Advantage+で、広告費用対効果が32%向上することを実証
広告の配信アルゴリズムには、属性データやユーザーの行動内容、クリエイティブなどが複雑に絡みあう。誰に、どのようなコンテンツを届けるのか。そのコンテンツフォーマットやコンタクト方法も重要だ。
セッション冒頭でFacebook Japanの津野氏は、Metaの広告自動化ツールセット「Advantage+」について紹介した。同ソリューションは、新しい機械学習・AIモデルを活用しており、ターゲティングやクリエイティブを最適化。新しい学習を経て最適な広告を適切な顧客に配信することで、広告パフォーマンスを最大化させることができるのだ。
「Advantage+ Shopping Campaign (以下、ASC)を導入することで、様々なパフォーマンスが改善する傾向にあり、広告費用対効果の向上が約32%見込めると調査にて明らかになっています」(津野氏)
ASCと通常配信の掛け合わせで生まれる相乗効果
次にサイバーエージェントにてアルゴリズム研究センターのスペシャリストを務める川添氏は、同社がASCをどう分析し、活用しているのかを述べた。そこで、「ASCと通常配信の予算比率とアカウント予算の関係性」を示すグラフを掲げた。下のグラフは、アカウントの全体予算が目標KPIを達成している前提で、予算額の量を縦軸で示し、予算額のうちASCの予算比率を横軸で示している。
同グラフによると、ASCまたは通常配信のみどちらかで配信することと比べ、通常配信とASC (20%~80%の予算割り振り)が並走している配信設計の方が、広告効果が良いことが見て取れる。
「ASCは最適化に優れたプロダクトですが、ターゲティングの自由度がないなど、万能ではありません。通常配信と比較して、お互いにそれぞれの善し悪しがあるため、並走することで、状態が良くなるのだと考えています。ただ、アカウントごとに適切な予算比率は違うので、それぞれ検証が必要です」(川添氏)
では実際の運用へ、どのように落としこめば良いのだろうか。
全体の傾向としては、並走している状態の方が結果の良かったことがデータから見て取れる。そのため、サイバーエージェントとしては、基本的には並走を勧めているそうだ。とはいえ、ASCだけで非常に効果の出ている企業も存在するので、最終的には顧客ごとにしっかり向き合い、最適な予算配分をすることが重要だ。
機械学習の世界では、“アンサンブル学習”といい、異なるアルゴリズムを混ぜると、よりパフォーマンスが向上する。Facebook Japanの田中氏は「全く違うアルゴリズムを複数用いてその結果を合議制で平均を取るなどすると、その方がパフォーマンス良くなる傾向がある。ASCのテストでも同様のことが起こっていのではないか」と語った。
新しいターゲティングソリューションであるASCは、今までとは違う配信アルゴリズムだ。したがってMetaもASCを始める際、どれほどの予算をASCに配分すべきか研究を重ねていたそうだ。結果、Meta側の調査でも同様の傾向が見られたという。
AIの結果を鵜呑みにしてはいけない。常に検証しながら活用する
AIソリューションが様々な分野に拡大する中で、これからは広告にもAIソリューションがますます増えていくことだろう。しかしAIはあくまでも伴走者であり、すべての代替になることはない。その前提で利用者としての我々が心がけることは「AIソリューションをしっかり理解・使いこなすこと」だと田中氏は話す。ChatGPTでも、ハルシネーション(生成AIがもっともらしい誤情報を生成してしまうこと)があるのは周知の事実だ。だからこそ結果を鵜呑みにしないで使うことが重要だ。
ASCを使用すれば相対的にパフォーマンスが改善することは統計的には明らかになっている。しかし、ASCでどれほどの広告予算を使うべきかはパフォーマンスの改善度に依存するとみられる。「全体ではこのように結果が出ているが、改善の度合については広告主によって異なる可能性がある」と話し、田中氏は広告主自らがテストを実施して検証することの重要性について注意を促した。
「それぞれの広告主様でパフォーマンスが異なるため、最終的には自社にて“何が最適か”チェックをしていただく必要があります。これはMetaのAIソリューションでも例外でありません。技術的にも変化が早いからこそ、自らトライ&エラーすることが重要です」(田中氏)
切磋琢磨する環境が、クライアントへの貢献につながる
サイバーエージェントでは、“Meta×CA 共同研究プロジェクト”と題してMetaと一緒に広告改善に取り組んでいる。たとえば、Facebook Japanはもちろん、Metaの米国本社やシンガポールオフィスなどでプロダクト担当者と一緒にディスカッションを行うほか、サイバーエージェントのコンサルタントによる戦略発表の場で、Meta社員にフィードバック審査員として参加してもらっている。
加えてサイバーエージェントの子会社のクリエイティブ組織であるモノクラムと、サイバーエージェント、Metaでクリエイティブと施策を磨き込むための研究会も進めている。同3社は、施策のアイデア出しから一緒に取り組み、サイバーエージェント、サイバーエースから出た施策アイデアの中で良かったものを共有する場も設置。数多く出されたアイデアのうち、影響度や伸びしろを示唆し、検証や効果測定を行っている。
「“施策のアイデアを出す”といっても、急にぽっとすごいアイデアが出るわけではないので、日頃からのインプットとアウトプットが重要だ」と川添氏は語る。
サイバーエージェントの中で、ホットな話題が「ASCにおけるクリエイティブの多様性」だ。ASCはクリエイティブの疲弊が早いからこそ、バリエーションが重要だ。バリエーションの数を大きくするとよりASCの効果が出る。続けて川添氏は「ASCはクリエイティブとユーザーのマッチング精度が高いので、クリエイティブのバリエーションを増やすということは、より様々なバリエーションで、複数のユーザーに対してのアプローチが可能になるため、効果が出しやすくなる」と話した。
同検証について、田中氏も前向きだ。「クリエイティブのバリエーションを増やせば、CTRが下がるタイミングもずれるので、組み合わせによって総合結果が良くなっていくだろう」と応じた。
AIソリューション時代における、人間の役割とは
終盤で田中氏と川添氏は、これからの広告運用について頭に入れておくべきことを話した。
まず田中氏は、AIの最適な使いこなし方は状況ごとに異なる可能性が高いため、各広告主は自ら実際に利用・検証しながら活用を拡大していくことが重要だと話す。
「まずは一度トライして、その上でうまく操縦する方法を模索するのが良いでしょう。AIソリューションをしっかり理解して使うためには、トライ&エラーを繰り返すことが肝心です」(田中氏)
川添氏は、AIを活用しても、クリエイティブの制作や予算のアロケーションといった運用の重要性は変わらないと述べた。「ASCは運用の一部が自動化されていますが、“クリエイティブの疲弊が速ければ、よりそこに注力する”など、判断して実行するのは人間ですから」と話し、同セッションを締めくくった。
サイバーエージェントとサイバーエースでは、教育、通信、コスメ、BtoB、アプリ、食品、コンプレックス、クリニックなど、幅広い企業に対し、ASCも含めた様々なプロダクトの広告配信・検証を実施している。特にクリエイティブにおいては、バリエーションを増やすため、サイバーエージェントの極予測AIを活用。様々な予測・効果を加味した配信を短期間で実現している。
同社は今後、業種やソリューションを増やし、顧客企業ごとに適切な施策の提案をすることで、広告効果の最大化を図っていくという。「ASC含め、Meta広告における重要ソリューションの攻略に尽力する所存です。引き続きASCの研究と効果的な配信に取り組み、お客様の成長に貢献してまいります」と担当者は意気込みを話した。