ポジショニングにとらわれると衰退する理由
西口:今のファミレスの話のように、いち生活者として考えると「価値を成立させるWHOとWHATの組み合わせ」がたくさんあると理解できるのですが、なぜか企業側の立場になると「自社プロダクトの顧客は1種類」だと勘違いすることが多く起きています。マーケターの中にも、「うちのプロダクトのポジショニングは○○だから、顧客はこんな人」と思い込んでいる人が少なくありません。
その大きな理由は、やはり顧客を平均値やマスで捉えているからだと思います。そして、STPや3C分析や4Pから入ってしまうと、マス思考につながりやすいのです。それに留意してSTPや3Cを参考として使うならある程度は有用ですが、特にマーケティング初心者は気を付けたい点です。また、「うちのプロダクトのポジショニングは○○だから」という部分にも、注意が必要です。
MZ:ポジショニングを考えることに、リスクがあるのでしょうか?
西口:ポジショニングにこだわって狭義に捉えすぎる、つまり「うちの企業は/プロダクトは、こうだから」と思い込むと、顧客層が狭まります。すると、その狭い顧客層に求められている現状を変えようとしなくなり、市場が小さくなり、その悪循環でニッチ化します。
ブランドやプロダクトを長期にわたって継続的に育成するための「ポジショニング」は、狭義の絞り込みではなく一定の枠や幅として捉えないと、不必要にニッチ化・保守化してしまいます。結果、ますます実際に顧客が見出している価値から離れてしまうのです。
広告訴求の絞り込みを意味する「ポジショニング」とは意味が異なるのですが、ここを誤解した結果、そのように衰退していったブランドやプロダクトは、実はたくさんあります。
顧客も、顧客が見出す価値も、変わり続ける
MZ:自社のポジションにとらわれた結果、衰退する……なんとなくイメージできるような気がします。
西口:典型的なケースは、過去のロイヤル顧客の平均値や合計値を見続けてしまうことです。
ロングセラーと呼ばれる、何十年も売れ続けているブランドは、企業がずっと変えずに販売しているように見えますよね。でも、必ずその時代その時の中心的な顧客に、あるいは次の中心になるであろう新しい顧客に合うように、プロダクトの訴求や提案を微調整して続けています。だからこれだけモノやサービスがある中でも生き残っているわけです。顧客の内訳を見れば、長く買い続けている人から昨日今日に顧客になった人まで、グラデーションがあるはずです。
第6回で、ルイ・ヴィトンがアーティストの村上隆氏とコラボした話をしましたが、同じように革製品ブランドのコーチも、ポジションを刷新していく例として注目しています。過去を否定するような展開は既存のロイヤル顧客の反発を受けるので、このリスク回避とバランス確保は重要ですが、歴史を踏まえながら常に新しい価値の提案に挑戦している印象です。2024年2月には、原宿に大きな体験型コンセプトストアをオープンしたそうですね。
これがうまくいくかどうかはわかりませんが、このような提案をせずに、ロイヤル顧客のために昔ながらのイメージを後生大事に守り続けていては、新規顧客は獲得できず、ロイヤル顧客の自然離反で顧客基盤は衰退します。このような状態に陥るブランドやプロダクトも多いですね。
MZ:なるほど。「うちはこうだから」と決めつけてしまうと新しいことをしづらくなり、やがて廃れてしまうのですね。
西口:そう思います。顧客の状況や、あるいは社会の環境や技術が変われば、その気持ちや求めるものも変わります。それでロイヤル顧客がブランドを“卒業”していっても、気づかないことも多いです。
どんな分析手法を使うにしても、企業目線になっていないか、常に顧客層の違いとその動態を確認することが大事です。
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