「そもそも分析できる状態になっていない」データ活用の現状
関口:本日は国内の流通企業(小売・メーカー)におけるデータ活用をテーマに話していきたいと思います。まず、現状と課題を整理しましょう。
私は「データが分析できる状態に整理されていない」ケースが多々あると感じています。これではいかに優れた技術を持っていても、良質な分析を行うことは難しいでしょう。時間に制限がある場合、データ分析の仕事の約8割はデータの取得・整理に費やされ、実際の分析には2割程度しか時間が割けないと言われています。
萩原:データが整理されていない問題は、僕も日々感じています。商品データを例にあげると、同じ商品でも、仕入れ先が変われば、メーカーは商品コードを変えてしまうケースが多いもの。つまり、消費者はこれまでと変わらない商品を購入しているのに、メーカーが管理しているID-POSデータ上では別物として捉えられている。それまで10万個売れていた商品でも、データ上は売上がゼロになってしまうなんてことが普通に起きているのです。
関口:そのような状態では近年重要性が高まっている「デマンドチェーンマネジメント」への対応も難しいだろうと思います。日本は長きにわたってサプライヤー(メーカー)の視点で、いかに効率的に製品を作り、売っていくかに重点を置く「サプライチェーンマネジメント」の考えが浸透してきましたが、消費者の視点で、いかに顧客のニーズを満たすかに重点を置く「デマンドチェーンマネジメント」の重要性が増し、「デマンドチェーンマネジメント」で得られた顧客ニーズの情報を「サプライチェーンマネジメント」に戻して分析する流れが生まれています。
ただ、萩原さんが説明された商品データ管理の状態では、消費者のデマンドを正確に把握することは難しいと思います。
萩原:そうですね。整理されていない状態から、データ分析に本気で取り組もうとすると、かなりの手間がかかるのが現実です。そこにいかに真剣に向き合えるかだと思います。
組織の垣根を超えた連携がより必要に
関口:業界構造の問題もボトルネックになっていると思います。メーカーと消費者の間には卸や小売が介在しているため、メーカーから消費者の顔が直接見えないことがあります。また、組織内を見ても、分業化が進んだ結果、部門の壁を越えてデータがマネージされていないケースがあります。データという観点から見ると、他部門と横断的に連携する機能が不足しているなと。
それぞれの範囲では分析が非常に進んでいることが多いと感じます。ただし、それだけでは期待できる効果は限られたものになると思います。業界全体で見て最適化や効率化を進めるとなると、企業や部門の垣根を超えた連携が必要です。
たとえばメーカーと小売の関係でいうと、個人情報の取り扱いなど様々な問題を除いた範囲で、可能な限り情報を共有し、メーカーが持つ商品情報と小売が持つ顧客情報を掛け合わせることで新たな可能性を生み出せると考えています。