日本企業のAI活用率は10%程度
今回ご紹介する書籍は、『AIドリブン経営 人を活かしてDXを加速する』(日本経済新聞出版)。著者の須藤憲司氏は、これまで数多くの企業のDX支援をしてきた起業家です。
そんなDXの伝道師とも言える著者でも、今回の生成AIの登場には「未来から『ドラえもん』がやってきたほど」の衝撃を受けたそう。そして「これまで私自身が経験してきた様々なイノベーション、たとえばインターネットや検索エンジン、スマホ、SNSなどを遥かに超えるインパクトをもたらす」と予測しています。
しかし、日本企業における生成AIの利用率はまだ10%程度(出典:矢野経済研究所『国内生成AIの利用実態に関する法人アンケート調査』2023年12月)とされており、まだまだ取り入れられていないのが現状です。
この状況に対して著者は、「今からAIを中心に置いた業務プロセスを構築し、競争力を高めておかなければ、コスト競争の観点でライバル企業に勝てなくなってしまうリスクが高い」こと、そして「誰かに出し抜かれてしまう前に、自分たちが成功させないといけないというチキンレースに乗らざるを得ない」と指摘します。
特に、マッキンゼーのレポート「生成AIの経済的可能性:次の生産性フロンティア」(2023年6月)では、AIがビジネスにもたらす経済的価値の75%は、「営業」「マーケティング」「顧客対応業務」「エンジニア」の4つの機能に集中すると予測されており、MarkeZine読者の方々にとっても、AI活用は喫緊の課題と言えるでしょう。
「AIを中心に再設計する」発想の転換が必要
いざAIを導入するとなると、まずは既存の業務プロセスにAIを組み込もうと考える人がほとんどなのではないでしょうか。しかし、「それでは改善効果が低く、AIの力を120%活用できているとは言えない」と須藤氏。これからの時代は、AIを中心に業務プロセスを再設計し、残る業務を人間が引き受けるという「AIドリブン」な発想への転換が求められているのです。
本書では、AIドリブンな事業変革を成功させるためのステップが具体的に解説されています。その中から、AIが力を発揮するポイントである「AI活用のヘソ」を探すための5つの切り口をご紹介します。
- 収益・価値を高めるレバーはどこか:ユーザーの課題を解決し、自社の利益と価値向上につながるAI活用を考える
- 新しい顧客を呼び込めないか:新規顧客獲得にインパクトを与えるAI活用を考える
- 提供サービス提供価値を前後に広げられないか:カスタマージャーニーや業務フロー全体でAI活用を考える
- 問題の根っこはどこか:問題の根本原因を特定し、AIで解決する方法を考える
- 労働集約的になっている業務は何か:労働集約的な業務をAIで効率化する
また本書には、生成AI導入による効率化が期待できる職種別の活用ケースが紹介されています。「マーケティング/CS」の場合は、コンテンツ生成(広告コピー・SNS投稿・ニュースレターなど)、ジャーニー施策検討(イベント・キャンペーン・顧客調査手法・販促施策のアイデア出し/たたき台作りなど)、顧客対応(FAQ・ユーザーガイド・レビュー応答のスクリプトの生成など)といった業務が挙げられており、AI導入によって広告制作業務の時間と労力を大きく節約できることがわかります。
AIドリブンの時代を生き抜くための力
AIが多くの業務を担うようになる中で、私たち人間はどのような能力を磨くべきでしょうか?
著者は本書でマーケティング分野を例に挙げ、「AIはデータ処理やパターン認識は得意だが、新たなビジネス機会の発見や消費者ニーズの深い理解は人間のほうが優れている」と指摘しています。つまり、AI時代にマーケターが生き抜くためには「独創性」や「洞察力」といった人間ならではの能力をさらに高める必要があるのです。
また著者は、AI時代を生き抜くための根源的な力として、「好奇心」と「好きを感じる力」を挙げています。「なぜ?」と疑問を持ち、好奇心を膨らませて好きなことに没頭する。それは、私たちが子どもの頃に持っていた「ワクワク」する感情を取り戻すことなのかもしれません。
そもそもAIと向き合うことに「ワクワク」と感じて好奇心を持つのか、「怖い」と感じて保守的な感情にとらわれるのか。その違いが、AI時代を生き抜く上での分かれ道になるとも言えるでしょう。
本書は全5章で構成されており、生成AIの基礎知識から未来予測、市場の変化、事業変革の方法、AIドリブンな組織作り、AI時代を生き抜くための心構えまで、幅広いテーマを網羅しています。経営者だけでなく、マーケターや事業担当者にとっても、AIの情報をキャッチアップし「AIドリブン経営」を実現するための具体的な方法論を学べる貴重な一冊です。