくなに維持し続けるべきと思われますか?
音部:それは悩ましいですね。Productの機能については、日進月歩で進化するテクノロジーが反映されていますが、プロダクトライフサイクルはあるので、長い目で見ると廃れていってしまうことは否めません。一方、ブランドは「意味」なので、言葉の定義が変わるくらいのスピードで変えていけばいいのかもしれません。真髄としてのブランドの意味が明確に構築されていれば、外部環境の変化に左右されないのではないでしょうか。
たとえば、今「(いい意味で)ヤバいブランド」と表現しているとして、10年後に「ヤバい」という表現を同じように使っているとは考えにくいですよね。ただ、ヤバいの真髄は「カッコイイ」なのだと定義できていれば、表層の言葉がホットでもクールでも意味は一緒です。どう表現するかは時代に合わせていけばよいのです。逆に「ヤバい」に執着すると、時代の流れに適合していけなくなるかもしれないですね。
髙口:なるほど。パーセプションの良し悪しは、ブランドや会社の経営を左右するものなので、今の状況を踏まえて、使い方を考え直すと良いですね。人間は感情の生きモノで、どこまでも主観で動きます。パーセプションは、マーケティングやビジネス活動において、切っても切れない重要なパーツでしょう。

音部:そうですね。最後に「パーセプション(認識)」に関する話もしておきましょう。
皆さんご自分の行動を振り返ってみていただきたいのですが、最近買ったモノは、ブランドの名前を認知してから、欲しくなりましたか? それとも、その商品を欲しくなってから、ブランドの名前を知りましたか? 誘導している感が否めませんが(笑)、恐らくその商品を欲しいと思ってから、名前を認知していることのほうが多いのではないでしょうか。
つまり、「私は○○です、好きになってください」という論法は、本当はあまり有効ではありません。認知してから購入に至りファンになっていくという、ファネル構造が一般的ですが、我々人間の実体験はちょっと違っているようにも見えます。
自社ブランドを好きになってもらうべき人に、好きになってもらえるように接するほうが、マーケティングでは効率が良さそうです。そして、そのように消費者の感情をしっかり理解して、感情ドリブンでマーケティングの順番を考えていくほうが、消費者も幸せなのではと思うのです。
髙口:人間である以上、AIがどれだけ進化しても、主観や感情はなくならないでしょう。時代によって、消費行動の順番や位置づけ、重要度合などは若干前後するということを前提としつつ、不変的な本質を捉えられると良いですね。その意味では、音部さんに今日見せていただいたチャートはエッセンシャルなものだと思いますので、この構図を頭に入れて、ご自身の仕事に役立てられると良いかなと思いました。音部さん、今日はありがとうございました!
音部:こちらこそ、素敵なファシリテーションをありがとうございました!
